「MIDAS M32」製品レビュー:32基のプリアンプを持つコンパクト設計のPA用デジタル・コンソール

MIDASM32
イギリス老舗のコンソール・メーカーと言えばMIDASがあります。サウンド・エンジニアにはMIDASの製品に信頼を寄せている人が多く、アナログ・コンソールの音質の良さには現在も定評があります。デジタル・コンソールに関しては、約8年前に同社として初めてのモデルXL8が発表され、その後、同機の革新的なデザインとテクノロジーを引き継ぐProシリーズが登場。今回紹介するM32はさらにコンパクトになり、MIDASのデジタル・コンソールをより身近なものにすることでしょう。それでは製品のレビューをしていきましょう。

チャンネルの設定やバス送りを
専用のセクションに集約


M32の背面には32マイク・インや8AUXインといった端子があり、インプットの構成は32モノラル/8AUX/内蔵エフェクトの8リターンとなっています。インプット・フェーダーは全16本で、その左にある“INPUTS 1-16”“INPUTS 17-32”“AUX IN USB”の各スイッチにより、16本単位でフェーダー・バンクを切り替え可能。フェーダーの素材は耐久性に富んだセミプレシャス・メタルで、100万回の使用にも耐えるそうです。フェーダー上部の小型液晶にはチャンネルの名称などを映し出せるほか、野外などで操作内容を確認しやすいようカラーの選択もできます。パネルにはプリアンプのゲインやチャンネル・コンプ、チャンネルEQなどを調整するための各種セクション(後述)も用意されており、いずれもツマミで直感的に操作することができます。また各セクションの右下にある“VIEW”スイッチを押すことにより、7インチのメイン・ディスプレイに詳細な情報を表示可能。ディスプレイの下には6つのエンコーダーがあり、それらを使うとより細かい調整が可能になります。各セクションについて詳しく見ていきます。まず、パネル左上のセクションにはプリアンプのゲイン・ツマミ、ファンタム電源と位相反転のスイッチ、ハイパス・フィルターのツマミがあります(写真①)。

