マイクプリ4基&多機能タッチ・パッド搭載のMac用オーディオI/O

APOGEEQuartet
 編集部から来た箱を開けて取り出してみると、キターッ!と某巨大掲示板よろしく顔文字まで付けたくなるくらいカッコいいQuartetがお目見え。今までの製品で一番カッコ良いと心底思います。持ち上げるとずっしり重い! うーんこの重さがまた重厚感あっていいなあ。あれこれ期待度300%まで心が盛り上がってきたこの新鋭オーディオI/O、早速見ていきましょう。

卓上タイプで12イン/8アウト仕様
高精度OLEDディスプレイも搭載


キターッ!の言葉は僕にとって別の意味で感慨深いからなのです。APOGEEのオーディオI/OラインナップにはOneやDuet 2のようにノート・パソコンの傍らが似合う小型のものと、EnsembleやSymphony I/Oのようにプロ・ユースのラックマウント型があるのですが、本機はいわばその中間で、価格もプロ機ほど高くなく、ちょうどぽっかり空いていた席に現れたような感じです。仕様といいデザインや大きさといい、個人的に真打ち登場というような気持ちです。接続はUSB2.0、24ビット/192kHz対応でMac専用。入出力は高音質マイクプリをそれぞれ搭載した4アナログ入力と、最大8chのADATデジタル入力(S/MUX対応)、6アナログ出力、そして独立したヘッドフォン出力の計12イン/8アウトです。気が利いているのはDuet 2やEnsembleとの併用も可能な点で、例えばEnsembleのADATアウトをQuartetにつないでシステムの一元化もできるので、既にそれらを持っている人も無駄にすることなく入出力を増やせるというニクい仕様なのです。外観は冒頭で述べた通り、圧倒されるくらいカッコいいです。パネルに傾斜の付いた卓上型で(写真①)、同社おなじみの大きなエンコーダーをデンと据え、非常に精細で奇麗なOLEDディスプレイの入出力用メーターを左右に2つ装備。その下には6つのタッチ・パッドがあり、これに軽く触れると各入出力の選択ができ、エンコーダーからレベル調整が可能です。さらに、パネル右上にもA/B/Cという3つのタッチ・パッドが配置されています。これは後述しますがスピーカー切り替えやディム、ミュートなど多目的な機能をアサインできるようになっている便利なパッドなのです。 Quartet_Side_Panel▲写真① パネルは適度な傾斜が付けられて、操作がしやすい作り。写真のようにパネル正面から向かって右側にはヘッドフォン出力(フォーン)を配置するリア・パネルの入出力端子は、あえて説明しなくてよいほど分かりやすい配置です、Duet 2などでおなじみのブレイクアウト・ケーブル方式はQuartetでは採用されず、すべての端子が背面に設置されているので接続が非常に把握しやすいです。1つ特徴的なのは、パソコンとの接続用USB(ミニB)に加えて、もう1つタイプAのUSBがあり、ここにUSB MIDIコントローラー/キーボードを接続できるようになっています。パソコンのUSBポートの節約になるだけでなく、デスクトップ周りの配線もスッキリしますね。早速Macにドライバーをインストールし、電源アダプターをつないでいよいよON!っと思いきや、電源スイッチが見当たりません。そこでMac本体を起動させてみると自動的にカチカチとランプがついて本機がONになりました。ワオ、Macと完全連動なんですね。そして最初に立ち上がったときには、APOGEEお約束の"システム・サウンド・デバイスとして深く連携していいですか?"というようなメッセージがMac上に現れます。APOGEE製品のレビューで毎度同じことを言っているので分かっている人もいるかと思いますが、本機でレベルなどを操作するとMacの画面にアイコンが即座に表示されます。まるでMacのキーボードで音量ボタンを押したときのような感覚なんですね。当然APPLE iTunesなどのDAW以外の音もQuartetから出力することができるので、Macのサウンド環境が劇的に良くなるわけです。実際にQuartet本体を操作してみましょう。OLEDパネルは左が入力、右が出力で、通常は全チャンネルのメーターが表示されますが、前述したように例えば入力1の下のパッド1に触れてエンコーダーを少しでも回すと、OLEDは入力1のチャンネル詳細を表示するのです。そのレスポンスと変更後に全表示に戻るタイミングが実に絶妙で、とても使い勝手が良いのです。その使い勝手をさらに良くするのがA/B/Cパッドです。その設定は付属のMaestro 2(画面①)というソフトから行うので、Mac上でそれを開いてみましょう。A/B/Cパッドには、ディム、モノサミング、ミュート、メーター・クリアなどをアサインでき、さらに6つのアナログ出力に3セットのスピーカーをつなげて出力を切り替えるセレクター的な使い方もできます。いろいろ試して一番気に入ったのは、AとBを2つのスピーカー・セットの切り替え、Cをディムにする設定(画面②)で、これで通常のDAW作業は超快適になりました。 Input3▲画面① Quartetに付属するミキサー・ソフトのMaestro 2。入出力の設定はもちろん、2系統のダイレクト・モニタリング用ミックスも作れるので、レイテンシーを考えずにレコーディングが行える お勧めDeviceセッティング▲画面② Maestro 2で、本体のアサイナブル・タッチ・パッドの機能を設定したところ。Aにスピーカー1切り替え、Bにスピーカー2切り替え、Cにディムというのが筆者のお勧めセッティングMaestro 2についても簡単に説明しましょう。入出力の設定ができるミキサー機能を持っており、レベル調節や各設定がシンプルに行えます。入力ミキサーでは、入力に応じてマイク/ライン/インスト(ギターなど)の切り替えができるほか、おなじみのSoft Limitのスイッチもあります。Soft Limitは過大入力時のひずみをアナログ風に抑えてくれる便利な機能です。さらにダイレクト・モニタリング用のミキサーも2つ用意されているので、スピーカーとヘッドフォン用に個別のモニター・ミックスを作ることもできます。

