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UNIVERSAL AUDIO Sphere DLX / LX レビュー:ビンテージから現代まで多彩な種類を再現するモデリング・マイク・システム

UNIVERSAL AUDIO Sphere DLX / LX レビュー:ビンテージから現代まで多彩な種類を再現するモデリング・マイク・システム

 モデリング・マイク・システム、TOWNSEND LABS Sphere L22の後継機種がブランド変更され、UNIVERSAL AUDIOから登場しました。ラインナップはSphere DLXとSphere LXの2製品。今回はステレオ録音も可能なDLXをメインにチェックしていきます。

マイク本体とプラグインで構成

 Sphere DLXとSphere LXは、マイク本体とSphere Mic Collectionというプラグインで構成されています。用意されているモデリング・マイクはDLXが38種類、LXでは20種類で、リアルタイムあるいは録音後のいずれでもモデリング・マイクを切り替えることができるほか、プラグイン上で指向性なども録音後に変更可能です。

 DLXが届いてまず驚いたのが外箱の大きさです。マイク1本にここまで大きな箱で?と思いましたが、開けてみて納得しました。しっかりとした作りで安心感のある専用ソフト・ケースにマイク本体とマイク・スタンド・マウント、そしてショック・マウント、さらに箱のフタ部分にはマイク本体の5芯XLRアウトを2本の3芯XLRへ変換するブレイクアウト・ケーブルが入っています。持ち運ぶことを考えると、ソフト・ケースがあるだけで安心感が全く違います。

Sphere DLX

Sphere DLX

 さてマイク本体はというと、こちらは以前のSphere L22と同じく高級でしっかりと作られていることが分かる見た目、そして持ったときにしっかりと感じる重厚感があります。大きな変更点はUNIVERSAL AUDIOのロゴが入ったところでしょう。このロゴが入っているだけで、やはり信頼性を感じます。

 本体背面には−20dBのPADスイッチ(DLXのみ)と2つのマイク入力のゲインを一致させるためのキャリブレーション・スイッチが用意されています(マイク入力のゲインが連続可変タイプの場合に使用。ステップ式の場合は不要)。

 次にマイク本体のスペックを確認して驚いたのですが、セルフ・ノイズ(等価ノイズ・レベル)が7dBAと相当に低いことは特筆すべき点です。セルフ・ノイズを極力抑えることによって、現代の低ノイズなサウンドでビンテージ・マイクのモデリングを楽しむことが可能となっています。

オーディオ・インターフェースのマイクプリは2ch必要

 まずはマイク本来の音を確認するためプラグインを使用せずに音質をチェックしてみたのですが、ナチュラルかつ鮮明に、そして原音を忠実に再現してくれました。モデリングを行うことを考えると、この点は非常に重要なポイントとなります。もともとの録り音に色付けがされていたら、モデリングした場合にもSphereの音がどうしても反映されてしまいますからね。この音質だけでも、この価格帯のマイクとしては非常に優秀だと感じました。

 なお、DLX/LXを使用する場合、オーディオ・インターフェースには必ず2chのファンタム電源付きマイク入力が必要です(マイク出力は前述のブレイクアウト・ケーブルで2本に分岐)。またDLXはステレオ録音も可能ですが、モノラル録音の場合も必ずステレオ・トラックで収録してください。そしてDLXをモノラルで使用する場合はマイク正面のUAロゴを対象に向けて収録し、ステレオ録音の場合は、マイクを対象に対して真横に向けます。

ネイティブとDSPの両環境に対応したプラグイン

 次にSphere Mic Collectionをチェックします。このプラグインはネイティブとDSP環境の両方に対応しており、ネイティブ版はAAX/AU/VST2/VST3に対応しています。DSP環境としては同社のオーディオ・インターフェースであるApollo上で動作するUAD版(AAX/AU/VST2)と、AVID Pro Tools|HDXで動作するAAXがあります。ApolloでUAD版を試用すると、レイテンシーをほとんど感じることなく、リアルタイムでマイクのチョイスや音質の調整を行うことが可能です。自宅録音では、ミュージシャンにとってレイテンシーが非常に大きな問題となってきます。この点を解決できるのはかなりの強みだと感じました。また、このプラグインには2種類あり、モノラル録音ではSphere Mic Collectionを、ステレオ録音ではSphere Mic Collection 180を使用します。

 私はPro Tools環境でUAD版とネイティブ版の両方を試してみました。画面はSphere L22のときと比べて視認性が上がっています。またネイティブ版を使って気づいたことは、プラグイン自体が非常に高速で軽いということです。これは、使用環境に左右されないための重要なポイントですね。

 Sphere Mic Collectionを立ち上げるとマイクを選ぶSOURCE MIC画面が表示されます。ここで今回使用するDLXを選びます。次にモデリング・マイクの一覧を確認してみると、“47”や“67”、“251”“800”といった名前の付いたアイコンが並んでいます。ラージ・ダイアフラムだけでなく、“SD-451”などのスモール・ダイアフラムや“RB-121”といったリボン・マイク、“DN-57”“DN-7”などのダイナミック・マイクも並んでいます。

