TOONTRACK EZ Drummer 3 レビュー:少ない手順でイメージ通りのトラックを制作できるドラム音源

TOONTRACK EZ Drummer 3 レビュー:少ない手順でイメージ通りのフレーズ&サウンド制作が可能なドラム音源

 TOONTRACK EZ Drummerはドラムの扱いに不慣れな作曲家、ミュージシャンでも簡単に本格的なドラム・トラックを作成できる非常にフレンドリーなドラム音源として2006年に誕生しました。EZ Drummer 3はその最新版にあたります。

他パートのリズムに適したパターンを作成できるBandmate機能

 サンプリング技術の進化とともにドラム音源は複雑化し、今では使いこなすためにレコーディング・エンジニア並みの高度な知識と技術を要求される製品も多数存在する中、このEZ Drummer 3は、まさしく“EZ”というコンセプトを再定義するような簡単さで、初めてドラム・トラックを作成する人にもストレスを感じさせない作りになっています。もちろん、恩恵を得られるのは初心者だけではありません。EZ Drummer 3は難しい部分だけではなく面倒な部分も幅広く肩代わりしてくれます。例えば、EZ Drummer 3でドラム・パターンを制作した後に、上位版にあたるドラム音源、Superior Drummer 3で細かな表現力を追求するといったワークフローも考えられますし、時間に追われているときはベースやギターのトラックを先に作ってしまって、後からEZ Drummer 3自体にドラム・アレンジを任せるといった使い方もできるのです。

 それでは本題に移りましょう。ミュージシャンにとってドラム・トラックの作成が難しい理由は、

●アレンジメントの難しさ
●サウンド・メイク、ミックスの難しさ

に大別することができますが、EZ Drummer 3がどのようにこれらの課題をサポートしてくれるか解説していきます。

 まず新機能のBandmateを使うと、曲に合ったドラム・パターンが半ば自動的に生成されます。ベースやギターの波形、あるいはMIDIファイルを読み込んでジャンルやスタイルを選択するだけで、そのベースやギターの演奏に適しているとEZ Drummer 3が判断したドラム・パターンを提案してくれるのです。つまり、ギタリストであってもベーシストであってもキーボーディストであっても、リズム・パートさえ録音すれば、あとはBandmateがやってくれるというわけです。

 しかも、Bandmateで生成したパターンは、キックが入る回数やスネアのゴーストの量、金物の刻みの細かさも、ノブを回すだけで簡単に調節できます。ある程度、納得のいくパターンになったらソング・トラックにドラッグ&ドロップした後に、EZ Drummer 3のリズム・プログラミング画面であり、多彩なヒューマナイズ機能を備えたGrid Editor画面で微調整するとよいでしょう。DAWにMIDIデータを流し込んで編集してもよいのですが、EZ Drummer 3の中でMIDI編集が完結できるのも“EZ”たるゆえんの一つと言えます。

上段のトラックがBandmate機能のために読み込んだベースのオーディオ・ファイルで、2段目のトラックがBandmate機能で作成されたリズム・パターン。その下のSnare、Kick、Hi-Hatの3つのノブでは、スネアのゴースト量、キックの数、ハイハットの刻みの細かさなどをそれぞれ調節して、よりイメージに近づけていくことができる

上段のトラックがBandmate機能のために読み込んだベースのオーディオ・ファイルで、2段目のトラックがBandmate機能で作成されたリズム・パターン。その下のSnare、Kick、Hi-Hatの3つのノブでは、スネアのゴースト量、キックの数、ハイハットの刻みの細かさなどをそれぞれ調節して、よりイメージに近づけていくことができる

 また、EZ Drummer 3にはジャンルやスタイルに応じて極めて豊富なMIDIグルーブ(ドラム・パターンのMIDIデータ)のプリセットが用意されているので、いちからドラム・パターンを考える労力は必要ありません。そのMIDIグルーブを検索する際の機能の一つであるTap2Findも前バージョンに引き続き健在です。例えば、1小節の間でどのタイミングにキックとスネアをたたいてほしいかは決まっているものの、細かいニュアンスを付けたり、金物のパターンを考えるのが面倒くさい、または分からないときはTap2Findでキックとスネアの位置を指定するだけで、それに近いMIDIグルーブをプリセットからリストアップしてくれます。

