AKGK812
業務用マイク&ヘッドフォンで有名なオーストリアのAKGは、好評なK7xxシリーズに昨年K712Proを投入。そして今年はProfessional Referenceと銘打ってついに10万円超の価格帯に新フラッグシップとなるK812を発売した。随所に新設計の工夫が凝らされており、K712とはパーツも構造もずいぶん違っているようだ。
53mm大口径ドライバーを搭載
ユニバーサル・ジョイントで均等な側圧
往年のAKGらしい黒を基調とした堅実なデザインからも分かるように、K812はプロ・スタジオでの使用を強く意識した製品。新開発の53mmの大口径ドライバーは5Hz〜54kHzの再生帯域を持ち、磁気回路にはネオジム・マグネットを採用している。ハイエンドながらインピーダンスは36Ωと低く設定されているので、APPLE iPodなどにもダイレクトに接続可能だ。筐体はアルミ・ダイキャスト製で重さ398g（ケーブル除く）と、実際に持ってみるとかなり頑丈であることが実感できる。ヘッド・バンド部はオープン・メッシュで蒸れにくい構造となっており、11段階でスムーズに位置調節可能。質感の高いプロテイン・レザーのイア・パッドは低反発素材で、立体的にしっかりと耳を覆ってくれる。アームとハウジングの接続はユニバーサル・ジョイントになっていて、側圧は耳の周辺で均等に感じることができる。大型なのに装着感がかなりいいので長時間の試聴も快適だ。ケーブルは3mのOFCストレート・タイプ。着脱部分にはLEMOコネクターを採用している。注目してほしいのはコードがハウジングではなくアームの方につながっている点だ。両アームからハウジングへの配線は目に付きにくい裏側にあり、なんとこの部分がフレキシブル・プリントになっている。コードを触ってもガサゴソ音がしないわけで、この機構は特にノイズ・チェック時にありがたい。そのほか木製Ω型スタンドが付属している点や、2年間の長期保証にも満足感は高い。
ゆとりある低域再生能力
細かくコントロールされた高域
試聴してまず印象的なのは、オープン・エア型とは思えない豊かな低域だ。大口径ドライバーによる低域再生能力はやはり次元が違う。不自然な強調ポイントは無く、全体になだらかな低域特性だと思われる。密閉型の大型機で気になりがちなハウジングの鳴りも無いし、風圧がダイレクトに掛からないので耳にも優しい。特にスローな曲の生ドラムのキックが素晴らしい存在感で、音量を上げてもその低域が破たんしないのがすごい。高域は5kHz辺りに谷があり、全体にひずみが少なく素直でとても落ち着いた音色。ドライバーと耳の間に適度な距離があるので音質も音像も程よく、やや前方に定位している。楽器の中でも特にストリングスの深みが素晴らしい。それでいて6kHzあたりの歌の帯域はしっかりと確保されている。一般的に高域は、耳の特性に合わせて各社さまざまな工夫を施しているわけだが、本機ではより近接した山と谷を作ることで細かく高域をコントロールしているようだ。また音質面でも長時間試聴で全く疲れを感じなかった。特にiPod Nanoや安価なオーディオI/Oのチープになりがちな音色がとても豊かで落ち着いて聴こえるのにはビックリした。ヘッドフォンはドライブするアンプでだいぶ音の印象が変化するが、本機はモバイルな機材との相性も良く、直接つないでも十分に鑑賞できる。逆に古いDATデッキとの相性は今一歩に感じられた。DAWでの作業では特に低域のEQがやりやすい。ローエンドを上げてもすぐに反応するし、質感までちゃんと聴き取れる。小音量で低域がしっかりと聴こえるのも好印象だ。高域EQのやりやすさはドライバーが近接した機種には及ばないかもしれないが、それでも反応具合はなかなか良い。特に位相感の良さはさすがにハイエンドと感じさせるものだ。全体には少し低域寄りの再生バランスなので、その特徴を把握した上でミックスに臨みたい。またドライバーにかなりのゆとりがあるのでピークの多いライン楽器の演奏用にもバッチリだろう。 本機の魅力は素直に伸びた低域の豊さだ。高価な本機を楽器演奏用に使うのはちょっとぜいたくな気もするが、この特性からベース録音などで気持ち良くプレイできるだろう。まずは大口径ドライバーのゆとりある低域をぜひ店頭でチェックしていただきたい。 （サウンド＆レコーディング・マガジン 2014年5月号より）
AKG
K812
オープン・プライス （市場予想価格：143,000円前後）
▪形式：オープン・エア型
▪周波数特性：5Hz〜54kHz
▪感度：96dB SPL/mW
▪インピーダンス：36Ω
▪最大許容入力：300mW
▪端子：ステレオ・ミニ（フォーン変換アダプター付属）
▪ケーブル：3mストレート・ケーブル、脱着式、片出し
▪重量：398g（ケーブル除く）
