制作&ライブに使える9音源を搭載したワークステーション・シンセ

KORGKronos-61
KORGが発表した新世代ワークステーション型シンセKronosは、9つの大容量サウンド、シンセ、サンプラー、シーケンサー、ハード・ディスク・レコーダーまでもが一台に集約されており、制作〜ステージまで対応。ラインナップは、ナチュラル・タッチ・セミ・ウェイテッド鍵盤の61鍵モデルと、RH3(リアル・ウェイテッド・ハンマー・アクション3)鍵盤の73鍵モデルKronos-73(330,750円)&88鍵モデルKronos-88(372,750円)の3種類を用意。今回レビューするのは61鍵モデルです。3機種の違いは鍵盤だけで、インターフェースや操作方法は同様。では早速Kronos-61の実力を見ていきましょう。

8インチの大型タッチ・ディスプレイ
使い勝手の良い操作子群


電源を入れると左に装備されたジョイスティックの周りがうっすら光り、暗いステージ上で役に立ちそう。LEDの色も白に近い紫で目に優しいです。本体でまず目を引くのが、中央に設置された8インチTFT液晶。タッチ・パネル式で操作性が良く、スタイラス・ペンを用意しなくても指で操作可能です。液晶パネルの右側にはテンキー、ダイアル、音源のバンク・セレクト・ボタン、シーケンサーやサンプラーの操作子が配置されています。液晶パネルの左側にはコントロール・サーフェスと呼ばれる10本のスライダー、9つのノブ、16のスイッチを配置。これらは主に音色のエディットに使いますが、テンプレートが用意されており、ソフト音源やDAWのコントローラーとしても使用可能です。さらにジョイスティックやリボン・コントローラーまであるので、音色のエディットに必要な操作子は網羅されています。サウンドをチェックする前に簡単に音源部分について説明します。Kronosのプログラムは9種類の音源方式から2つまで組み合わせることができます。このプログラムを選ぶときは、楽器ごとにカテゴリー/サブカテゴリーが設定されているので、目的の音色に素早くアクセスできます。便利だったのは液晶パネルの右横にあるSET LISTボタンで、ここから呼び出される画面に音色を登録すると、ボタン一発でその音色を呼び出すことができます。音色切り替えを一瞬で済ませたいステージで役立つでしょう。

新たに開発されたピアノ音源は
ダンパー・ノイズや箱鳴りまでを再現


まずは本機のために新しく開発されたピアノ音源SGX-1から見ていきましょう(画面①)。201105_KRONOS61_01.jpg▲画面① Kronosのために新開発されたピアノ音源SGX-1の画面ピアノのモデルは全32種類あり、大きく分けると粒立ちが良く明るくて固めのJapanese、柔らかでリッチなGermanの2タイプに分けられます。音源の元となるサンプルはループを使用していないため、余韻が減衰する部分でも不自然さが無くスムーズ。大容量のピアノ・サンプルを使用しているだけでなく、ふたの開き具合による響きの加減やダンパー・ノイズの量が調節できます。またベロシティによる音色変化も単に音量が大小するのではなく、弱く弾いた音、強く弾いた音を忠実に再現してくれます。PCM音源とモデリング音源の"良いとこ取り"な印象を持ちました。Kronosのすごいところは大容量サンプルを使用していながらプリセットを切り替えても音が途切れないどころか、前のプリセットの音が鳴り続ける点です。例えば左手でピアノのコードを押さえたまま、右手でエレピのプログラムに切り替えて弾くと、ピアノの音が出たままエレピの音が出てくるといった具合です。次はエレピ専用音源EP-1(画面②)。201105_KRONOS61_02.jpg▲画面② 6種類の代表的なエレピをリアルに再現する音源EP-1の操作画面こちらは6タイプのモデルから選ぶことができ、音も各モデルの特徴をうまくとらえています。Kronosの音質全体に言えることですが、ハイファイで抜けがよく滑らか。EP-1は特にベロシティの音色変化が優秀で、良い状態の個体を丁寧にサンプリングしたであろうと思われます。ハービー・ハンコックのセッティングを再現したというプリセット(Herbie's"Butterfly" EP)は、強く弾くとドライブ感が出てステージ映えしそうです。エレピ自体の音の良さもさることながら、エフェクトも高品質。名機と言われるビンテージ・エフェクターをシミュレートしている模様です。特にプリセット(G.Duke Mark I Phaser EP)はフェイザーの音が気持ち良い。エディット画面にはエフェクターの画像も表示されるため音作りもしやすいでしょう。既にエフェクトなどで作り込んだプログラムでも"別のモデルが使いたい"と思えば、セッティングはそのままでモデルだけ変更可能。この辺りも音作りがしやすい利点です。続いてオルガン音源のCX-3(画面③)。201105_KRONOS61_03.jpg▲画面③ 同社のコンボ・オルガンCX-3の音源。液晶ディスプレイには画面のドローバーが表示され、液晶左のスライダーで操作が可能画面左のスライダーをドローバーとして使うことができるので、弾きながらリアルタイムに音色を変化させていくことが可能。もちろんロータリー・スピーカーのシミュレートも付いています。弦楽器のモデリング音源STR-1は、アコギやクラビネットにいいでしょう(画面④)。201105_KRONOS61_04.jpg▲画面④ 弦楽器などのモデリング音源STR-1の画面。同社のテクノロジーが凝縮されている音は粒立ちが良く、アタックがしっかりと出ていて高音域になってもシンセっぽくなりません。また、追い込んで音作りをすると、複雑な響きを持ったベルやパッド系、効果音まで作れる個性派音源でした。

