65ものソフトウェア・インストゥルメントを含む総合音楽制作ツール

NATIVE INSTRUMENTSKomplete 9 Ultimate
日進月歩のコンピューター・ワールドの中ではもはや老舗といえるNATIVE INSTRUMENTS(以下NI)からKomplete 9(以下K9:52,800円)が登場した。いまやKompleteシリーズは個人の音楽制作環境だけでなく、プロダクション・スタジオのような複数の人間が使う場所でもインストールされていることが多く、ソフトウェア・インストゥルメントの分野では業界標準とも言えるポジションを獲得したと言っても過言ではない。その最新版であるK9はどんな内容になっているのか、上位版のKomplete 9 Ultimate(以下K9U)を中心にチェックしていこう。

NATIVE INSTRUMENTS製品の
“全部入り”パッケージ


まずは概要から。NIは1996年に設立されたドイツのメーカーである。最初に開発されたReaktor(当時はGeneratorと呼ばれていた)はソフトウェア・インストゥルメント自体を開発するためのソフトだった。NIはこのReaktorを自らツールとして使用し、次々とユニークなソフト・シンセを開発してきた。そして、今や世界で有数の音楽ソフトウェア・メーカーとなっている。この成長をリアルタイムでユーザー側から見ていた僕としては、Reaktorという開発環境が優れていたこと、そして外部の優秀なプログラマー/デベロッパーと上手に組んでいったことが良かったんだろうなぁと思っている。Reaktorのユーザー・コミュニティには世界中から素晴らしいアイディアが集結し、次々と斬新なソフト・シンセがアップされているし、現在K9Uに含まれている“Razor”“Reaktor Prism”などもReaktorによって開発されたシンセサイザーだ。またAbsynth、BatteryなどはもともとNIの外部の人がReaktorと関係なく開発していたものだが、ソフトの優秀さを見抜いて丸ごとNIに取り込んでいる。しかし、一時期はラインナップが増え過ぎて、ユーザーはどれを買えば良いんだ?という状態になっていた。そこでNIは“Komplete”シリーズという、自社製品全部入りパッケージの発売に踏み切った。単体でそろえた場合の半額以下の価格になるので、発売当時はたたき売りか?と思ったほどだが、逆に多くのユーザーが製品を購入することにつながり、会社としては非常に良い方向に向かっていったようだ。こうして毎年のようにアップグレードしていった“全部入り”のKompleteシリーズだが、今回のK9Uは、実に65ものパッケージを内包する超巨大な製品となった。 

