「TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARE Sonar Platinum」レビュー:操作性を高めDSDにも対応したWindows用DAWソフトの最新版

TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARESonar Platinum
ギタリストの五陸 守です。TASCAM PROFESSIONAL SOFTWAREからWindows専用のDAWソフト、Sonarの最新バージョンがリリースされました。Sonar Platinum(価格は上記)、Sonar Professional(オープン・プライス:市場予想価格27,777円前後)、Sonar Artist(オープン・プライス:市場予想価格14,444円前後)の3つのグレードがラインナップされていますが、今回は最上位のSonar Platinumについてレビューさせていただきます。

複数のボーカル・トラックの
発音タイミングをそろえるVocal Sync


ソフトを起動させてみると、デフォルトの画面は前バージョンのSonar X3とほぼ変わりません。パッと見た感じでは、コントロール・バー(後述)のデザインが少し変わったくらいなので、特にSonar Xシリーズ以降のユーザーにとっては取っつきやすいものになっています。早速、新機能を見ていきましょう。まずは“VocalSync”。これは複数のボール・トラックのリズム(タイミング)をそろえるためのエフェクトで、コーラスをメイン・ボーカルのタイミングとシンクロさせるような使い方が可能です。タイミングの修正に必要だった波形編集などの手間が省けるわけですね。操作方法は至って簡単。まずはタイミングの基準となるボーカル・トラックを指定します。次に、タイミングを合わせたいトラックで調整すべきオーディオ範囲を選し、“RegionFX”(特定範囲を処理するエフェクトのカテゴリー)からVocalSyncを起動。選択範囲をガイド・トラックに対してどの程度の強さで処理するか調整します。それが済んだらVocalSyncのレンダリング・ボタンを押して処理を完了(画面①)。これでオーディオ・クリップが更新されます(画面②)。 

VO1 ▲画面① VocalSync(画面右下のワンノブ・エフェクト)の使用シーン。画面では、上段のトラックのタイミングに合わせて、下段のトラックの補正を行おうとしている。まずは上段トラックの操作メニューから“デフォルトのVocalSyncガイドトラックに設定”を選択し、タイミングの基準として指定。次に、下段トラックの補正したい部分を選択し(左のクリップ)、Region FXからVocalSyncをロードする
VO2 ▲画面② 下段左のオーディオ・クリップは、VocalSyncによってタイミング補正されたもの。画面①と比較すれば、波形が少し変化している。VocalSyncではノブを回して補正の度合いを調整し、その後ノブ下の“レンダリング”ボタンを押すと、設定した度合いに基づいてオーディオ・クリップが更新される。なおVocalSyncはRegion FX専用のエフェクトで、トラック・インサートでは使用できない
VocalSyncは歌に対しての使用が想定されていますが、楽器を録ったオーディオ・トラックにも有効なので、実際にチェックしてみました。例えばギター・トラックに使う場合は、リード・パートのハモりやツイン・リードのタイミングをそろえる用途に便利です。リード・ギターをハモらせようとすると、どうしてもリードとハーモニーのパートで運指がまちまちになってしまいますが、それによって生まれる微妙な発音タイミングのズレを修正できるわけですね。もちろんバッキングを重ねたときのズレを修正することも可能なので、制作時間の短縮につながります。ここで使用上の注意点を一つ挙げておきます。VocalSyncではクリップのタイム・ストレッチを行うことで、タイミングを合わせています。なのでガイド・トラックと処理したいトラックのタイミングがあまりにもズレていると、良い結果が得られないわけです。VocalSyncがあるからと言って、いい加減な演奏/歌唱はNGです! ただし複数クリップに対して、タイム・ストレッチなどの編集をすべて手作業で行うと手間と根気を要するでしょうから、やはり便利なエフェクトと言えますね。

