UNIVERSAL AUDIO UA Bock 187 レビュー:2種類のモードで幅広いソースに対応可能なFETコンデンサー・マイク

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 187 レビュー:2種類のモードで幅広いソースに対応可能なFETコンデンサー・マイク

 UNIVERSAL AUDIOと聞けば、1176やLA-2Aなどのアナログ・ハードウェアや、UADプラグインを思い浮かべる方が多いと思いますが、近年はオリジナル・マイクも発売し、話題となっています。そんな同社製マイクのハイエンド・ラインに自身の名前を冠するデイヴィッド・ボック氏は、ビンテージ・マイク・リペアマンの第一人者で、マイク・デザイナーとしてSOUNDELUXやBOCK AUDIOで高い評価を受けてきた人物。UNIVERSAL AUDIO UA Bock 187は、そんなボック氏がレコーディング・スタジオのチーフ・テクニカル・エンジニアを務めていた際に研究/保守してきたNEUMANN U 87の“ゴールデン・ユニット”と呼ばれるビンテージの個体にインスパイアされたものだそう。早速見ていきましょう。

クラスA回路とCINEMAG製トランスを採用。カプセルはデュアル・ダイアフラム仕様

 UA Bock 187は、48Vファンタム電源で駆動するラージ・ダイアフラムを搭載したFETコンデンサー・マイクです。指向性はカーディオイド。カリフォルニア州サンタクルーズにてハンドメイドで製造されているとのことで、品質に期待が持てます。

 黒を基調としたモダンなデザインの外箱を開封すると、立派な木製のケースに、マイク本体とマイク・ホルダーが収められています。本体は725gとほどよい重量感があり、特徴的なボディのカラーリングがスタイリッシュです。アウトプットは標準的なXLR端子で、ミニマルな設計のクラスA回路を採用し、低域のヘッドルームを高めて豊かにするために大型のCINEMAG製トランスを搭載していると資料にあります。カプセルはK67タイプのデュアル・ダイアフラム仕様で直径は1インチ。感度は-42dB(8mV)とやや低めですが、セルフ・ノイズも12dBAと低めなので一般的なマイクプリを使用する上で特に問題はないでしょう。

 コントロールは、120Hzのローカット・スイッチと、-10dBのPADを搭載するほか、モードをnormとfatで切り替えられるスイッチを搭載しています。fatにすると、低域が10~400Hzの間でブーストされるのですが、これは前述の“ゴールデン・ユニット”の特性を再現しつつ、より強化するための機能だそうです。これらの切り替えスイッチは、誤って触ることがないように本体のリアに少し奥まって配置されているので、精密ドライバーなどを使用して切り替えます。そのほかカタログ的なスペックとしては、周波数特性は20Hz~16kHz(±20dB)、出力インピーダンスは200Ω、最大SPLは125dB(1%THD)となっています。

本体背面の下部には3つのスイッチが用意されている。左からPAD(−10dB)、MODEスイッチ、ローカット・スイッチ(120Hz)。MODEスイッチはfatとnormの切り替えが可能で、fatにすると10~400Hzの低域がブーストされる

本体背面の下部には3つのスイッチが用意されている。左からPAD(−10dB)、MODEスイッチ、ローカット・スイッチ(120Hz)。MODEスイッチはfatとnormの切り替えが可能で、fatにすると10~400Hzの低域がブーストされる

normではしっかりとした芯のある音、fatではアナログ的な温かみのあるサウンドに

 それでは実際に音を聴いていきましょう。NEVE 1073にUA Bock 187をつなぎ、まずはアコースティック・ベースを録ってみます。モードはいったんnormにして、念のためPADはオンにしました。乾いたアタック感があり、しっかりとした芯のある音です。特に物足りなさを感じるというわけではなかったのですが、もう少し低域があってもよい感じがしたので、モードをfatに切り替えてみます。文字通りファットな音になりますが、ただ低域が増えるのではなく、アナログ的な温かみもあるサウンドになり、明瞭さが損なわれないのが好印象です。とはいえ多少太くなりすぎる感じがあったのでローカット・スイッチもオンにしてみましたが、低域が少なくなりすぎてしまったのでオフに戻して、DAW内のEQで150Hz周辺を少しだけカットすると良い感じになりました。この辺りは録音ソースに合わせて柔軟に対応できそうです。

 次にアコースティック・ギターも録ってみます。PADやローカット・スイッチはオフで、モードはnormにしたところ、ストロークもアルペジオも低域が膨らみすぎず、高域も細くならない質感です。1弦から6弦までバランスよく楽器のおいしいところを録音することができました。

 最後に、モードはnormのままで、男性ボーカルを録ります。解像度の高い音で、コンプをそれほどかけなくてもきちんと前に出てきてくれる印象。高域の抜けも良いのでEQで上げる必要を感じませんが、近年のマイクによく見られるようなきらびやかな雰囲気はなく、ナチュラルな質感です。もう少しだけ存在感を出せたらと思い、モードをfatに変えてみると、250Hz辺りに溜まりを感じたので、DAW内のEQで少しカットしたところ、太くて大きな音像になりました。メイン・ボーカルはfatで録って、コーラスはnormで録るというような使い方も良いでしょう。そのほか、今回は試す機会がありませんでしたが、ドラムのオーバーヘッドやルーム・マイク、ピアノのオン・マイクや、オン/オフ問わずストリングスなどに使ってみても良さそうだなという印象です。

 UA Bock 187は、カーディオイドのみの指向性ながらも幅広いソースに対応できますし、そのハイクオリティなサウンドは、多くの方に自信を持ってお勧めできます。また冒頭で、本機はU 87の“ゴールデン・ユニットにインスパイア”されたものと紹介しましたが、そのためかいわゆるU 87のクローン製品という印象はそれほどありません。ケース・バイ・ケースでnormとfatの2種類のモードを使い分けることができるという点では、このマイクならではの魅力的なサウンドを持っていると感じました。

 

山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある。

 

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 187

オープン・プライス

(市場予想価格:176,000円前後)

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 187

SPECIFICATIONS
▪形式:FETコンデンサー ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:20Hz〜16kHz(±2dB) ▪PAD:−10dB ▪最大SPL(1%THD):125dB ▪感度:−42dB(8mV) ref 1V@1Pa, 1kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪ダイナミックレンジ:113dB ▪SN比:82dB ▪外形寸法:50(W)×195(H)mm ▪重量:725g

製品情報

関連記事