6つのインストゥルメントに
多彩なライブラリーを読み込んで使用


では実際に中身を見ていこう。K9Uには65種類の製品が含まれている(K9は33種類)。が、これらはすべて独立したアプリケーション(プラグイン)というわけではない。Reaktor 5.8、Kontakt 5、そしてGuitar Rig 5という、現在のNIのフラッグシップと言うべき3つのソフトウェアの“ライブラリー”として使うものが多い。こう書いてしまうと、ただの音色集と思われるかもしれないが、これらはGUIもそれぞれに特化してちゃんと作り込まれており、単体の製品として出せる十分な価値を持っている(実際NIから音源+プレーヤー・アプリケーションという形で販売されている)。また共通のインターフェースを持つことにより、基本的な使い方を覚える時間が少なくて済む。そんなわけでK9をインストールすると、DAWを開いた際に見えるプラグイン・インストゥルメントは計6つとなる。まずこれらを紹介しよう。●Reaktor 5.8冒頭にも書いた、NI第一号の記念すべきソフトウェア。シンセサイザー、サンプラー、エフェクトなど音響関連全般のツールを作成できる。シンセやエフェクトをゼロから自作するのは敷居が高いという人も多いかもしれない。だが70以上もの豊富なアンサンブル・ファイルやインストゥルメント(Reaktorのパッチ・ファイルのこと)が付いているし、NIのユーザー・コミュニティにアクセスすれば3,000種類以上の中から興味のあるものをダウンロードできる。これらを使うだけでもサウンドの素晴らしさ、ほかのソフトには無い面白さを感じることができると思う。少し慣れてきたら自分好みにちょっと改良するのもいい。そうして他人が作ったパッチを調べていくと、オリジナルのアンサンブルも作れるようになってくる(実際僕もそうやってReaktorのアンサンブルを作れるようになった)。さらに作り込まれたシンセやエフェクトはReaktorプレーヤー・ライブラリーとして販売されており、今回K9で追加された“Monark”や“Skanner XT”をはじめ、“Razor”“Mikro Prism”“The Finger R2”“Reaktor Spark R2”“The Mouth”“Reaktor Prism”なども、正確にはReaktor上で動作するアンサンブルだ。アンサンブルの使用法だが、Reaktorの画面左側にあるサイド・パネルに“Player”というボタンがある。これを押すとReaktor内で使用できるシンセ群が表示されるので、いずれかをクリックすると下の欄にファイルが表示される。それをダブル・クリックするか、右側のウィンドウにドラッグ&ドロップすればロード完了だ(画面①)。
▲画面① Reaktorで使えるアンサンブルはまずReaktorを立ち上げ、サイド・パネルの“Player”内から選ぶ。画面はK9Uに同梱されているRazorという加算合成方式のシンセサイザー。加算合成といえばオルガンのような感じかと思いきや、名前の通りレーザーのようなエッジの効いたサウンドだ。音も素晴らしいが画面デザインも美しく、音が3DのFFT表示される。これが美しくて、ついつい周波数がスウィープするような音を作りたくなってくる ▲画面① Reaktorで使えるアンサンブルはまずReaktorを立ち上げ、サイド・パネルの“Player”内から選ぶ。画面はK9Uに同梱されているRazorという加算合成方式のシンセサイザー。加算合成といえばオルガンのような感じかと思いきや、名前の通りレーザーのようなエッジの効いたサウンドだ。音も素晴らしいが画面デザインも美しく、音が3DのFFT表示される。これが美しくて、ついつい周波数がスウィープするような音を作りたくなってくる
●Kontakt 5Reaktorと双璧をなす、NIの看板ソフト・サンプラー。現在、市場にあるサンプラーの中では最も高機能なもので、できないことが無いと言えるほどのものだ。ライブラリーも非常に多く、標準の状態でも43GBに及ぶサンプルが用意されており、音楽制作に利用される音のほとんどはここに用意されている。またK9Uで追加された“Action Strings”“Damage”“Evolve”“Sesion Horns”“Abbey Road Vintage Drummer”“Scarbee Rickenbacker Bass”“The Giant”、そして従来までのKomplete 8 Ultimateに含まれていた数十のパッケージはすべてKontakt 5上で動作するライブラリーだが、それらをロードしてみると、各々が非常に使いやすいインターフェースになっているのが分かるだろう。Kontaktを起動し、画面上部の“Browse”というボタンを押すと左側にブラウザーが表示される。“Libraries”タブをクリックするとインストールされているKontakt用ライブラリーが表示されるので、目的のライブラリーの“Instruments”というボタンを押す。するとインストゥルメントが表示されるので、ダブル・クリックするか、右側のメイン・ウィンドウにドラッグ&ドロップすればロードが始まる(画面②)。