Tap2Find機能。下に見えるステップ・シーケンサー的な画面でスネアとキックを打ち込めば、類似したMIDIグルーブを検索/表示してくれる。欲しいリズムを素早く探せて非常に便利

Tap2Find機能。下に見えるステップ・シーケンサー的な画面でスネアとキックを打ち込めば、類似したMIDIグルーブを検索/表示してくれる。欲しいリズムを素早く探せて非常に便利

 さらに、“スネアはこのグルーブがいいんだけど、キックはあっちのグルーブの方がよい”という具合にプリセットがしっくりこなければ、Groove Parts機能を使って複数のMIDIグルーブからスネアやキックなどのパート単位でパターンを抽出し混ぜ合わせることもできます。

Groove Parts機能を使うと、ハイハットやスネア、キックなどを異なるMIDIグルーブから抽出して、入れ替えることができる。上の画面ではキックの入れ替えを試みている

Groove Parts機能を使うと、ハイハットやスネア、キックなどを異なるMIDIグルーブから抽出して、入れ替えることができる。上の画面ではキックの入れ替えを試みている

 それでも、出来上がったリズムが曲にマッチしないことがあるかもしれません。そんなときはEdit Play Style機能が役に立ちます。実際のレコーディング・セッション中にドラマーに対して、“たまにハイハットをオープンさせながらたたいてほしい”“スネアのゴーストの量を少し増やしてほしい”といったお願いをするような感覚でこれらのことが実現できてしまいます。EZ Drummer 2にもあったこの機能ですが、AIの力で非常に賢く進化しており、実際のドラマーと同じように音の強弱やパターンを考えてくれます。

 ドラムのアレンジには慣れていても、パーカッションとなると勝手が分からない人がいるかもしれません。EZ Drummerはパーカッション・アレンジメントまでもサポートします。EZ Drummer 2と同様にEZ Drummer 3のパーカッションもドラム・キットとは独立した状態で読み込まれるので、ドラム・キットを変更しても同じものを使うことができます。

 パーカッションを楽曲に加える最も簡単な方法は、Edit Play Styleでパーカッションを追加することです。どのようなフィールでたたいてほしいかを指定するだけで楽曲にパーカッションが加わります。また、プリセットのMIDIグルーブを読み込んでも構いません。既にソング・トラックにドラム・パターンが存在していても、パーカッションの情報だけをマージすることができるため、せっかく作ったドラム・パターンを上書きしてしまう心配もありません。

ハンザ・スタジオで録音された7種類のドラム・キット

 ドラム・パターンが仕上がったらあとは音作りです。多くのミュージシャンにとってドラム音源を選ぶ際の最大の関心事はその音だと思いますが、ここからはEZ Drummer 3がどのように音作りを解決してくれるかを解説していきます。

 ドラム・サウンドはスタジオとエンジニアの個性で千変万化しますが、EZ Drummer 3に付属するコアライブラリーはSuperior Drummer 3用の拡張ライブラリー『The Rooms of Hansa SDX』と同じベルリンのハンザ・スタジオで録音されており、そのクオリティは折り紙付きです。ハンザ・スタジオは容積や響きの異なるスタジオが選べるのが特徴的ですが、EZ Drummer 3のライブラリーは壁が大理石で作られていて明るく硬い響きの得られるBright Room、ナチュラルで適度な響きがあり汎用的に使えるMain Room、非常に狭い部屋で収録された極端にタイトなTight Roomの3種類のスタジオで計7つのドラム・キットが収録されており、多岐にわたるジャンルやスタイルに対応できます。収録容量も約18GBとなかなかで、これは2009年発売のSuperior Drummer 2のプリセットとほぼ同程度です。表現力も初期のEZXシリーズ(別売の拡張ライブラリー)と比べると飛躍的に向上しており、サンプルのバリエーションの少なさにストレスを感じることはないでしょう。

