「APHEX Project Channel」製品レビュー:BIG BOTTOM/AURAL EXCITER機能&A/D搭載マイクプリ

APHEXProject Channel
1975年に発売されてから今日まで常に進化し続けている伝説のエフェクターAural Exciterで有名なAPHEXより、コンプレッサー付きクラスAマイクプリが登場しました。“AURAL EXCITER”“BIG BOTTOM”といった独自のエンハンサー機能も搭載するなど同社の技術が詰まった本機を試していきましょう。

必要な機能を備えたマイクプリ
ワンノブ式のオプト・コンプも用意


まずは仕様から。電源は100V〜240V対応のユニバーサル仕様で、入力はリアにマイク・イン(XLR)、フロントにインストゥルメント・イン(フォーン)を装備。出力はリアにアナログ・アウト(XLR&フォーン)とS/P DIFデジタル・アウトを備えています。つまり本機はA/D機能も搭載しており、サンプリング・レートは44.1/48/88.2/96kHzが選択可能となっています。フロント中央にあるメーターは10段階のLEDになっており、出力レベルとコンプレッサーのゲイン・リダクションを表示。フロントのINPUTノブでゲイン調整を行い、左側のCLIPインジケーターで視覚的に過大入力の確認もできます。+48Vファンタム電源、PAD(−20dB)、位相反転、ローカット(70Hz以下を−12dB/oct)といったスイッチも装備。−20dB PADは個人的にあまり使わないかなと思いましたが、このボタンを押すことでマイク・インにライン・レベルの信号を入れることもできるので、録りだけでなくミックス時のアウトボードとしても使えます。ローカットは思った以上に自然にかかり、オンにすると若干ボリュームが上がったように感じる独特の雰囲気が面白いと思いました。この辺りにAPHEXの“攻め”の姿勢が垣間見えます。コンプレッサーはオプティカル・タイプを採用。用意されているのはオン/オフ・スイッチとレシオ・ノブだけなので素早い設定が可能です。レシオは2:1〜6:1までバリアブルに設定可能で、任意のゲイン・リダクションが得られるところまでINPUTノブを上げていくことでかかり具合を決め、同時にOUTPUTノブを下げていくことで適正な出力レベルに調節するタイプ。ただし、このコンプは個性的な効きをするため、通常のコンプと同じようにリダクション・メーターを見ながら操作するよりも、耳で感覚的に調節していった方が良さそうです。レシオの設定にもよりますが、割とリダクション・メーターが振っている場合もポンピングするわけではなく、ナチュラルでモダンな感じの音になります。実際、耳だけで設定していくと−6〜−9dBリダクションしているくらいがちょうど良い音になりました。この辺りからも、アグレッシブに音を作る!という本機の意気込みが伝わってきます。 

“攻め”の音色変化がクセになる
コンプレッサー&エンハンサー機能


さて、APHEXと言えば前述のAURAL EXCITER/BIG BOTTOM機能でしょう。この2つを簡単に言うならば、出力レベルを上げることなく“デカイ音”を作るエフェクトです。AURAL EXCITERは原音の中域より上の帯域に新たな倍音を生成&付加して、音に明りょう感を与えます。BIG BOTTOMはピーク・レベルはそのままに低域に深みを与え、音を“太く”するものです。AURAL EXCITERとBIG BOTTOMにはともにFREQ-HzノブとAMOUNTノブが付いており、この2つの操作子で効きをコントロールします。AURAL EXCITERはFREQ-Hzノブで設定した値(600Hz〜5kHz)よりも上の帯域に対して、AMOUNTノブで決めた量の効果がかかるようになっています。BIG BOTTOMはその逆で、FREQ-Hzノブで設定した値(50Hz〜200Hz)よりも下の帯域に対してAMOUT量の効果がかかります。この2つは、エフェクト無しの原音とエフェクトがかかった音がミックスできるパラレル方式を採用しており、AMOUTノブが1のときはドライ、上げていくとエフェクト音が足されていくという仕様です。とてもパワフルで魅力的なエフェクトなので、調子に乗ってどんどんAMOUTノブを上げてしまいそうになりますが、くれぐれもかけ過ぎにはご注意を。BB/AXボタンでこの2つのエフェクトを同時にオン/オフもできるので、これを使って常に原音と比較しながら適切な設定を行うと良いでしょう。実際にベース録りでチェックしてみました。ベースは直接インストゥルメント・インに入れ、INPUTノブをコンプがかかるまで上げていきます。コンプがかかるとゲインが上がったように聴こえ、この感じが段々とクセになってきます。次にBIG BOTTOMをオンにして低音を太くしてみました。FREQ-Hzノブを回すとかなり低域の雰囲気が変わっていくのですが、EQをかけるのとはまた違った変化で新鮮。AURAL EXCITERも倍音の個性的な変化が興味深いです。 今まで、僕の中ではAURAL EXCITER/BIG OTTOM機能はミックス時にかけるものという固定観念が知らず知らずのうちにあり、録りで使うという発想はあまりありませんでした。しかしながら、本機はほかのチャンネル・ストリップのEQ部分をAPHEX得意のAURAL EXCITER/BIG BOTTOMで置き換えることで、個性的な製品に仕上がっています。1Uで持ち運びも楽なので、宅録はもちろんライブでも活躍できる万能選手となるでしょう。 
▲リア・パネル。左からS/P DIFアウト(コアキシャル)、-10dB/+4dB切り替えスイッチ、アナログ・アウト(TRSフォーン、XLR)、マイク・イン(XLR)。フロント・パネルにはインストゥルメント・イン(フォーン)も装備 ▲リア・パネル。左からS/P DIFアウト(コアキシャル)、-10dB/+4dB切り替えスイッチ、アナログ・アウト(TRSフォーン、XLR)、マイク・イン(XLR)。フロント・パネルにはインストゥルメント・イン(フォーン)も装備
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年3月号より)
APHEX
Project Channel
オープン・プライス (市場予想価格:68,250円前後)
▪周波数特性:18Hz~24kHz(±1dB) ▪THD:<0.01%(+4dBu出力時) ▪入力タイプ:トランスフォーマーレス、NPNアクティブ・バランス、第2段は管球使用 ▪最大出力レベル:XLR=+25dBu(無負荷時)、TRSフォーン=+11dBV ▪サンプリング・レート(A/D):44.1/48/88.2/96 kHz、24ビット ▪外形寸法:483(W)×44(H)×210(D)mm ▪重量:2.73kg