高品位レコーディングに最適なツイン・アンプ・マイク・キット

DPAType3541

DPA(DANISH PRO AUDIO)社は、音場測定用マイクやホール用メイン・マイクで知られるB&K社から、音楽用プロ・マイクロフォン・メーカーとして独立した会社です。今回、Type3541キットなるツイン・アンプのマイク・キットがDPA社から登場しましたので、早速ここで紹介したいと思います。

チューブ/ソリッドステートの
2つのプリアンプ・カートリッジ


このType3541ツイン・アンプ・マイク・キットは、4041マイク・カプセルに4041-Tチューブ・プリアンプと4041-Sソリッドステート・プリアンプの2種類のプリアンプ・カートリッジを組み込んだキットで、B&K HMA4000ハイ・ボルテージ・アンプ(2ch使用)、ポップ・フィルターやウィンド・スクリーン、サスペンション、10mケーブルなどと一緒に、SAMSONITEのアタッシュ・ケースにまとめられているものです。


本体の4041マイクは、DPA最上級モデルで量産限定品の4040ハイブリッド・マイクと同等の特性を持ち、このサイズでは比較的大きな1インチ・ダイアフラム・コンデンサー型カプセルを使用しています(指向性は無指向性のみ)。プリアンプの4041-T、4041-Sは、4040ハイブリッド・マイクのプリアンプ・カートリッジを2つのカートリッジに分けたようなもので、共にHMA4000アンプで駆動します。


キットの価格は750,000円(マイク単体でも460,000〜480,000円)ということで、かなり高価なマイクの部類に入りますが、B&K 4000シリーズのノウハウを持ったメーカーでもあることから、思わずその能力に期待してしまいます。


そこで、構成の似ているB&K 4003と比較しながら、実際の使用感について以下に述べていきましょう(ちなみにB&K 4003は、クラシックやホール録音でメインに使用されているマイクの1つとして、有名で実績のあるマイクです)。


S/Nが非常に良く
弱音楽器の収録に大いに有効


まずマイク仕様にもあるように、感度/85〜90mV/Pa、残留ノイズ・レベル/7〜10dB(A)、19〜22dB(CCIR)であることから、かなりS/Nの良いマイクと予想できますが、ホール録音で使用されるB&K 4003と比較しても格段にノイズの少ないマイクと言えます。また、プリアンプをチューブの方にしても聴感上ほとんど変わらず、驚くほどの静けさを実現しています。このS/Nの良さは、弱音楽器の収録に大いに有効で、演奏のダイナミクスを生かした録音にも威力を発揮するでしょう。また、ホール録音でピアニッシモの表現をとらえるには抜群のマイクと言えます。もちろん、DVDオーディオなどの高品位なレコーディング対象にも有利なマイクです。


音色的には、B&Kマイクを扱うDPA社ということもあり、B&Kに近いサウンドを期待していました。実際に音を聴いてみると、カプセルやプリアンプはB&Kのものとは違うものの、基本的なサウンド・カラーは、比較的似ているようです。


B&Kが、割と楽器の芯をしっかりとらえる、レンジの広いカマボコ型のサウンドであるのに対し、意外にもすっきりした印象を受けます。これはダイアフラムの口径から受けるイメージとは正反対で、どちらかというとハイエンドがB&Kに比べ、ややエンハンスされたサウンドと言えます。ボトムエンドも、どちらかというとB&Kの方が太いと思います。チューブ/ソリッドステートの2種類のプリアンプともに、基本的なサウンドは統一されていますが、ソリッドステートの方はハイエンドのエンハンスがやや強いです。音全体がすっきりしていると感じるのは、S/Nの良さからくるのかもしれません。


このマイクは無指向性ですが、比較的高域の指向性が一般的な無指向性マイクよりも強いようです(言うまでもありませんが、無指向性といっても中高域は指向性が表れてきます)。このことも手伝って、すっきりとした印象を与えるのかもしれません。残念ながら、今回は1本のみでのチェックだったため、無指向性を生かしたステレオ収録で評価できませんでした。サウンド・カラーやS/Nから考えても、次回はぜひホールでのワン・ポイント収録に使用してみたいです。


また、このマイク・キットの紹介として、"ボーカル/インストゥルメンツ・キット"とあります。無指向性ゆえに安易にボーカル用とは考えにくいのが一般的ですが、このマイクのサウンド・カラーと近接効果を考えると納得できる部分もあり、そのような意味では新たなチャレンジとも言えます。ただし、スタジオの音場/響きと、日本語という点から考えるとかなり慎重なセッティングを要するでしょう。個人的にはボーカルなどのオンマイクにはチューブ・プリアンプ、オフマイクにはソリッドステート・プリアンプに切り替えて使用すると思います。


この4041マイクは、間違いなく、コスト・パフォーマンスを裏切らない高品位マイクの1つと言えますが、それと同時にわれわれエンジニアの技量も試されるシビアなマイクとも言えるでしょう。



▲Type3541のキット内容(4041マイク、ポップ・フィルター、ウィンド・スクリーン、サスペンション、10ケーブル、2チャンネル・ハイ・ボルテージ・アンプなど)


DPA
Type3541
750,000円

SPECIFICATIONS

■タイプ/1インチ・ダイアフラム・コンデンサー・マイク
■周波数特性/10Hz〜20kHz
■指向性/単一指向性
■感度/チューブ:85mV/Pa ±2dB、ソリッドステート:90mV/Pa ±2dB
■残留ノイズ・レベル/チューブ:10dB(A)、22dB(CCIR)、ソリッドステート:7dB(A)、19dB(CCIR)
■最音圧レベル/144dB(SPLピーク)
■HMA4000出力ドライブ能力/最長300mケーブル長
■外形寸法/19(φ)×170(H)mm
■重量/ 190g