
2ウェイ・バイアンプ方式
入力感度/周波数特性を調整可能
では外見から見てみましょう。全体は黒で統一されたシンプルな長方形デザインです。業務用という雰囲気も感じられますね。重さは1本あたり8.8kg。幅257×高さ423×奥行き300mmは、ニアフィールド・モニターの部類では若干大きめかなという感じがします。持った感じ重量級ではないので設置は苦にならないと思いますが、自宅や小規模プリプロ・ルームなどでは本体サイズも重要なチェック項目です。スピーカー・スタンドの高さによってはツィーター部分がかなり上の位置になるでしょう。またパソコン液晶モニターの作業テーブルに直接並べる環境では近過ぎて圧迫感を感じるかもしれません。
前面パネルは一般的なウーファー+ツィーターの2ウェイ形式になっており、本体背面には独自の“スリップ・ストリーム”と呼ばれる低域ポート、いわゆるバスレフのような穴が設けられています。そして特筆すべきは新開発の“イメージ・コントロール・ウェーブガイド”を搭載していること。“スピーカーの外側に延びるほどの広いステレオ音場を再生する”とのことで、ツィーター周りの波打ったパネル形状がその効果を生むようです。
続いて機能面を見ていきます。パワー・アンプが本体内に組み込まれているタイプなので、背面に電源ケーブルを接続するソケットや電源スイッチ、入力端子や調整スイッチを装備。内部パワー・アンプによるスピーカーのドライバー駆動はバイアンプ方式になっており、低域/高域ともに余裕のある出力が期待できます。ライン入力はバランス/アンバランスどちらでも可能。バランス信号の場合はXLRかTRSフォーンの入力端子どちらかを使用し(同時使用は不可)、アンバランス信号の場合は、TRSフォーン入力端子に接続します。リアには、−10dBV/+4dBuの切り替えスイッチが付いているので、入力感度の設定が可能です。またボリューム・ツマミはスピーカーの最大音量を21段階のクリック付きで設定できます。そのほか周波数特性の調整用に高域(4.4kHz)トリム/低域(115Hz)トリムという2つのスイッチが付いており、それぞれ±2dBの調整が可能になっています。もし小音量しか出せない環境で低域も高域も足りないならば、この調整トリムで解決すると思われます。各調整スイッチが細か過ぎず複雑でもなく設定に悩むことはないでしょう。
自然な低域の再生能力で
周波数のバランスも非常に良い
筆者が試聴した第一印象では非常に周波数バランスが良いと感じました。特にボーカルや目立つ楽器が集中する中低域〜中高域の帯域にクセが全くありません。低域は自然に奇麗に伸びていると感じます。これがスリップ・ストリームの効果でしょうか、このサイズでこれだけ自然な低域の再生能力があるのは正直驚きでした。
50Hz前後のミックス処理が難しい帯域もしっかりとらえられます。高音域はひずみがなく音圧を上げ過ぎたようなデジタル音源でも奇麗に聴こえる傾向です。やや高域がおとなしい感じもしますが長時間の作業には疲れないでしょう。イメージ・コントロール・ウェーブガイドによる音の広がりは顕著に感じられました。ただ位相が操作されているようにも聴こえますので、スピーカー自体で音場を広げるこの機能の評価は分かれるところだと思います。マスタリングで同じような効果をあえて加えている音源もありますので、それを知らずに鑑賞すると重複効果になってしまう可能性もあるので、気を付けたいところです。
総評としては上品な鳴り方をしますので、いわゆるザックリ感はなく柔らかい感じです。レコーディング現場で使用する場合は、コンプやEQで音作りする際のレスポンス・スピードに気を遣いたいですね。ミックスの最終チェックやポストプロダクション現場などに適していると思います。筆者は周波数バランスの素晴らしさとコスト・パフォーマンスに高評価としました。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年5月号より)