WESTONE AUDIO Mach 70 レビュー:計7基のバランスド・アーマチュア・ドライバーを備える3ウェイ・イアフォン

WESTONE AUDIO Mach 70 レビュー:計7基のバランスド・アーマチュア・ドライバーを備える3ウェイ・イアフォン

 一聴して、その解像度の高さに驚いてしまった……。アメリカに本社を置く、イアフォンや補聴器などの老舗ブランドWESTONE AUDIOが新たに発表したMachシリーズから、今回はMach 70を借りることができました。計7基のバランスド・アーマチュア・ドライバーを搭載する、このインナー・イア・イアフォン。早速チェックしてみましょう。

30Hz以下まではっきり“聴く”ことができる

 Mach 70のドライバーは低域×1+中域×2+高域×4の3ウェイ仕様。低域に重点を置いたバランスの良いチューニング、そして自然できめ細やかな音質を特徴としています。それならまずは、筆者の得意とするクラブ・ミュージックで、ということで、先日マスタリングを担当したばかりの作品(ジャンルで言えばハウスやフューチャー・ベース)を試聴。32ビット/48kHz WAVの楽曲ファイルをAVID Pro Toolsで再生し、オーディオI/OのPro Tools|HD Omniを介して鳴らしてみました。そこで最初に感じたのが、冒頭の一節です。解像度の高さと音のクリアさに幾ばくかの衝撃を受けつつ、低域に意識をフォーカスしてみると確かにバッチリよく分かる。クラブ系のクリエイターがよく口にする“ローが見える”というやつです。試しにソフト・シンセを立ち上げて、周波数アナライザーと照らし合わせながらサイン波を超低域まで鳴らしてみたところ、スピーカーではなかなか見えづらい30Hz辺りから、さらにもっと下まで、はっきりと聴くことができました。

 そして中域は、とても素直に鳴っている印象。ボーカルや生音系のサウンド、空間系エフェクトの左右の広がり&奥行きなどの再現性が高く、非常に判断しやすいです。また、長時間聴いていても耳が疲れにくい音だと思います。高域に耳を向けて気づいたのが、音の立ち上がりや減衰といったトランジェントの再現性もかなり高いということ。ダイナミクスに由来する迫力が感じられ、音数が多めのトラックでも飽和しません。そして、各帯域にほかの帯域を邪魔するほどの過度な主張がないため、リスニングはもちろん、曲作りからミックスまで十分に対応できるなと、この時点で思いました。

定位の細かい違いまでシビアに再現

 次に、ハードウェアの電子楽器に直接つないで試してみたく、リズム・マシンとベース・シンセサイザーが一台に収められたROLAND T-8でチェック。ピッチを下げたキック、高域が目立つ譜割の細かいスネアやハイハット、中域を担うハンド・クラップやタム、ROLAND TB-303系のシンベを鳴らしてみました。これらリズム隊のパターンは、譜割の細かいものと間を持たせたスカスカのものを作成。聴いてみると、やはり解像度の高さや粒立ちの良さが際立っている印象です。かと言って耳に痛い感じは一切なく、音量を大きく上げ下げしても音像が崩れず快適に聴けました。そしてT-8で分かったのが定位の再現性の高さ。たまたまドラム・パートの設定を誤り、センターで鳴るはずの音がほんの少しだけRch寄りになった瞬間があったのですが、それをすぐに気づかせてくれたのです。

 というのもあって、すぐに別のリズム・マシンでも試聴することに。筆者が最も聴き慣れているROLAND TR-909をミキサー経由で聴いてみました。やはり定位の再現性が高いと感じます。ここまでくると、さらにほかの音源でも試してみたくなるのが音楽人の性……というわけで、前後左右に音が飛び回るようなサイケデリック・トランス、そして過去にリリースした自分の曲をあえてアナログ・レコードで試聴。どんなソースでもバランスの良い分離感が得られ、ノイズ・チェックに有効だと感じる場面もありました。

 音質以外の面も見ていきましょう。個人的に、イアフォンで肝心なのは装着感。Mach 70は装着感もまた素晴らしく、とても軽い上に、ケーブルも細く柔らかでありながら頑丈にできている模様。4芯構造となっており、0.6Ωという低インピーダンスです。個人的にはもう少しだけケーブル長があるといいなと思いつつ、同梱のイア・チップは2種類/各5サイズずつが用意されており、フィット感の個人差はあるでしょうが、筆者には相性抜群です。付属品と言えば、耐水性と防塵性に優れるというペリカン・ケースも見逃せません。

Mach 70のパッケージ内容。右上は耐水&防塵仕様のペリカン・ケースで、その手前に2種類/各5サイズのイア・チップが並ぶ。上列がTRUE-FITフォーム・イア・チップ(密閉度重視)、下列がSTARシリコン・イア・チップ(耐久性重視)だ。その左にあるのはLINUM製のケーブルUltraBaX T2(127cm)で、脚色を排した音質を謳っている

Mach 70のパッケージ内容。右上は耐水&防塵仕様のペリカン・ケースで、その手前に2種類/各5サイズのイア・チップが並ぶ。上列がTRUE-FITフォーム・イア・チップ(密閉度重視)、下列がSTARシリコン・イア・チップ(耐久性重視)だ。その左にあるのはLINUM製のケーブルUltraBaX T2(127cm)で、脚色を排した音質を謳っている

 製品価格は20万円ほどと少々高価ではありますが、住宅事情によってスピーカーを十分に鳴らせなかったり、昨今のモバイル環境における制作の頻度の高さといった状況を踏まえれば、曲作り〜ミックス〜マスタリングの重要なパートナーとして価値は十分でしょう。実は筆者も、このパンデミック期間中に自宅での作業を余儀なくされ、いろいろとリサーチして10万円クラスのイアフォンを導入し使っていたのですが、Mach 70はそれを音質面と装着面の両方で凌駕……正直驚きましたし、少々戸惑ってしまうほどでした。

 低域の豊かさと解像度の高さが抜群のMach 70。迫力まで楽しめながら、長時間使用にも向く逸品だと思います。かっこいい曲、どこでもたくさん作れそう!

 

REMO-CON
【Profile】ハード・ダンス系を軸とするDJ/トラック・メイカー。これまでに浜崎あゆみやAAAなどのリミックス、東京五輪閉会式の楽曲の編曲を担当。FMヨコハマやblock.fmでラジオDJも務める。

 

WESTONE AUDIO Mach 70

200,200円

WESTONE AUDIO Mach 70

SPECIFICATIONS
▪形式:バランスド・アーマチュア型 ▪ドライバー構成:低域×1+中域×2+高域×4(3ウェイ/パッシブ・クロスオーバー) ▪感度:110dB/1mW @1kHz ▪周波数特性:5Hz〜22kHz ▪インピーダンス:42Ω @1kHz ▪付属ケーブル:LINUM UltraBaX T2(127cm) ▪重量:15g(ケーブルを含む)

製品情報

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