▲画面② Kontaktのライブラリーは“Libraries”から選ぶ。またカテゴリー別に選びたいときは“Database”というタブをクリックするとKontaktのファクトリー・ライブラリーを含む、すべてのライブラリーからカテゴリー分けで目的のインストゥルメントを探すことができる ▲画面② Kontaktのライブラリーは“Libraries”から選ぶ。またカテゴリー別に選びたいときは“Database”というタブをクリックするとKontaktのファクトリー・ライブラリーを含む、すべてのライブラリーからカテゴリー分けで目的のインストゥルメントを探すことができる
Kontaktは“Script Editor”というプログラム言語も搭載しており、各パッケージでサンプルを効率的に使えるよう、丁寧にプログラムされている。これにより、ライブラリーによってはホストのDAWのテンポに追従してサンプルを鳴らすのはもちろん、MIDIノートをキー・スイッチとしてサンプルを切り替えたり、曲のキーを設定して3度上のハーモニーを重ねたりと、非常に音楽的なインターフェースを備えている。
●Absynth 5セミモジュラー式のソフト・シンセ。NIによる紹介文では“アンビエンス/パッドに最適”とある。確かに独特の空間系サウンドで、オシレーター、フィルター、そしてエンベロープも非常に良いのだが、最大の特徴はエフェクト部にあると思う。オーディオ入力も可能なので、エフェクトとしてもぜひ試してみてほしい。●FM8YAMAHAのFM音源を発展させたシンセサイザー。発音方式の通り、特徴のあるメタリックな質感を持ったサウンドを得意としている。プリセットを見るとFM音源でよく見受けられるベル、エレピなど金属系の音が多い。だが、あくまでも発音方式にFMを使っているだけで、YAMAHAのFM音源と比べるとアルゴリズムの自由度は飛躍的に高い。しかも難解なFM音源を面白く使えるようにいろいろ工夫がされているし、多彩なアルペジエイター機能も付いているので、FMに興味のある人は必ずハマるはず。●Battery 4K9でメジャー・アップデートしたリズム系に強いサンプラー(画面③)。今回のアップデートによって新しくなった部分は以下のような点だ。 
▲画面③ メジャー・アップデートしたBattery 4。画面上のセルと呼ばれる四角いスペースにサンプルを読み込み、設定したノート・ナンバーによって発音する仕組みだ。その形状から分かるように、ドラム、パーカッションなどの減衰系のサウンドに向いている。だがサンプルをループして持続系の音にしたり、キー範囲を広くして音階に使うこともできるし、シンプルで扱いやすいサンプラーという側面も持つ ▲画面③ メジャー・アップデートしたBattery 4。画面上のセルと呼ばれる四角いスペースにサンプルを読み込み、設定したノート・ナンバーによって発音する仕組みだ。その形状から分かるように、ドラム、パーカッションなどの減衰系のサウンドに向いている。だがサンプルをループして持続系の音にしたり、キー範囲を広くして音階に使うこともできるし、シンプルで扱いやすいサンプラーという側面も持つ
【サンプラー部の強化】サンプルを鳴らす各セルは従来の再生方法に加え、E-MU SP1200、AKAI PROFESSIONAL MPC60をシミュレートした“Vintage”エンジンが選択できるようになった。各エンジンの違いは、シンバルなどの金物系の余韻やサンプルのピッチを下げて再生したときに分かりやすい。【エフェクトの追加/改良】各セル/マスター・セクションに装備されているEQやコンプレッサーでは“Solid”シリーズや“Transient Master”が追加された。さらにBattery 4内部で“バス”という概念を導入し、複数のセルにまとめてエフェクトをかけたり、そのエフェクトを別のセルからサイド・チェインでコントロール可能になっている。【操作性/デザインの改良】タグ付きのブラウザーが常に表示されるようになったり、セルの色がパラメーター表示にも使われたり、効率的にエディットできるようになっている。また上記のサイド・チェイン・ソースの設定やバスのアサインなどは、目的のセルをバス上にドラッグ&ドロップすれば可能になった。 