往年の名機が網羅されたモデリング音源
FMシンセシス音源も搭載


アナログ・シンセ系の音源を見ていきます。MS-20EXは、もはや説明不要のKORG MS-20のモデリング音源(画面⑤)。201105_KRONOS61_05.jpg▲画面⑤ KORG MS-20を忠実に再現モデリングしたMS-20EX実機と違いポリフォニックで鳴らすことが可能。タッチ・パネル上でパッチが組めて、視認性、操作性とも良好です。また、PolysixEXも同社のPolySixをモデリングした音源(画面⑥)。201105_KRONOS61_06.jpg▲画面⑥ PolysixEXの音源。特にストリングスやパッドなどの音が欲しいときに活躍する重厚でずっしりとした音でフィルターの完成度が高く、レゾナンスを上げても細くなり過ぎないのが特徴です。AL-1はベーシックなアナログ風シンセ。波形は8種類+ノイズを選択でき、リング・モジュレーターやステップ・シーケンサーも内蔵する本格派です(画面⑦)。201105_KRONOS61_07.jpg▲画面⑦ アナログ・モデリング音源AL-1の操作画面。フィルター・カーブなどの設定が自由に行えるMOD-7は、Waveshaping VPM Synthesizerという方式のセミモジュラー・シンセ音源で、画面を見るとFMシンセシスかな、という印象(画面⑧)。201105_KRONOS61_08.jpg▲画面⑧ MOD-7のパッチング画面。パラメーターを組み合わせて自在にパッチングができるDX7シンセのサウンドも本機に対応したUSBストレージ・デバイスなどにコピーし、ロードすることが可能です。外部入力の音もFMシンセシスに対応します。プリセット(MOD-7 E.Piano Pad SW)辺りを聴くといかにもなエレピやベルの音を聴くことができます。HD-1はPCMシンセ的な音源。これだけ多くの音源方式があると、PCM音源がかすんでしまいそうですが、これは単なるPCM音源ではありません。KORG WaveStationに搭載されていたWave Sequence機能を搭載し、鳴らすだけのPCM音源とは異なります。プリセット(Prime Directive)など同機をほうふつとさせる音色が入っていて面白いです。また、オシレーターに楽器の画像が表示されるのも選びやすいポイント。

最大16系統まで使用可能なエフェクト
本格的なサンプラーとしても力を発揮


ドラム音源はHD-1に含まれます(画面⑨)。201105_KRONOS61_09.jpg

▲画面⑨ ドラムやオーケストラ系などさまざまなサンプルを含む大容量音源HD-1


スライダーでドライとルームの音のバランスを調節でき、スネアのスナッピーもON/OFF可能なため、音作りの幅は広がります。生ドラムだけでなく、フライング・ロータスのような今っぽい音(Acid Granular Kit)もあります。本機はエフェクト部分が高品位なところもポイントです。特にリバーブのO-Verbやモジュレーション系は通した瞬間に"うんうん、これだよ"とうなずきたくなるくらい秀逸です。シンセの音作りはエフェクターも込みですから、これは重要ですね。エフェクトは全部で16系統まで使用可能。KronosにはMIDIシーケンサー(16トラック)、オーディオ・トラック(16トラック、24ビット/48kHz)が搭載されており、曲のスケッチには十分な機能を持っています。Kronosの外部入力はマイクにも対応しているため、オケを本機で作り、本体背面のオーディオ入力にマイクを接続して仮歌を入れるということも可能です。サンプラー機能にも触れておきましょう。外部入力のほかにも、リサンプリングやパラアウトの音だけでもサンプリング可能。サンプリングした音はPROGRAMに変換して演奏したり、シーケンサーで鳴らすこともでき、結構本格的です。この価格であらゆる楽器の音が出せるすきの無さと、音作りのしやすさはすごいと感じました。大型液晶パネルと操作性の良さも相まってマウスでポチポチとエディットする感覚とは別次元。制作やライブでの即戦力となるのはもちろん、Kronosの魅力は、利便性と大容量かつ音質が良いということだけでなく、シンセならではの積極的な音作りまで楽しめる1台ということでしょう。201105_KRONOS61_10.jpg▲リア・パネル。中央から右に向かってUSB×3、オーディオ・インプット×2(TRSフォーン)、オーディオ・アウトプット×6(TRSフォーン)、左下からMIDI THRU、OUT、IN、S/P DIFオプティカル入出力、ダンパー・ペダル(ハーフ・ペダル対応)、アサイナブル・スイッチ、アサイナブル・ペダル
KORG
Kronos-61
294,000円
▪シンセシス方式:9種類/SGX-1、EP-1、HD-1、AL-1、CX-3、STR-1、MOD-7、MS-20EX、PolysixEX▪最大同時発音数/SGX-1:100、EP-1:104、HD-1:140、AL-1:80、CX-3:200、STR-1:40、MOD-7:52、MS-20EX:40、PolysixEX:180▪ウェーブ・シーケンス/プリロード(165)、ユーザー・メモリー(374)▪エフェクト/インサート・エフェクト:12系統、マスター・エフェクト:2系統、トータル・エフェクト:2系統、ティンバーEQ:1ティンバーにつき1基の3バンドEQ、エフェクト・タイプ:185▪MIDIシーケンサー:16トラック▪オーディオ:16トラック+1マスター・トラック▪鍵盤数/61鍵(ナチュナル・タッチ・セミ・ウェイテッド)▪外形寸法/1,052(W)×134(H)×362(D)mm▪重量/12.5kg