「TASCAM DR-44WL」製品レビュー:Wi-Fiリモート機能付きXYマイク内蔵の4tr録音対応レコーダー

TASCAMDR-44WL
近年、ハンディ・レコーダーはより高機能、小型化へと進化を続けている。そんな中、デジタル・レコーダーを積極的にリリースしているTASCAMから発表されたのは、DR-44WLという新作だ。どのような進化を遂げたのか、大変興味深い。早速テストしてみよう。

最高24ビット/96kHzの収録に対応
スマホでのリモコン操作が便利

本機は、ハンディ・レコーダーとしてはやや大きめでがっちりとした筐体を持つ。内蔵マイクは単一指向性のユニットを90°に交差させたXY方式を採用。このユニットは物理的な振動を軽減させるためにゴムのショック・マウントで守られ、なかなか本格的だ。出力はスピーカーやヘッドフォン用にステレオ・ミニ端子を用意。入力は本体下部にXLR/TRSフォーン・コンボ端子が装備され、マイクと+4dBのライン入力が可能。計4trの録音が行える。記録フォーマットはBWF/WAVに対応し、それぞれ16/24ビット、44.1/48/96kHzが選択可能なほか32〜320kbpsのMP3にも対応。また、4chモードとMTRモードの設定が可能で、4chモードではモノラル×4tr録音ができるほか、モノラル×2tr+ステレオ×1系統、ステレオ×2系統といったバリエーションがある。MTRモードはモノラル×4trの収録ができる。

操作は非常に簡単。モードを決定してフォーマット、サンプリング・レートを選択し、レベルをセットしたら録音ボタンを押すだけ。レベル管理に不安があるような場合は“PEAK REDUCTION”をONにしておくと大きな入力があっても自動的にレベルを調整してくれる。本機にはWi-Fi接続を利用したリモート・コントロール設定もあり、スマートフォンに専用アプリ“TASCAM DR CONTROL”(iOS/Androidに対応)をダウンロードして本機のサイド・パネル上のWi-Fiボタンを押し、スマートフォンで接続先を選んでパスワードを入力すれば完了する。Wi-Fi接続に特別なルーターは不要で、本機と1対1で接続できるため、Wi-Fi環境の無い場所でも使用可能。専用アプリはSoundCloudと連携しており、録音したファイルをスマートフォンに転送してそのままSoundCloudにアップロードできるのも便利だ。

内蔵マイクはダイナミクスを精密に表現
外部入力はナチュラルな表現が印象的

まずはアリーナ・クラスのライブ・レコーディングでテスト。通常、オーディエンス・マイクを会場内に20本以上セットして場内の雰囲気をとらえるが、今回は派手な電飾が施されたフロート車と呼ばれるものでアーティストが場内を移動するパフォーマンスがあった。アーティストの動きに合わせて変化する観客の絶叫をとらえるには、フロート車に仕込んだハンディ・レコーダーが大活躍する。そこでDR-44WL本体をフロート車の右側、外部マイクを左側にセットし、Wi-Fiモードでリモコン操作。Recスタートからストップ、レベルの管理までスマートフォンを使ってストレス無くコントロールできる。また、サスペンションとローカット・フィルター設定のおかげで車の振動によるノイズも最小限に抑えられ、最大音圧132dB SPLという耐久力によって大声援もひずむこと無く臨場感たっぷりに収録できた。

一方、スタジオではストリングスのレコーディング現場にて、8-6-4-4-3というポップスとしては大型の編成に用いた。高さ4mほどの場所にセットしたオフマイク、AKG C414 TLⅡとほぼ同じ位置に本機をセットし、さらにオフマイクをパラで本機に外部入力し、同じ条件で録音。内蔵マイクのサウンドをC414 TLⅡと比べると、さすがに音場とレンジの狭さは感じるものの、聴感上のS/Nは高く、フレージングのダイナミクスがとても精密で、演奏が視覚的に伝わってくる。外部入力の音質はナチュラルな方向性で、中域〜高域に少々寄っている感じもあるが、これは本機のプリアンプによるものであろう。しかしこの価格帯にしてはコスト・パフォーマンスが高く優秀な印象だ。

最後にMTRモードをチェック。こちらは正直おまけ程度かと思っていたものの、リバーブ(HALL、ROOM、STUDIO、PLATEなど6種類)もクリアな音色、パンやリバーブ・センドが操作できるミキサー画面も操作しやすく好印象。コーラスなどのアンサンブルのシミュレーションや簡単なデモ・トラックの制作にも便利だろう。

いろいろとテストした結果、同社の従来製品と比べて音色に強調感や色付けを感じること無く、ありのままのストレートな音を伝えてくれるという進化を感じたDR-44WL。あまたのハンディ・レコーダーと比べてみても、現時点で最高水準のパフォーマンスを誇ると言えるだろう。

▲サイド・パネル(左)。左からSDカード・スロット、電源/ホールド・スイッチ、ライン・アウト/ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)、Wi-Fiスイッチ ▲サイド・パネル(左)。左からSDカード・スロット、電源/ホールド・スイッチ、ライン・アウト/ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)、Wi-Fiスイッチ
▲サイド・パネル(右)。左からEXT IN(外部入力)スイッチ、INPUT LEVELボタン、INPUT LEVELボリューム・ノブ、USB端子 ▲サイド・パネル(右)。左からEXT IN(外部入力)スイッチ、INPUT LEVELボタン、INPUT LEVELボリューム・ノブ、USB端子

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年1月号より)

TASCAM
DR-44WL
オープン・プライス (市場予想価格:33,111円前後)
▪トラック数:4(モノラル最大) ▪記録フォーマット:16/24ビット、44.1/48/96kHz(WAV/BWFフォーマットの場合) ▪電源:単三電池×4、USBバス・パワー、専用ACアダプター ▪記録メディア:SD/SDHC/SDXCカード ▪外形寸法:79(W)×162.2(H)×42.5(D)mm ▪重量:346g(電池を含む) ▪付属品:4GB microSDHCカード(SDカード・アダプター付き)、USB接続ケーブル、専用ACアダプター、ウィンド・スクリーン、マイク・スタンド・アダプター、シュー・マウント・アダプター、ソフト・ケース、動作確認用単三電池4本