アナログライクな太い出音の
新シンセ=Monark


ここからは、Reaktor 5.8で使うアンサンブルやインストゥルメントを詳しく紹介していこう。●Monark新たに追加されたモノフォニック・シンセサイザー(画面④)。
▲画面④ Reaktor上で動作するMonark。デザインから分かるように、MOOG Minimoogからインスパイアされたモノシンセ。実際の音もMOOGらしいファットな質感を再現している ▲画面④ Reaktor上で動作するMonark。デザインから分かるように、MOOG Minimoogからインスパイアされたモノシンセ。実際の音もMOOGらしいファットな質感を再現している
Reaktor自体の音は固有の質感というか、MOOGとはまた違うファットさがあるのだが、このMonarkはそれとは全然違う、あくまでもMOOG方向の太さがある。こんなこともできるのかーと中身を見てみたが(Reaktorのシンセはこれができるから楽しい)、“CoreCell”という一番根幹の部分を使って波形の質感をコントロールしているようだ。非常に複雑な構成なのでパッと見ただけではさっぱり分からないのだが、なるほど、ここまで作り込めばReaktorでもこんな音が出せるのかー、と思い知らされた。操作性や音作りの幅広さも良好だ。Minimoogお得意のフィードバックによってひずませるワザも取り込みつつ、フィルターの種類も増えており、ベースに使えるようなファットな低域を持った音から、中域がグイグイくるアシッドなシーケンスなどにも向いていると思う。●Skanner XTこれもK9Uから新たに追加されたサンプラー(シンセ?)で、Reaktorの製作者であるステファン・シュミット氏が開発したという(画面⑤)。
▲画面⑤ Skanner XT。2つのオシレーターがサンプルを“スキャン”するというユニークなシンセシス・アーキテクチャーを採用。サンプルはオリジナルのものも使用できる ▲画面⑤ Skanner XT。2つのオシレーターがサンプルを“スキャン”するというユニークなシンセシス・アーキテクチャーを採用。サンプルはオリジナルのものも使用できる
2つのオシレーターが、読み込まれたサンプルをスキャニングするという仕組みで音を作っている。グラニュラー・シンセシスの最新版という感じで、音から音へのモーフィングなどを簡単に実現するが、その動きを限定させることで普通のシンセサイザーのような音も出せる。Reaktorでは、ほかにも“The Mouth”“Razor”(この2つはK9Uのみ)、“Reaktor Prism”“Mikro Prism”“The Finger R2”“Reaktor Spark R2”などの素晴らしいシンセがある。またもともと付属しているアンサンブル・ファイルにも、製品と同じくらいの高い完成度を誇るものが数多く含まれている。Reaktorを使い始めたら、それらもぜひチェックしてみてほしい。 