モデリング・マイクの選択画面で、LARGE CONDENSERのタブを選択すると、ラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクを選ぶことができる。名前に付けられた数字とアイコンのグラフィックを見れば、モデリングの対象となったモデルを推測できるだろう

モデリング・マイクの選択画面で、LARGE CONDENSERのタブを選択すると、ラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクを選ぶことができる。名前に付けられた数字とアイコンのグラフィックを見れば、モデリングの対象となったモデルを推測できるだろう

こちらはHYBRIDのタブを選択した状態。スモール・ダイアフラムやリボン、ダイナミックなどのモデリング・マイクが並んでいる

こちらはHYBRIDのタブを選択した状態。スモール・ダイアフラムやリボン、ダイナミックなどのモデリング・マイクが並んでいる

録音後に指向性や近接効果などを変更可能

 また、Sphere Mic Collectionには豊富なパラメーターが用意されています。9つの指向性を選べるPATTERN、ローカットなどが可能なFILTER、音源に対してダイアフラムの角度を0°〜180°の範囲で変更できるAXIS、近接効果の割合を−100%〜100%の間で選べるPROXIMITY、指向性を反転するREVなどで、これらは録音後でも変更可能です。

 さらに、SE ELECTRONICS Reflexion Filterをはじめとするアイソレーション・フィルターを使用している方にとって便利なのが、ISOSPHEREという機能です。使用しているアイソレーション・フィルターのプリセットを選ぶと、より自然なサウンドで録音が可能となっています。

ISOSPHERE機能では、使用しているアイソレーション・フィルターのプリセットを選ぶことで、より自然なサウンドに補正することが可能

ISOSPHERE機能では、使用しているアイソレーション・フィルターのプリセットを選ぶことで、より自然なサウンドに補正することが可能

 さて、気になるモデリングの音ですが、最初に男性ボーカルのトラックで、今回新しく追加された“LD-BV1”をチョイスしてみました。これはBRAUNER VM1のモデリング。その場の空気感をリアルに収録してくれるVM1ですが 、歌い手の表情まで見えてくる繊細さをしっかりと再現できています。このサウンドだけでも購入の価値があると思いました。この“LD-BV1”の現代らしいナチュラルで自然な空気感に、違うニュアンスを足したいと思ったときにはDUALモードがお薦めです。これはモノラル音源でも2本のモデリング・マイクをブレンドできる機能。例えば“LD-BV1”に、ビンテージ・マイク系の“LD-67”を追加すると温かみのある音を加えることができます。あるいはパンチを足したいと思ったら、ダイナミック・マイクの“DN-20”をミックスしてみてもよいでしょう。このDUALモードこそ、Sphere L22のときから筆者のお気に入りで、マイクの組み合わせとミックス次第で無限の音作りを可能にしています。

 次に女性ボーカルを試してみたところ、声の抜けが非常に良いシンガーだったので、“LD-251”が最もマッチしました。TELEFUNKEN Ela M 251のモデリングですが、この音がワンクリックで再現されるのは改めて感動です。

女性ボーカルに使用した“LD-251”。PATTERN(赤枠)で指向性を9種類の中から選択でき、FILTER(黄枠)でローカットなど、AXIS(緑枠)でダイアフラムの角度調整、PROXIMITYで近接効果の調整を行える

女性ボーカルに使用した“LD-251”。PATTERN(赤枠)で指向性を9種類の中から選択でき、FILTER(黄枠)でローカットなど、AXIS(緑枠)でダイアフラムの角度調整、PROXIMITYで近接効果の調整を行える

 続いて、アコースティック・ギターのモノラル録音を新しく追加された“LD-103”で試してみたところ、不要なローが取り除かれると同時に、ナチュラルな抜けが足されて非常にマッチしました。NEUMANN TLM103のモデリングということでビンテージとは違うサウンドを楽しめます。ここでもまたDUALモードで、“LD-87 TK”の密度の高いローミッドを足してみると、より芯のあるしっかりとした音作りが可能となりました。

アコースティック・ギターではDUALモードで“LD-103”に“LD-87 TK”をブレンド

アコースティック・ギターではDUALモードで“LD-103”に“LD-87 TK”をブレンド

 続けて、アコギのステレオ録音を試してみました(ステレオなのでプラグインはSphere Mic Collection 180を使用)。モデリングはやはり“LD-103”が非常にマッチ。ホール側を太めのサウンドで“LD-49”などにしてみても色付けができて面白いかもしれません。

ピアノやドラムのトップなどのステレオ収録でも効果を発揮

 さらに、ピアニストのtatsuya氏がTHE GLEEというホールで行ったソロ・ライブをステレオ収録してみました。この会場にはSTEINWAY&SONS B-211というクラシカルで自然な響きのピアノが常設されています。幾つかモデリングを試したところ、新しく追加された“RB-121”が非常に合いました。