▲写真① 選択中のチャンネル・ストリップを操作するための各種セクション。写真左上のCONFIG/PREA MPセクションではプリアンプのゲイン調整、ファンタム電源や位相反転のON/OFF、ハイパス・フィルターの調整が可能。この下にはGATEとDYNAMICS(コンプ)の2セクションを配置している。右はEQUALISE Rセクションで、最大4バンドのパラメトリックEQを備えている。カーブはハイパス/ハイシェルビング/ビンテージ・タイプのピーキング/ピーキング/ローシェルビング/ローカットの6種類が用意され、任意のものを選ぶ仕様。WIDTHツマミではQ幅の調整、GAINツマミでは狙った帯域の増減が行える ▲写真① 選択中のチャンネル・ストリップを操作するための各種セクション。写真左上のCONFIG/PREAMPセクションではプリアンプのゲイン調整、ファンタム電源や位相反転のON/OFF、ハイパス・フィルターの調整が可能。この下にはGATEとDYNAMICS(コンプ)の2セクションを配置している。右はEQUALISERセクションで、最大4バンドのパラメトリックEQを備えている。カーブはハイパス/ハイシェルビング/ビンテージ・タイプのピーキング/ピーキング/ローシェルビング/ローカットの6種類が用意され、任意のものを選ぶ仕様。WIDTHツマミではQ幅の調整、GAINツマミでは狙った帯域の増減が行える
その下のダイナミクス・エフェクトのセクションには、ゲートとコンプレッサーのスレッショルド・ツマミをレイアウト。右側のEQセクションには最大4バンドのパラメトリックEQが用意され、メイン・ディスプレイにEQカーブとともにRTA(リアルタイム・アナライザー)を表示させることができるので、特にモニター・エンジニアにとってはハウリング・ポイントなどが明確に分かり、調整時間の短縮になるでしょう(写真②)。
▲写真② EQカーブとともに表示させることができるRTA。音声エネルギーの分布を色分けして映し出す、100バンドのスペクトラム・アナライザーに切り替えることも可能だ ▲写真② EQカーブとともに表示させることができるRTA。音声エネルギーの分布を色分けして映し出す、100バンドのスペクトラム・アナライザーに切り替えることも可能だ
EQセクションの右にはバス・センドのセクションがあります(写真③)。
▲写真③ 写真左のBUS SENDSセクションでは、16のAUXバスへの送り量を調整できる。まずはセクション右側の4つのボタンで、バス1〜4、5〜8、9〜12、13〜16のいずれかを選択。次に4つのツマミで各バスへの送り量を制御する流れだ。右上のRECORDERセクションでは、USB端子にメモリーを差し、2ミックスをWAVで録音可能。このUSB端子はファームウェアのアップデートにも使える。右下のMAIN BUSセクションでは、選択中のインプット・チャンネルをメイン・モノラル・バスかメイン・ステレオ・バスのいずれかにアサインするか設定可能。M/C LEVELツマミはモノラル・バスへの送り量を調整するもので、PAN/BALツマミではステレオ・バス・アサイン時に定位を設定できる ▲写真③ 写真左のBUS SENDSセクションでは、16のAUXバスへの送り量を調整できる。まずはセクション右側の4つのボタンで、バス1〜4、5〜8、9〜12、13〜16のいずれかを選択。次に4つのツマミで各バスへの送り量を制御する流れだ。右上のRECORDERセクションでは、USB端子にメモリーを差し、2ミックスをWAVで録音可能。このUSB端子はファームウェアのアップデートにも使える。右下のMAIN BUSセクションでは、選択中のインプット・チャンネルをメイン・モノラル・バスかメイン・ステレオ・バスのいずれかにアサインするか設定可能。M/C LEVELツマミはモノラル・バスへの送り量を調整するもので、PAN/BALツマミではステレオ・バス・アサイン時に定位を設定できる
16AUXバス構成となっており、送り先を“1-4(=AUXバス1〜4)”“5-8”“9-12”“13-16”の4つのスイッチで切り替え、4つのツマミで各バスへの送り量を調整します。また、フェーダーをバスへの送り量の調整に使えるSENDS ON FADERへの切り替えスイッチがあるので、FOHからのモニター返しも容易です。アウトプット・フェーダー上のSEL(選択ボタン)を押してのSENDS ON FADERはインプット・フェーダー側がモニター送りのレベルになりますが(これはどの卓もそうですね)、インプット・フェーダー上のSELを押してのSENDS ON FADERはアウトプット・フェーダーに送りレベルが現れるので、ディレイの飛ばしなどが簡単に操作できます。本番中はなるべくインプット・フェーダーでメイン・スピーカーのバランスを取りたいので、エフェクトの送りはアウトプット・フェーダー側にアサインしておいた方が安全なのです。バス・センド・セクションの右にあるメイン・バス・セクションでは、各インプット・フェーダーのステレオ/モノラルの切り替えやパンの設定が行えます。内蔵エフェクトは全50種類となっており、ホール・リバーブやルーム・リバーブ、ステレオ仕様の31バンド・グラフィックEQを合計8系統同時に使用可能。また、FAIRCHILD 670やUREI 1176、TELETRONIX LA-2Aなどの名機を再現したインサート用エフェクトも搭載(写真④)。
▲写真④ 新しく開発された“Plug-In”は、名機のアウトボードを物理モデリングしたエフェクト。全16種類で、リバーブやマルチバンド・コンプ、グラフィックEQなどと合わせると、内蔵エフェクトは計50種類にのぼる。写真はFAIRCHILD 660をモデリングしたコンプ ▲写真④ 新しく開発された“Plug-In”は、名機のアウトボードを物理モデリングしたエフェクト。全16種類で、リバーブやマルチバンド・コンプ、グラフィックEQなどと合わせると、内蔵エフェクトは計50種類にのぼる。写真はFAIRCHILD 660をモデリングしたコンプ
さらに各AUXバスには6バンドのパラメトリックEQが備えられているので、モニター送りの調整はそれで行いつつ、内蔵エフェクトをインサートやセンド&リターンに充てることもできます。 