オーケストラから効果音まで
多彩なKontaktライブラリー


次にKontakt 5で利用するライブラリーについて紹介していこう。●Action StringsK9Uに新たに追加されたストリングス系ライブラリー(画面⑥)。
▲画面⑥ Kontakt上で動作するAction Strings。プラハのフィルハーモニック管弦楽団によりライブ・レコーディングされた14GBを超えるストリングス・フレーズを内蔵し、ドラマチックなオーケストラ・サウンドを実現。Kontakt内蔵のTime-Machine Proの活用により、フレーズの急激なテンポ変更にも追従する ▲画面⑥ Kontakt上で動作するAction Strings。プラハのフィルハーモニック管弦楽団によりライブ・レコーディングされた14GBを超えるストリングス・フレーズを内蔵し、ドラマチックなオーケストラ・サウンドを実現。Kontakt内蔵のTime-Machine Proの活用により、フレーズの急激なテンポ変更にも追従する
単音やコードを弾くと、ホストのDAWソフトのテンポに沿って自動的にリズムを刻んだりメロディを弾いてくれる。“Session Strings”というライブラリーにも同様の“Animate”という機能があるが、Action Stringsはそれに特化した仕様となっている。MIDIノート・ナンバーのC0〜A0にフレーズ(リズム)を割り当て、それを切り替えながら弾くと、躍動感のあるフレーズが再現できる。●Session HornsこれもK9Uから新たに追加されたホーン・セクションのライブラリー。Action Stringsと同様に鍵盤を押しているだけでリズムを刻んでくれるので、ホーン・アレンジを考える際には大きな助けとなるだろう。●Damage映画で緊迫感のあるシーンなどによく使われるような打撃音、インダストリアル&トライバル系のパーカッション(ループも含む)などをまとめたもの。単体のパッケージとしても人気だったが、K9Uにも同梱されるようになった。“ドーン”“カーン”といった一発もののサウンドや、アドレナリンを放出させるようなアツいループはほとんどそろっているので、映画だけでなく普通の音楽制作にも便利に使える。●Evolve Mutations 1&2Damageと同じく、HEAVYOCITY(www.heavyvocity.com)の協力によるループ・ライブラリー。映画的な迫力のある音から、通常のトラック・メイクにも使えるグルーブ感たっぷりのループまでバラエティ豊かにそろっている。音程感のあるリズム・シーケンスも多数あるので、煮詰まったときや“何かもう1音足してみたい”なんていうときに便利だと思う。●Abbey Road Vintage Drummerロンドンのアビイ・ロード・スタジオでレコーディングされたドラム・サウンドをまとめたAbbey Road Drummerシリーズは従来のKomplete 8でもラインナップされていたが、今回のK9Uでは新たに“Vintage”というシリーズが追加された。その名の通り、非常に古い感じのサウンドで、ジャズやブルースなどで1950〜1960年代の質感を再現するときに良いだろう。●Scarbee Rickenbacker BassScarbeeにも新しくRICKENBACKERのベース・ライブラリーが追加された。一昔前の生ベースのライブラリーとは別次元の臨場感だ。キー・スイッチによりダウン/アップ・ピッキング、トリル、ハンマリングのON/OFFなどの奏法を切り替えることができる。ただ8分音符を連打するだけのときも自動でダウン/アップ・ピッキングを交互に鳴らしてくれるので、不自然さがない。●The Giant巨大なアップライト・ピアノ、KLAVINS PIANOS Model 370をサンプリングしたピアノ・ライブラリー(画面⑦)。
▲画面⑦ 重量20トン以上という巨大なアップライト・ピアノのKontaktライブラリー=The Giant。GALAXY INSTRUMENTSのウーリ・バロノフスキー氏によって綿密にサンプリングされており、一般的なピアノとシネマティックなサウンドの2インストゥルメントを内蔵 ▲画面⑦ 重量20トン以上という巨大なアップライト・ピアノのKontaktライブラリー=The Giant。GALAXY INSTRUMENTSのウーリ・バロノフスキー氏によって綿密にサンプリングされており、一般的なピアノとシネマティックなサウンドの2インストゥルメントを内蔵
巨大な分、低音の弦も非常に長くできるのでテンションが強く、すっきりとした倍音を持ったピアノだ。また背景が“夜”になっているシネマティックなプリセットは、弦を直接たたいたり引っかいたり、さまざまな奏法でこのピアノを鳴らしたものだ。ピアノ自体が非常に珍しいものだし、唯一無二のライブラリーと言えるだろう。字数の都合でK9Uに新しく追加されたものしか紹介できなかったが、ほかにも“Session Strings”“Balinese Gamelan”“West Africa”“Alicia's Keys”“Scarbee Funk Guitarist”“George Duke Soul Treasures”などなど、素晴らしいライブラリーがたくさんあった。また、Kontakt付属のライブラリーも非常に充実しており、かつ使える音も多いので、Kontaktを使い始めたら、ぜひチェックしてみてほしい。 