ピアノのステレオ収録では“RB-121”を使用。ステレオでのプラグインはSphere Mic Collection 180を使用する

ピアノのステレオ収録では“RB-121”を使用。ステレオでのプラグインはSphere Mic Collection 180を使用する

 これはリボン・マイクのROYER LABS R-121のモデリング。リボン・マイク特有の高音の滑らかさがピアノの耳につく帯域を和らげてくれます。しかも、ほかのリボン・マイクに比べてパキッとした現代の音楽にマッチした一面も持つR-121らしさが再現されているため、ふくよかな中低域から自然に伸びる高域までしっかり表現してくれました。

 最後にドラマーのリ・リョンギ氏の自宅スタジオにお邪魔して、ドラムのトップにステレオで使用してみました。リボン・マイク系を幾つか試してみたのですが、明るく抜けの良い音が欲しかったので、BEYERDYNAMIC M 160のモデリングである“RB-160”を試してみたところ見事にハマりました。リボン・マイクはドラムのトップやルームで使用される機会が多いため、その種類が増えたことでドラムのサウンド・メイクの幅が大いに広がりました。今回はアコースティック楽器のトラックが多い楽曲のドラムとして使用したのですが、打ち込みや激しいロックなどのドラムでトップとして使用する際は、前述の“LD-BV1”という選択肢も考えられるでしょう。

 マイクのモデリングは別売されている2つのオプションで拡張することもできます。一つはエンジニア/プロデューサーのアレン・サイズが所有するマイクをモデリングしたOcean Way Mic Collection。

別売のOcean Way Mic Collection。エンジニア/プロデューサーのアレン・サイズ所有のマイクがモデリングされている

別売のOcean Way Mic Collection。エンジニア/プロデューサーのアレン・サイズ所有のマイクがモデリングされている

 もう一つは、UNIVERSAL AUDIOの創業者であるビル・パットナムが使用したマイクをモデリングしたPutnam Mic Collectionです。両者を試してみましたが、いずれも個性的なサウンドのモデリングがそろっている印象でした。中でもOcean Way Mic Collectionに収録されている“OW-47”をピアノで使用した際の豊かな低域感にはほれぼれしました。なお、これらのオプションはSphere Mic Collectionと同時に使用可能なので、DUALモードで両方のマイクをブレンドできます。

 ここまでDLXをレビューしてきましたが、Sphere LXについても触れておきましょう。こちらはモノラル録音のみで、モデリング数は20種類。DLXに比べると小さめのソフト・ケースに入っており、重量もそれほどではないため、持ち運びに便利です。手軽に多くのモデリング・マイクを導入できるのはうれしいメリットでしょう。

Sphere LX

Sphere LX

 Sphere DLX/LXは、録音環境に左右されずワンクリックで無限のサウンド・メイクが可能な点が本当に素晴らしいと思いました。自宅録音が容易となった今、さまざまな環境下でのレコーディングに対応する両モデルは今の時代に非常にマッチした製品といえるでしょう。

 

小﨑弘輝
【Profile】LiMu Create代表。Columbia College Chicagoでレコーディングを学び、One Night Only、クレモンティーヌ、DEPAPEPEなどの録音/ミックスのほか、ライブ録音/ミックスの経験も豊富。

 

UNIVERSAL AUDIO Sphere DLX / LX

Sphere DLX:オープン・プライス(市場予想価格:211,200円前後)|Sphere LX:オープン・プライス(市場予想価格:139,700円前後)

UNIVERSAL AUDIO  Sphere DLX / LX

SPECIFICATIONS
Sphere DLX
▪等価ノイズ・レベル:7dBA ▪最大SPL(1% THD):140dB(−20dBパッド・スイッチ有効時) ▪感度:−33dB(22mV)ref 1V@1Pa, 1kHz ▪外形寸法:63(φ)×225(H)mm ▪重量:約770g(本体) ▪付属品:ショック・マウント、マイク・スタンド・マウント、マイク・ケーブル、キャリング・ケース

Sphere LX
▪等価ノイズ・レベル:10dBA ▪最大SPL(1% THD):145dB ▪感度:−39dB(11mV)ref 1V@1Pa, 1kHz ▪外形寸法:50(φ)×195(H)mm ▪重量:約545g(本体) ▪付属品:マイク・スタンド・マウント、マイク・ケーブル、キャリング・ケース

REQUIREMENTS
▪ハードウェア:Sphere DLXもしくはSphere LX、マイク入力(XLR)とファンタム電源を2ch備えたマイク・プリアンプもしくはオーディオ・インターフェース
▪Mac:macOS 10.15/11/12/13、APPLEシリコンもしくはINTELプロセッサー
▪Windows:Windows 10/11(64ビット)、INTELもしくはAMDプロセッサー
▪対応フォーマット:ネイティブ版(AAX/AU/VST2/VST3)、DSP版(UAD:AAX/AU/VST2、AVID Pro Tools|HDX:AAX)

製品情報

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