超低域から超高域までの表現力
立体的な録り音も素晴らしい


さて、いよいよ音質評価です。いつものようにCDや私がミックスした音源などをAVID 192 I/Oと聴き比べました。すっげえ!なんということだ!......44.1kHzの音源なのに、あまりに良くてこうした言葉の連発です。192 I/Oの特徴をあえて厳しく言うと"神経質に前に張り付いている音"なのですが、Quartetは超高域も超低域もちゃんと出つつ、まるで3Dステレオグラムの画像を凝視したときのようなあの透明な立体感と同じ感覚があり、中域から低域にかけてグワーンと奥行きのある空間が広がっています。常日ごろからオーディオI/Oは高域よりも中低域を表現する方が難しいと思っていたのに、あっさりとハードルを越えてしまっていて、もう192 I/Oの時代は終わったかもと感じてしまいました......。ヘッドフォンの音質も同じ傾向で素晴らしい! 本当にAPOGEEはヘッドフォン部分に手を抜かないメーカーで、今回も僕のSONY MDR-CD900STがいつもと別人のような鳴り方をしてくれました。個人的に、最近はロックのミックスばかりやっているので、この中低域の筋肉質な立体感は非常にツボで、もう何も言うことがありません。従来のAPOGEEは上品な印象ですが、本機はロックに絶対合いますよ。本当に高評価を付けちゃいます。続いて録音の検証です。NEUMANN U87AIのマイク入力とギターのライン入力をテストしてみました。......こちらももう言うことはありません。この低音大好きです。これまで、この価格帯のオーディオI/Oの音はどれもちょっとだけ窓にほっぺたをくっつけたようなつぶれ具合と張り付きを感じてしまうところがありました。192 I/Oですら低域がぼんやりとしたただの膨らみに変化したり、逆に締まり過ぎてぺったりとすることがあるのですが、本機の音はどれだけ立体的で描写力があるんだろうと感心してしまいます。この音を"力強い"と言うと乱暴に聞こえてしまうので、むしろ"肉感的"と呼んだ方が良いかもしれません。Quartetは中低域の立体感が強調されている分、上位機種のSymphony I/Oが全方位的な優等生に感じられ、個人的にQuartetの方が好みかもしれないと思ったほどです。最後にはため息の連発でした。こんなすごい製品が出てしまっては、以前の製品に戻れません。APOGEEの本気パンチは僕を完全にノックアウトしました。Quartetちゃん、このまま帰らないでずっとウチにいていいんだよ......返却しないとダメだろうけど(笑)。 Apogee001 ▲リア・パネル。左からアナログ入力×4(XLR/フォーン・コンボ)、アナログ出力×6(フォーン)、デジタル入力×2(オプティカル/ADAT S/MUX対応)、USB(ミニB/パソコン接続用)、ワード・クロック入力(BNC)、USB(A/USB MIDIデバイス接続用)。電源供給は電源アダプターで行う方式だサウンド&レコーディング・マガジン 2012年12月号より)
APOGEE
Quartet
129,800円
●接続タイプ/USB2.0 ●オーディオ入出力/12イン、8アウト ●最高ビット&レート/24ビット、192kHz ●外形寸法/258(W)×80(H)×140(D)mm ●重量/1.6kg

▪Mac/Mac OS X 10.6.8/10.7.4以降(10.8対応)、1.5GHz以上のCPUを搭載したIntel Mac、2GB以上のRAM(4GB推奨)