アナログならではの音の厚みと
安定したピッチを両立したDCO
Mopho X4は3オクターブ半の鍵盤を持つ4ボイスのアナログ・シンセです(図①)。Prophet時代からのお約束である両サイドの木製パネルと、スペーシーにデザインされたツマミ群とのバランスがクラシック&モダンで飽きさせません。パネルに並ぶのはフィルターやエンベロープなどおなじみのパラメーターばかりなので、よほどの初心者でなければ戸惑うこと無く使えるでしょう。リアにはMIDI端子に加えてUSB端子があるので、USBケーブル1本をパソコンに接続すればマスター・キーボードとして使うことも可能(Mac/Windows対応)。これはポイントが高いと思います。なぜならMopho X4の鍵盤はなかなかタッチがいいですし、キー・プレッシャー(アフター・タッチ)もあるので鍵盤が弾ける人は言わずもがな、弾けない人でもMIDI入力用のコントローラーとして多用途で使えますからね。 では主立った機能の解説をしていきましょう。まずオーディオ信号経路は100%アナログ回路で構成されてます。本機のオシレーターはいわゆるDCOなので、"デジタル・サンプリングやモデリングなのか?"と誤解する方がいらっしゃるかもしれません。DCOの定義はメーカーごとに異なるので混乱しやすいのですが、本機の場合はオーディオ信号部は完全アナログでありながら、制御関連はデジタルで行って安定性を向上させています。なるほど出音を聴いてまず思うのは、アナログ独特の厚みのある質感でありつつ、ピッチの危なっかしい感じはみじんも無く、もちろん時間経過でチューニングがズレるなんてこともありません。なので、ある種のビンテージ・シンセで聴けるような荒ぶる雰囲気を望む人には期待外れに感じるかもしれませんが、筆者的には変調系を使えば幾らでもそうした効果は得られるので、まずしっかりしたオシレーターありきという姿勢は支持できます。オシレーターは2つあり、波形はノコギリ/三角/矩形/ノコギリ+三角に加え、サブオシレーターも用意されています(写真①)。サブオシレーターはオシレーター1側が1オクターブ、オシレーター2側は2オクターブ下の矩形波を追加できますので、ウルトラロー&ファットなベースも作れます。2つのオシレーター出力はミキサーに入り、ここで信号をフィードバックさせることも可能なので、ひずみや倍音を付加することができます。このフィードバックのかかりが絶妙で、ディストーション・エフェクトのようなグシャグシャにひずむものではなく、わずかにひずみ成分が加わる感じ。時間経過に沿って明滅するようにこのひずみを加えてみると大変面白かったです。 フィルターは中後期型のProphet-5でおなじみとなったCURTISチップと同等のものを採用しているそうで、カットオフのカーブやレゾナンスの発振具合などそこかしこに往年の雰囲気を感じさせてくれます(写真②)。また4ポールとProphet時代には無かった2ポールを切り替えて使えるので、さらなるサウンド作りが可能になっています。もちろんProphetサウンドのトレードマーク=鐘の音を作るのに必須のポリモジュレーションもAudio Modという名前のツマミで実現できるようなっています。
リピート機能付きエンベロープが面白い
ステップ・シーケンサーでの変調も可能
Mopho X4はProphet-5の再現を狙ったものではないので、いちいち比較するのも恐縮なのですが、それにしても変調系に関しては30年前とは次元が違う充実ぶりです。エンベロープ、LF
O、シーケンサー(後述しますがステップ・シーケンサーが内蔵されています)などを駆使して50種類以上のパラメーターを選択し、あの手この手で音作りに活用することができます。まずエンベロープは、フィルター用とアンプ用と予備の計3基。おなじみADSR仕様にディレイが追加されています。アマウントもプラス/マイナス両方向にかけることが可能。3基目のエンベロープは自由に使うことができるので腕の見せどころになりますが、特にこのエンベロープに用意されたリピート機能が楽しいです。要はLFOのような周期的なカーブをリアルタイムにいじるような効果が得られ、ここをいじっているだけで時間を忘れてしまうほどです。なお、パネル上にエンベロープ関連ツマミは1基分しかありませんが、ボタンで1>2>3>3基共通というように切り替えができ、さらに3基共通でざっくり設定してから個別に追い込むという早業も使えたりします。続いてLFO。超低速から260Hz辺りまでの高スピードが設定可能で、内蔵シーケンサーやMIDIクロックにも同期します。このLFOは4基と申し分ない数が用意されています。さらに注目したいのが、前述の内蔵シーケンサーの存在。Mopho X4のシーケンサーは古き良き時代に活躍したステップ数を繰り返すタイプのもので、最大16ステップ/4トラック仕様。これは4つのトラックで4重奏をするというものではなく、1つの音色に対し、最大4つのパラメーターを設定してコントロールするというものです。試しに使ってみましょう。まずトラック1で音程を入力。16ステップ全部設定してもいいですし、5ステップ目で折り返すような設定も可能です。ここではハイハットのような音で"チチチチ"というシーケンスを作成。3ステップ目のノートをOFFにすれば"チチッチ、チチッチ"という繰り返しにもなります。続いてトラック2にレゾナンスをアサインし、トラック1の音に対してステップごとにレゾナンスのかかり方が変わるよう設定して、"ペチッチ、ペチッチ"と繰り返すようにしてみました。さらにトラック3にカットオフを選択したり、トラック4でピッチにさらなる変化を加える......といったプログラミングが行えます。すごく面倒に思うかもしれませんが、むしろ逆で、シンセと対話しながら音やフレーズを作り上げるお楽しみの時間こそが、Mopho X4のウリなのであります。さらにMopho X4のベンド/モジュレーション・コントローラー、そして鍵盤も音に有機的な息吹を与える重要なツールとして使えます。特に冒頭でも触れたように、キー・プレッシャーは非常に良好な感触で、指の震えで音にビブラートをかけたりと多様な活用法が考えられるでしょう。プログラミングは基本的に同じことを繰り返すだけですが、人間的な操作を加えることでアコーステック楽器のように扱えたりもするのです。ほかにも、同社の製品(Prophet'08PEやTetraなど)と接続してポリ数が追加できるポリチェインやアルペジエイターの装備など、ここで紹介しきれなかった機能も多々ありますが、誌面が尽きたので割愛させていただきます。Mopho X4はアナログ・シンセの旨味を存分に堪能できるのはもちろん、現代の音楽シーンで何が求められているかを見据えた設計が随所に施されていることで、使いやすさと深い音作りを両立した快作だと思います。"アナログ=太い"というイメージだけでMopho X4を使うと、機能の半分も使わないことになるのでもったいないです。ぜひツマミ、コントローラー、鍵盤などを目いっぱい駆使し、斬新な音楽を創造するツールとして活用してほしいと思います。 ( より)