こんにちは。ギタリストの西田修大です。今回は、僕の曲作りにおけるBITWIG Bitwig Studioの活用方法をご紹介していきたいと思います。
マンドリンの演奏をSamplerでエディット
曲作りの方法は、ギターから始めることもあれば、ビートからということもあるのですが、最近はレコーディングでエレクトリック・フラット・マンドリンを弾くことが多かったので、今回はそのフレーズから発展させてみようと思います。マンドリンを使う理由はもう一つあって、それは自分のメイン楽器であるギターとはインターフェースが異なる点です。ギターよりも小さく押さえづらいですし、弦は複弦で4組あって、低いほうからG、D、A、Eと5度チューニングになっており、ギターとは音の並びが違います。その結果、キーもよくわからないまま手探りで演奏するわけですが、むしろそれがいつもとは異なる新鮮なフレーズにつながったりします。前回、Bitwig Studioではトランスポーズやタイム・ストレッチといった機能を任意にボタンで表示できることを紹介しましたが、インターフェースが発想を手助けしてくれるという点では共通しているように感じます。インターフェースの違いがアイディアに変わる瞬間はいつもとてもわくわくします。
さて、今回はマンドリンの4小節フレーズをBitwig Studioに録音して、それをSamplerに取り込みループさせることにしました。心地よい4小節や8小節のループを作ってみて、各パートを抜き差ししながら展開を考えるという手法はインスト、歌ものに関わらずよくやります。というわけで、マンドリンを録音したのですが、ピッチが少し低すぎたのでBitwig Studioのトランスポーズ機能でいろいろ変えてみた結果、キャッチーに聴こえた2音半上まで上げることにしました。さらに、Samplerに取り込む前にWAVESFACTORY CassetteとXLN AUDIO RC-20 Retro Colorをかけました。両者ともテープのワウフラッターやノイズなどを加えることができるローファイ系のエフェクトです。サンプルとしてフレーズを扱うときは、ノイズなどが混じっていた方が気持ちが上がりますし、スポイルされた感じの方がビートとのなじみも良くなりやすいです。
Samplerに取り込んだマンドリンのフレーズは、リバースも織り交ぜた再生方法に設定しました。前回もお伝えした通り、Samplerは簡単にループ範囲や再生方法を変更できるところが便利です。
次はドラムです。Bitwig Studio付属のDrum Machineで打ち込むこともありますが、今回はELEKTRON Machinedrumを使うことにしました。しかし、この段階ではSamplerで自分が気持ちいいループをただ鳴らしただけなのでテンポが分かりません。そこで、スマートフォンのメトロノーム・アプリ、Tempoを使ってタップでテンポを探ったところ74BPMでハマりました。というわけで、キックとスネアだけを、74BPMに設定したMachinedrumに打ち込み、それをBitwig Studioに録音します。Bitwig StudioとMachinedrumをMIDIでつないで鳴らしてもいいのですが、自分としてはこの方法のほうがアイディアを手早く形にできます。
ハイハットはSpliceから良さそうなものを見繕ってBitwig Studioのトラックに読み込みました。普段から、キックとスネアは打ち込むことが多いのですが、ハイハットなどの刻みものはループを使うことが多いです。ハイハットのグルーブなどは凝りだすとすごく時間がかかってしまいます。しかし、作曲の着想段階ではビートの打ち込みにあまり時間をかけすぎたくないので、こういう手法を採っています。
ギターはコンピング機能で再構築
さらにベースを加えます。これはSEQUENTIAL Prophet Xを手弾きで3テイク録音し、コンピング機能で2番目のテイクをセレクト。また、この段階で以前に同じ74BPMのテンポで作ったギター・リフがあることを思い出し、別プロジェクトからコピーしてトラックに張りつけました。ただ、キーが違うので、これはトランポーズ機能でピッチを合わせています。
ここでもう1本、エレキギターも録音します。これはループさせながら思いつくままにテイクを重ねていきました。そして、やはりコンピング機能でフレーズを選んでいくのですが、ベースとは異なり、各テイクの良いと思える箇所をドラッグしてフレーズを選びます。最初に波形を見ながら、各テイクの良さそうな部分をドラッグするとコンピング画面の最上段にある合成レーンへすぐに反映されます。このスピード感こそBitwig Studioの使いやすさの特徴ではないでしょうか。ドラッグするだけなので試行錯誤も短時間で行えます。
こうしたフレーズ選びでは、演奏の流れを無視した展開を作っていくのも楽しいです。各テイクでギターを演奏しているときの気持ちは異なるわけですが、それぞれの盛り上がった気持ちをつなげてみると、自分にとって新鮮なフレーズが生まれることがよくあります。
ちなみに、コンピングの画面からオーディオ・イベントの画面にもワン・クリックで切り替えられるので、ある部分をリバースしたり、トランスポーズしたりといった加工もすぐに行えます。これもまた発想をすぐに形にできるBitwig Studioの良さの一つです。なお、ギターを入れたことによって、先ほどのベースの音域と重なってしまい、あまり気持ちよくない状態になったので、ベースは再度弾き直すことにしました。
ここから先は、歌ものであれば歌を入れてみて、そこからまた曲を発展させていくことが多いのですが、今回は複数のボイス・サンプルを読み込み、適宜切り分けて並べ変え、トランスポーズでキーを合わせたり、タイム・ストレッチで長さを変えたりといった加工を行いました。それと並行して今回はタイム・ストレッチのモードを幾つか変えています。“Elastique Pro”を選ぶと違和感の少ない音質でタイム・ストレッチできるのですが、あえて一部分で“Stretch”や“Slice”を選んで質感を変えました。さらに“Elastique Pro”ではフォルマントを変更できるので、ここでも異なる質感を追求できます。これらの音質変化はシンセで音作りしているような感覚で楽しむことができ、ビートへのなじみも良くなるので試してみてください。
今回も駆け足で、自分なりのBitwig Studioの使い方を紹介してきました。参考になれば幸いです。
西田修大
【Profile】ギタリスト、プロデューサー。中村佳穂の最新アルバム『NIA』ではギタリストとしてのみならず、盟友の荒木正比呂とともにプロデュースを務めたほか、UA、君島大空、角銅真実、ROTH BART BARON、KID FRESINO、石若駿などの作品やライブで活躍する、今、最も注目されている音楽家の一人。
【Recent work】
『NIA』
中村佳穂
(SPACE SHOWER MUSIC)
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)