ミックスに必要な各種設定を
シーン保存できる“ミックス・リコール


次にミックス・リコール機能について解説します。これはデジタル・ミキサーのシーン・メモリーのような機能。ミックスにおける各種設定をシーンとして保存できるので、さまざまなアイディアを試し、それらを比較しながら作業を進められます(画面③)。シーンの中で保存できるものはフェーダー・ボリュームやパン、ミュートのON/OFF、各種オートメーション、MIDIコントロール(MIDI CCパラメーターやベロシティ、ピッチ・ベンドほか)、サラウンド・コントロールなど多岐にわたります。 
MIXRECALL ▲画面③ ミックス・リコール機能で保存した各種シーンは、プロジェクト画面右上のプルダウンから呼び出せる。画面では、CDなどの音源用ミックス/イベント・スペースなどでのデモンストレーション用ミックス/生演奏と合わせるための同期用ミックスの3つを表示
僕は楽器のデモンストレーションなどを行う際に自身のギター・インスト曲を使っているのですが、その都度、お客さんの前で演奏するギター・パートを抜いたカラオケ音源を作っています。この作業にミックス・リコールを使うと効果的。楽曲の冒頭にカウントを加え、自らの演奏パートをミュートしたシーンを用意しておけば、それに切り替えるだけでデモ用のカラオケ音源になるからです。またバンドでライブをするときは、打ち込みのストリングスやピアノを同期音源として鳴らしつつ演奏しています。この場合も、不要なパートをミュートしクリックを足したシーンを作っておけば良いのです。これらのプロセスを1つのプロジェクト内で完結できるのがミックス・リコールの最大の利点でしょう。これまでは同期音源を作る際、プロジェクト自体をコピーし別途ミックスしていたので、かなり効率が上がりました。1つのプロジェクトをさまざまな形でエクスポートする人には、大きな助けとなるでしょう(画面④⑤)。 
MIXRECALL4_1 ▲画面④ ミックス・リコールで保存した音源用ミックスの一部。最も左のクリック・トラックはミュートされており、そのほかのギター・トラックに関してはリード/ハモり/バッキングのすべてが音の出る状態となっている
MIXRECALL4_2 ▲画面⑤ ミックス・リコールでデモンストレーション・イベント用のシーンに切り替えると、最も左のクリックが音の出る状態に。その右に2つ並んだリード・ギターがミュートにされているのは、筆者がオーディエンスの前で実際に演奏するパートであるからだ

最高11.2MHzのDSD書き出しに対応
ProChannelにリバーブを新搭載


Sonar Platinumの大きな特徴として、DSDファイルのインポート/エクスポートへの対応が挙げられます。最近はいわゆるハイレゾ音源の配信がより一層盛んになり、対応オーディオ・プレーヤーなども普及しつつあります。クリエイターとしては、今やアグリゲーターを介し個人でハイレゾ音源を配信することもできるため、DSDへの対応は注目すべき進化です。ちなみにSonar PlatinumでDSDファイルを書き出す場合、形式はDSF/DIFF、サンプリング・レートは2.8MHz(CDクオリティである44.1kHzの約64倍!)、5.6MHz(128倍!!)、11.2MHz(256倍!!!)が選択可能(画面⑥)。クラシックやジャズなど楽器のリアルな響きを重視した音源の制作にはもちろん有利ですが、“CDクオリティにコンバートしたときに音質が変わってしまう”というロスも無くせるわけです。今現在DSD音源に触れていないという作り手にとっても、これからは避けて通れない部分でしょう。 
DSD ▲画面⑥ オーディオの書き出し画面。上の方に見える“ファイルの種類”欄でDSDを選択すると、画面下のサンプル・レート欄で2.8/5.6/11.2MHzの3つのレートが選べる
そのほかの新機能も見ていきます。ソフトが新しくなると、操作方法への慣れなどに不安を覚えるものですが、その辺りも含めてチェックしてみましょう。まずはコントロール・バー。Sonar X3でもトランスポートや操作ツールといった各種モジュールの表示/非表示/並べ替えなどが可能でしたが、今回はモジュールのサイズ変更や折りたたみが行えるようになりました(画面⑦)。よく使用するものやリアルタイムでチェックしたいものだけ表示させ、残りは非表示にするのもアリでしょうし、シンプルな小型の表示にしておいても良いでしょう。折りたたんだ状態のモジュールはクリックするとパラメーターが表示されるので、省スペースながら扱いやすくなったと言えます。 
Control_Bar ▲画面⑦ コントロール・バーのミキサー・モジュールを開いたところ。選択中のトラックの各種ボタンが出ている
インストゥルメント/オーディオ・トラックに標準搭載のチャンネル・ストリップProChannelには、新しいモジュールとしてインサート仕様のサンプリング・リバーブRematrix Soloが追加されました(画面⑧)。起動させてみるとプリセットが豊富です。こうした選択肢の多いエフェクトを初めて扱う際は、思い通りのサウンドを作るのに慣れを要するものですが、Rematrix Soloは設定方法がシンプルで、すぐに好みの音へアクセスできます。 
REV ▲画面⑧ ProChannelに新規搭載されたサンプリング・リバーブRematrix Solo

