
8chのアナログ入出力を装備
マイクプリは単体機に匹敵する質
IOSは、イーサーネット(LAN)ケーブルでパソコンと接続するMac/Windows対応オーディオ・インターフェースです。また前述したように、内蔵のサーバーによって、パソコンのCPUに負荷をかけずにWAVESプラグインを駆動させることができます(サード・パーティも対応予定)。僕は作曲からミックスまでPRESONUS Studio Oneを使用しているのですが、僕のようにVSTなどを使用するネイティブ環境のクリエイターにとっては待ちに待ったシステムであり、プラグイン使用時のCPU負荷の大幅な軽減が期待できます。
まず基本スペックですが、アナログ入出力は8イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)/8アウト(フォーンおよびD-Sub 25ピン)で、デジタルもS/P DIF(コアキシャル)とAES/EBU(XLR)の2系統を用意。さらに独立してボリューム調整が可能な2つのヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)を搭載。現状は24ビット/96kHzに対応で、内蔵されたINTEL Core i3ベースのサーバーがプラグインを駆動させます。イーサーネット端子は計4つ装備しており、Mac/Windowsはもちろん、複数のDigiGrid製品を接続することによって入出力の拡張も可能となっています。
今回はWindows環境にてStudio Oneを立ち上げ、実際に制作中のデモ曲のセッションを立ち上げてチェックしてみました。本機にはDIGICO SD-Rackと同じマイクプリが8基搭載されているとのことで、まずは筆者所有のダイナミック・マイクTELEFUNKEN M80をつないでみます。M80をIOSのアナログ入力に直結し、事前に作成しておいたトラックに乗せて歌をレコーディングしてみました。M80はワイド・レンジとガッツのある中低域が特徴ですが、録音したものを聴いてみると立体感がしっかり出ていて、マイクの持つ特性を際立たせてくれる印象。色付けが無い非常にクリアな音質で、母音の立ち上がりも速く、単純に“歌っていて気持ち良い”と感じられるスムーズな感触です。細かなニュアンスまで拾ってくれるので、単体マイクプリに十分匹敵するクオリティだと思います。
次にエレキギターを接続し、WAVESプラグインをかけ取りする方法でレイテンシーをチェックしました。付属のマネージメント・ソフトSoundGrid Studio(画面①)を立ち上げ、そのMIXERセクションにあるインサート・スロットにギター・アンプ・シミュレーターGTRを立ち上げてみます(プラグインの使用にあたっては、別途そのプラグインのライセンスが必要)。

イメージとしては、IOSに入力された音声信号がDAWに流れる手前にSoundGrid Studioがあり、そこでエフェクトをかけている感じです。僕も含めて、ギタリストは周りが思う以上にカッティング時などのピッキングのニュアンスに敏感なので、レイテンシーに関してはすごくシビアなのですが、演奏していてもレイテンシーが全く気にならないレベルで、ほぼ体感的には遅れが無いと言ってもいいです! ストレスフリーかつスムーズな制作を手助けしてくれることでしょう。録音/再生時のアウトプットに関しても非常に素直な音質で、こだわりを感じる秀逸なDAコンバーターです。
ネットワーク内でのI/Oだけでなく
パソコン同士の信号もルーティング可
次は、Studio One上でIOSを使ってプラグインを立ち上げてみましょう。この場合、まずStudioRack(画面②)というプラグイン形式の付属ソフトをStudio One上の任意のトラックにインサートします。

そのStudioRackの中で、IOS上で処理を行うプラグインをアサインするという形になります(こちらも使用プラグインには別途そのライセンスが必要です)。StudioRackを立ち上げると画面上に8つのスロットが現れます。そのスロットにエフェクトを立ち上げることによってプラグインが使用可能。試しにチャンネル・ストリップ・プラグインSSL E-Channelをドラム13trを含む全21trに立ち上げてみました。普段のネイティブ環境では結構重くなってしまうのですが、全く重さを感じず、ぜいたく極まりない見事なセッティングが完成しました!! また、StudioRackに立ち上げたWAVESプラグインは、IOS内のサーバーによるプロセッシングのほか、ボタン一つでコンピューターのCPU負荷に切り替えることもできて便利です。
続いて、IOSの力を最大限に引き出す鍵となるSoundGrid Studioをもう一度見てみましょう。先ほども触れたMIXERセクション(画面③)では、入力信号やDAWのプレイバックをネットワーク内にあるDigiGridシリーズへ自由にルーティングすることができます。

こういったソフトは細かい設定やルーティングができる分、使い方がややこしいことも多いのですが、このSoundGrid Studioはアイコンを使った直感的なデザインで非常に分かりやすく、ルーティング作業も簡単。また接続されたDigiGridシリーズのフロントおよびリア・パネル画像を表示するページがあり、各種設定が行えます(画面④)。

例えばチャンネルのボタンをクリックすると“このチャンネルはこの端子から音が出るよ”という感じで印が表示されてくれるので、パッと見てケーブルを接続するべき端子が一目りょう然です。PATCH画面はさらに分かりやすいグリッド状になっていて、チャンネルとI/Oのルーティングが簡単に行えます。使い手の気持ちがよく考えられていますね!
最後に本製品で一番驚くべきは、DigiGrid製品だけでなく複数のパソコンを接続してネットワークを組めるということ。筆者もよくあるのですが、例えばStudio Oneで作成したデータを違うパソコンのAVID Pro Toolsでミックスする場合、今までならば一度オーディオにパラ・データとして書き出し、USBメモリーやハード・ディスクへ移してから移送先のDAWへ流し込むのが一般的でした。しかし、IOSに複数のパソコンを接続することによって、あるパソコンのDAWから違うパソコンのDAWへ信号をネットワーク経由で流し込むことが可能なのです。この機能を応用すれば、例えば“Studio Oneで作業をしているけど、Pro Toolsのエフェクトをどうしても使いたい”といった場合も、フレキシブルに対応することが可能となります。これはアレンジャーやエンジニアにとって非常に革新的なことで、今まで以上にDAW同士の壁を取り払ってくれる、新世代の機能。アイディア次第で使い方は無限大です!
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音質、レイテンシー、プラグイン負荷という録音環境でのテーマをすべてハイレベルでクリアしている、まさに革新的と言っていいこのIOS。プレイヤー、アレンジャー、エンジニアの創作意欲をわき立てることは本当に大切だと思いますので、本機の登場は新しいステージの幕開けとなるでしょう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)