
ユーザー・インターフェースを一新し
パッチ作成の効率がアップ
Maxはメジャー・アップデートのたびにユーザー・インターフェースが大きく進化している印象ですが、今回も“完全リニューアル”と言ってよいレベルの変更が加えられています。外観は落ち着いた配色のフラット・デザインが採用され、モダンな印象。パッチ画面で特徴的なのは4辺に付いたツール・バーです(メイン画面)。主に、上端は素早くオブジェクトを配置できるオブジェクト・パレット、左側は膨大な数のオブジェクトを一覧できるオブジェクト・ブラウザー、右にはインスペクターやリファレンスを表示するサイド・バーのセレクター、下にはパッチ編集に関連するオプションというレイアウトになっています。左のブラウザーでは通常のオブジェクトだけでなく各種メディア・ファイルやプラグイン、後述するスニペットやBEAPモジュールなども一覧できます。ちょっとユニークなのは右のカレンダー。日付ごとに開いたファイルの履歴が残っており、“先週見つけてすごく参考になったサンプル・パッチどれだったかな……”なんてときに役立ちます。全体的にかなりユーザー・インターフェースを練ってきた印象で、非常に使い勝手が良いです。
パッチ作成を補助してくれる新機能としては、“スニペット”“スタイル”が装備されました。スニペットはパッチの定型的な一部分を登録しておき必要に応じて呼び出す機能、スタイルはオブジェクトのカラーやフォント設定などを一発で適用する機能で、パッチ開発の効率アップが期待できそうです。
Maxがモジュラー・シンセに!
Max for Liveデバイスも読み込み可能
BEAPは、Maxをアナログ・モジュラー・シンセのように使うためのGUI付きモジュール・ライブラリー。170種類ほどのモジュールが用意されており、アナログ・モジュラー・シンセ同様CV/Gate信号を基本としたパッチングが可能です(画面①)。

実際に使ってみるとMaxであるということを忘れそうになるくらい、すっかりモジュラー・シンセ感覚。個々のモジュール内部は実はMaxで作られており、パッチ・コードもMaxのオーディオ・シグナル用コードなので、通常のオブジェクトと組み合わせて使うこともできます。また、標準的な1V/OctのCV信号をエミュレートしているため、オーディオI/Oを介して外部のハードウェア・モジュラー・シンセと接続することも可能とのこと。Eurorackが盛り上がりを見せている昨今、コンピューター上のモジュールと現実のモジュールを接続して使えるというのは、新しい可能性が広がりそうです。
従来、Max for Live(ABLETON Live上でMaxのパッチをプラグインとして使う機能)で利用されるMax for Liveデバイス(.amxd)はLiveでしか使えず、また編集もLiveからエディターとしてMaxを呼び出すときのみという制約がありましたが、Max 7では直接パッチに組み込んだり編集できるようになりました(画面②)。

MaxとLiveを併用するユーザーは、自作のパッチをMax for Liveデバイスとして作成しておけば両方で利用できますし、Liveを使っていないMaxユーザーにとっても、ネット上で入手できる豊富なデバイスが使えるのは魅力的だと思います。個人的にも大量の自作デバイスがあるので、非常に便利になりました。これで従来から読み込めるVST/Audio Unitsと併せて3種類のプラグイン形式に対応した形となり、それらを自由に接続できるプラグイン・モジュラー的な使い方もできると思います。
一気に充実したリアルタイムの
ピッチ・チェンジ/タイム・ストレッチ機能
Max 7では新たに強力なオーディオ処理機能が追加されました。その機能とは、ピッチ・チェンジ/タイム・ストレッチ。従来はグラニュラーやFFTを応用して自分で作りましょうね!というノリだったのですが、今回のアップデートでオーディオ再生オブジェクトの[groove~]や[sfplay~]にリアルタイムのピッチ・チェンジ/タイム・ストレッチ機能が内蔵されました。音質/性能も一般的なDAWに装備されているものとそん色なく、音源に応じたアルゴリズム選択やクオリティ選択も可能です。
既存オブジェクトの機能拡張だけでなく、強力な新オブジェクトも追加されており、例えば[retune~]というオブジェクトではいわゆるANTARES Auto-Tune的なリアルタイムのピッチ検出/補正まで可能。一気に充実した印象です。また、これらの新機能を取り入れたMax for Liveデバイスも多数付属しているので、すぐに音楽制作に役立てられます(画面③)。
![▲画面③ Max 7に付属するMax for Liveデバイスの一つ、Autotuna。名前から想像が付くようにピッチ補正を行うデバイスで、内部では新オブジェクト[retune~]が使われている](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220908/20220908113200.jpg)
便利なオーディオ・プレーヤーを搭載
クラッシュ時のリカバリーにも対応
Max 7にはほかにも便利なオブジェクトが追加されています。[playlist~]はグラフィカルなオーディオ・プレーヤーで、SoundCloudのような波形表示と再生ボタンがセットになったインターフェースで音源の再生を行います(画面④)。
![▲画面④ 便利なメディア・プレーヤー[playlist~]は、複数のオーディオ・ファイルを一度に扱え、再生範囲を指定したりループ再生もできる](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220908/20220908113214.jpg)
複数のオーディオ・ファイルを並べて表示でき、いわゆるポン出しなどはこのオブジェクト一つでできちゃいます。使い方も簡単で、パッチ編集画面にオーディオ・ファイルをドラッグ&ドロップ(複数ファイルに対応)すると、そのファイルがアサインされた状態の[playlist~]がパッチに置かれるという具合です。しかもアサインされたファイルの情報はパッチとともに保存されるので、次にそのパッチを開いたときは既に再生待機状態となります。
従来のMaxでこれと同じようなパッチを作ろうとするとかなり複雑になったはずです。オーディオ・ファイルの再生はパッチ作成ではかなり頻繁に必要になる機能ですから、この手軽さはありがたいですね。ちなみにJitterの方では同様にビデオ・ファイルを扱う[jit.playlist]が追加されています。
そのほか、地味にうれしい新機能としては“クラッシュ・リカバー”が付きました。Maxがクラッシュしてしまって立ち上げ直したとき、最後に編集中だったパッチを復元してくれます。できればお世話になりたくない機能かもしれませんが、クラッシュで失われたパッチを記憶を頼りにもう一度作ったら、何か違う……ということは皆さん経験あると思いますし、やはり心強いですね。
Max 6ではGenのように開発者向けのコアな機能が充実した印象がありましたが、Max 7ではよく練られたユーザー・インターフェースとともに、実用性/柔軟性が大きく強化されたように思います。特にBEAPは、モジュラー・シンセの知識があれば難なく使いこなせるようにデザインされており、Maxの使い方に新たなレイヤーが加わったと言えそうです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年5・6月号より)