MIDIをオーディオのようにストレッチ可
Addictive Drumsの最新版が付属


僕が注目した新機能には、MIDI編集機能の強化も挙げられます。MIDIクリップをオーディオ・クリップのようにストレッチさせられるようになったのが非常に興味深いです(画面⑨)。ちなみに従来から搭載されていた“AudioSnap”機能は、オーディオのクオンタイズやBPM検出が行えるもので、オーディオをMIDIのように扱えます。今回ブラッシュ・アップされたMIDI機能とAudioSnapをうまく使い分けることで、編集の幅が広がるでしょう。 
MIDI_1 ▲画面⑨ 上段のMIDIクリップの長さを画面右の黄色いカーソルで縮めると、下段のクリップに。フレーズはそのままに長さを変えられるため、オーディオ感覚でMIDIを扱える
またDrawツールに新たに追加された“パターン入力”という機能も実用性が高そう(画面⑩)。コピーした範囲を単にペーストするのではなく、ペンキを塗っていくように自由な長さ/回数で張り付けていけるのです。これもまた従来のコピー&ペーストと使い分けることによって、作業の効率化が図れると思います。
PATTERN ▲画面⑩ Drawツールのメニューには新たに“パターン入力”が追加された
前バージョンのSonar X3 Producerでは当初、XLN AUDIOのドラム音源Addictive Drumsがバンドルされていましたが、Sonar Platinumでは最新のAddictive Drums 2が付属(画面⑪)。先述のMIDI編集機能と合わせて、よりハイクオリティなドラムを手にすることができます。またギタリストのパートナーである高品位なアンプ・シミュレーターOVERLOUD TH2 Producerやピッチ補正ツールCELEMONY Melodyne Essentialも引き続きバンドル。Sonar X3から引き継いだ機能としては、複数のテイクから良い部分をつなぎ合わせて1つのトラックに仕上げられる“コンピング”にも要注目です。 
DRUMS ▲画面⑪ 付属のドラム音源、XLN AUDIO Addictive Drums 2。Addictive Drumsの最新バージョンであり、倍音成分をコントロールできるモジュールTone Designerやサウンドにアタック感を与えるエフェクトTape & Shape、各打楽器のベロシティ・カーブを調整できるResponseなど、新たな機能が実装されている
Sonar Platinumを一言で表すなら、Sonar X3の基本的な機能は押さえつつ、操作性が上がったという印象。よりかゆいところに手が届く仕様で、作業方法の幅が広がるでしょう。また購入に関しては“メンバーシップ制”の導入により分割払いなども可能となり、古いバージョンのユーザーにとっても、新規ユーザーにとっても手が届きやすいものに。“なんて良心的なんだ!”と感嘆してしまいました。Sonarに慣れ親しんできた方にはもちろんですが、今から導入を検討されている方にもぜひ使っていただきたい、そんなソフトへとさらに進化しました。(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4・5月号より)
TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARE
Sonar Platinum
オープン・プライス(市場予想価格:61,111円前後)
▪Windows:Windows 7(SP1/64ビット SP1)/8(32/64ビット)/8.1(32/64ビット)、2.6GHz以上のAMD製またはINTEL製のマルチコア・プロセッサー(クロックが変化するCPUでは最低動作クロックが条件を満たしている必要あり)、4GB以上のメモリー、5GB以上のディスク空き容量(20GB以上を推奨)