 しかし、どんなに素晴らしいロケーションでどれほど優れたエンジニアがレコーディングしたサンプルでも、それをミックスするとなると困難を極めます。ドラムは一般にほかの楽器よりも多くのマイクで録音され、しかも各マイクにそれぞれのパートの音が、かぶり合って収録されるのでバランスを取るために同時にマネージメントしなければならない情報がほかの楽器に比べて各段に多いのです。プロのエンジニアであればそれこそがドラム・トラック制作の楽しみと言えますが、普通のミュージシャンにとっては敷居の高いタスクになりがちです。EZ Drummer 3はこの苦悩からミュージシャンを開放するために直感的で分かりやすいミキサー機能と豊富なプリセットを用意しています。もちろん、EZ Drummer 3のライブラリーはある程度作り込まれた波形が収録されているため、立ち上げてすぐに“良い音”を楽しむことができます。その上で、ライブラリーの録音を行ったエンジニアのマイケル・イルバート氏がある程度の方向性やスタイルを想定して音量バランスを整えた汎用的なプリセットや、TOONTRACKがより積極的に音作りを行ったプリセットが用意されており、これらを読み込むとミキサー画面にアクセスせずとも欲しい音にたどり着くことができます。

豊富に用意されたミキサーのプリセット

豊富に用意されたミキサーのプリセット

 より細かく調整したい場合は、ミキサー画面を開けば各マイクのアウトプットやかぶり量、エフェクト・センド量の調整などを柔軟に行うことが可能です。各チャンネルのボリュームはMIDI learnや直接CCを割り当てることでコントローラーからも操作できるため、曲の中でオートメーションを描くことも容易に行えます。慣れてきたらマルチアウトしてDAW側で好きなエフェクトをかけても面白いでしょう。

ミキサー画面で各楽器の音量やマイクのかぶり量、エフェクトのセンド量などを自由に調整可能

ミキサー画面で各楽器の音量やマイクのかぶり量、エフェクトのセンド量などを自由に調整可能

 また、EZ Drummer 3付属のライブラリーやEZXシリーズは、Superior Drummer 3でも使用できます。EZ Drummer 3でドラム・アレンジを学び、上達してきたらSuperior Drummer 3へ移行するという道が用意されているのもEZ Drummer 3を選ぶ大きな理由ではないでしょうか。

 このように、膨大な機能とテクノロジーが賢く組み合わさることにより驚くほどシンプルなワークフローでドラム・トラックを作れるようにしてくれたのがEZ Drummer 3です。また、TOONTRACKにはベース、キーボードでも同様にアレンジをサポートしてくれるEZ BassとEZ Keysというプロダクト・ラインがあります。EZ Drummer 3とEZ BassとEZ Keysでバンド・アレンジをしていれば、どの楽器からアレンジを始めても少ない手数でハイクオリティな楽曲を簡単に仕上げることができるので、EZ Drummer 3の登場は単一のプロダクトの発表であると同時に大きなエコシステムの完成と言っても過言ではないでしょう。

 

青木征洋
【Profile】作編曲家/プロデューサー。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや北米、欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める。

 

TOONTRACK EZ Drummer 3

19,800円

TOONTRACK EZ Drummer 3

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.10/10.11/10.12/10.13/10.14/10.15/11(INTEL CPUまたはM1 CPU)/12(INTEL CPUまたはM1 CPU)
▪Windows:Windows 8(64ビット)/10 (64ビット)/11
▪共通:プラグインおよびスタンドアローンともに64ビットのみに対応、RAM8GB以上(処理速度の速いCPUおよび十分に余裕のあるRAMを推奨)、18GB以上のストレージ空き容量(インストール時は約2倍の空き容量が必要)、インターネット接続およびE-Mailアドレスが必要

製品情報

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