計36種類のアサインが可能な操作子
ミッドレンジに張りのあるサウンド


アウトプット構成について説明します。背面には16ライン・アウト、2モニター・アウト、6AUXアウトを装備。16ライン・アウトをすべて使用してもまだ6AUXアウトがあるため、外部エフェクターへの送りに使ったりと、多種多様なコンソール・プランニングが可能です。先述の通りアウトプット・フェーダーは8本あり、フェーダー左にある“GROUP DCA 1-8”“BUS 1-8”“BUS 9-16”“MTX1-6 MAIN C”の4つのスイッチで、各種バスのフェーダーに切り替えられます。フェーダーの右にはアサイン・セクションがあります。全12のアサイン可能な操作子が用意されており、それぞれをA/B/Cの3つのレイヤーで使用できるので、合計36種類のアサインが行えます。操作子1〜4はLED付きロータリー・エンコーダーですので、内蔵エフェクトなどのパラメーターをアサインすることも可能。本番中にリバーブの各種パラメーターを調整したり、メイン・ボーカルのコンプレッサーのパラメーターなどへ瞬時にアクセスできるのは大切な要素です。シーンは最大100作ることができます。また各シーンでは最大500のキューが作れるので、多彩なショウ形態に対応できると思います。背面のAES50端子にはMIDASのステージ・ボックス(別売)を接続可能。DL16というステージ・ボックスは16イン/8アウトで、最大3台つなげることができます。またDL150シリーズやDL250シリーズを接続することも可能なので、それらをつなげて使用するXL8やProシリーズと同じプリアンプの音質が得られます。背面には、オプションの録音用インターフェース・カードを挿入するためのスロットも備えています。現在は4枚のカードがラインナップされており、DN32 USBはUSB 2.0端子でコンピューターと容易に接続が可能。DN32-MADIはMADIの規格カード、DN32-ADATはADAT規格、DN32-DanteはDante規格となっており、さまざまなレコーディング・システムに対応できます。肝心の音質に関してですが、プリアンプの基本設計がProシリーズと同じで、192kHzのADコンバーターとDAコンバーターを搭載しているため、従来機に比べて筐体はコンパクトになったものの音への妥協は感じられません。SHURE SM58を接続して、15インチ径のウーファーを積んだ2ウェイ・スピーカーで試したところ、ミッドレンジに張りがあるMIDASらしい音色。また、AD/DAによる表現の繊細さも特徴です。総合的には、現在のデジタル・コンソールに必要な要素をすべて備えており、フレームやフェーダーの質感などは今までのMIDASユーザーも納得の仕上がりだと思います。大小のコンサート、ライブ・ハウスやリハーサル・スタジオなどにも簡単にセットアップできて、ライブ録音にも対応できる本機。多くの魅力が詰まっていますね。
▲背面には左からLAMP端子(XLR4ピン)、モニター/コントロール・ルーム・アウトL/R(XLR、フォーン)、ライン・アウト(X LR)×16、拡張スロット(写真ではDN32-USBを挿入)、リモート・コントロール端子(イーサーネット)、マイク・イン(XLR)×32、MIDI IN/OUT、AES/EBUアウト(XLR)、ULTRANET端子(イーサーネット)、AES50ネットワーク端子、AUXイン(フォーン)×6、AUXインL/R(RCAピン)、AUXアウト(フォーン)×6、AUXアウトL/R(RCAピン)が備えられている ▲背面には左からLAMP端子(XLR4ピン)、モニター/コントロール・ルーム・アウトL/R(XLR、フォーン)、ライン・アウト(X
LR)×16、拡張スロット(写真ではDN32-USBを挿入)、リモート・コントロール端子(イーサーネット)、マイク・イン(XLR)×32、MIDI IN/OUT、AES/EBUアウト(XLR)、ULTRANET端子(イーサーネット)、AES50ネットワーク端子、AUXイン(フォーン)×6、AUXインL/R(RCAピン)、AUXアウト(フォーン)×6、AUXアウトL/R(RCAピン)が備えられている
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)
MIDAS
M32
1,000,000円
▪インプット:32モノラル、8AUX、8FXリターン ▪アウトプット:16AUX、6マトリクス、メインLCR ▪デジタル・イン/アウト:AES50イン/アウト×2(それぞれ最大48イン/48アウトをアサイン可) ▪内部処理:40ビット浮動小数点 ▪AD/DA:最高24ビット/192kHz ▪周波数特性:10Hz〜22kHz(48kHz時) ▪外形寸法:891(W)×256(H)×607(D)mm ▪重量:24.5kg