SSLやLEXICONなどの
エミュレート系エフェクトも搭載


最後にエフェクトについて。K9Uはインストゥルメントだけでなく、数多くのエフェクトも同梱されている。今回のK9Uではコンプレッサー/EQなどのプラグインが追加された。それらの多くはSOFTUBEの協力を得てSSL、MANLEYなどのレコーディング機材をモデリングしたものだ(画面⑧)。
▲画面⑧ SSLコンソールのマスター・セクションのコンプレッサーをシミュレートした新エフェクトSolid Bus Comp。かかり具合は実機にかなり似ている。またサイド・チェインにも対応しているので、オリジナルではできなかったような使い方も可能だ ▲画面⑧ SSLコンソールのマスター・セクションのコンプレッサーをシミュレートした新エフェクトSolid Bus Comp。かかり具合は実機にかなり似ている。またサイド・チェインにも対応しているので、オリジナルではできなかったような使い方も可能だ
今回初めてじっくりと試してみたが、どれもなかなかの出来映えだった。WAVESやUNIVERSAL AUDIOなどのエフェクト・プラグインと比べて画面デザインにそれほど気合いが入っていないが、そうした見た目の先入観を捨てて音だけをちゃんと聴いてみると、全然負けてないなぁと思った。他社の似たようなプラグインと比較してみても、アナログ機材のサチュレーション感などをうまく表現していると思う。またK9Uに追加された“RC48”“RC24”などのリバーブも、LEXICONからインスパイアされたのがうなずける仕上がりで(画面⑨)、当時のデジタル・リバーブの質感が素晴らしい。
▲画面⑨ RC24。LEXICONのリバーブをシミュレートしたようなプラグインで、今回、個人的に一番気に入ったエフェクト。コンボリューション・リバーブとは違った“いかにもリバーブかけてます”的なデジタル・サウンドが、逆に気持ち良い ▲画面⑨ RC24。LEXICONのリバーブをシミュレートしたようなプラグインで、今回、個人的に一番気に入ったエフェクト。コンボリューション・リバーブとは違った“いかにもリバーブかけてます”的なデジタル・サウンドが、逆に気持ち良い
そして堅実にアップグレードを重ねてきたGuitar Rigは現在バージョン5となり、17台のアンプ/キャビネット、54種類ものエフェクトを組み合わせて音色が作れるようになっている。“Guitar”と名前がついているものの、もはや統合エフェクト環境という方がふさわしい仕様で、K9ではGuitar Rig上で動くエフェクトも同梱されている。Guitar Rigのプリセットを選ぶところで“Products”を選択すると、“Rammfire”“Traktor's 12”“Reflector”などが表示される。しかしこれらはあくまでもライブラリーのようなもので、それぞれのプリセットで使っているコンポーネントは、差し替えたり追加/削除しても大丈夫だ。つまりK9を使っていれば、Rammfireのアンプの後段でReflectorを使う、なんていうことも可能になるのだ。 以上、大急ぎでK9の中身を見てきたが、“全集”という言葉がこれほど似合う製品も珍しい。とにかく何でもそろっていて、しかもそれらがすべて高クオリティだ。特にK9Uの充実度はすさまじい。もしあなたがKontakt用のサンプル・ライブラリー群、そしてプラグイン・エフェクトに興味があるなら、迷わずUltimateの方を選ぶべきだと思うが、取りあえずシンセをいろいろとそろえたいという人はK9でも十分かもしれない(Razorは同梱されないので、K9購入時にもらえるEクーポンで買うのがいいかも)。いずれにせよ、膨大な量の制作アイテムが一気にそろうので、購入後は各インストゥルメント/エフェクトを試してみてほしい。いろいろな発見があって、自分の音楽制作に新しい風を吹き込んでくれるはずだ。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年5月号より)
NATIVE INSTRUMENTS
Komplete 9 Ultimate
104,800円
【REQUIREMENTS】 ▪Mac/Mac OS X 10.7/10.8、INTEL Core 2 Duo以上のプロセッサー、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨) ▪Windows/Windows 7/8(最新サービス・パック、32/64ビット)、INTEL Core 2 DuoまたはAMD Athlon 64 X2以上のプロセッサー、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨) ▪共通項目/10GB以上のハード・ディスク空き容量(完全インストールには250GB以上が必要)、DVDドライブ、高速インターネット回線