Bitwig Studioは楽器的なDAW|解説:西田修大

Bitwig Studioはセッションしている感覚で使えて楽器的な魅力を持つDAW|解説:西田修大

 はじめまして。ギタリストの西田修大です。今月からBITWIG Bitwig Studioの魅力について紹介していきます。よろしくお願いします。

プロジェクト間でコピーが簡単

 Bitwig Studioは、バンド・メンバーとセッションしながら曲を作っているような感覚になれるDAWだと思っています。恐らくDAWユーザーの多くは、頭の中で描いたフレーズや音のイメージを、清書するようにトラック上で具体化していくことが多いのではないでしょうか。僕もそういう使い方をすることはありますが、それは全体の3割程度だと思います。残りの7割はBitwig Studioからもインスパイアされながら、一緒に曲作りを行っている、そんな使い方、向き合い方をしています。今回は僕の好きな幾つかの機能を通して、そうした“セッション感”をお伝えできたらと思います。

 Bitwig Studioを使い始めたのは、中村佳穂のバンドに参加したのがきっかけです。一緒に楽曲制作を行う際に、DAWが同じだとたくさんのメリットがあると思います。このバンドではキーボードの荒木正比呂、ドラムの深谷雄一が2人ともBitwig Studioのユーザーで、自分にも勧めてくれました。また荒木は三重に住んでいるということもあり、スムーズにリモートで制作を行うために同じDAWにしたという理由もあります。

 同じDAWを使ったリモート制作では、Dropboxなどでプロジェクト・ファイルを共有して、ビデオ通話などをしながらリアルタイムに制作を進めていくことができます。従来のDAWユーザー同士のよくあるやり取りと言えば、何か変更を行ったらファイルを書き出してメールなどで送り、「あ、ちょっと違うかも」となったら、また書き出して送って、ということを繰り返すことが多かったと思います。これはたくさんアイディアを出し合いながら曲を作っていこうとする場合に、かなり面倒です。でも、お互いに同じプロジェクトを開いて、「さっきのフレーズ良かったから、このテンポとキーで打ち込んでみてくれない?」とか「1個前のフレーズにしてみようか?」「テンポ上げてみたらどうかな?」といった会話をしながら、プロジェクトを変更するたびにそれぞれが保存していけば、スタジオでセッションしているような感覚で制作を進めていけます。

 このような楽曲制作スタイルで便利なのが、複数のプロジェクトを同時に開いておいて、簡単にタブで切り替えられるところです。しかも、トラック上のオーディオ・データやMIDIデータ(クリップと呼びます)をドラッグして、プロジェクト・ファイルのタブ上にカーソルを当てるだけで別のプロジェクトが開くので、ドロップして簡単にコピーすることができます。例えば、ある曲を作っていて何か違うなと思ったら、とりあえずそれは置いておいてタブで別の曲に切り替えます。そしてしばらく進めていると、「あ、あっちの曲のあのフレーズが合うかも」と思いついたりします。そんなときには、すぐにドラッグ&ドロップでフレーズを持ってくることができます。この使い勝手は、バンドでスタジオに入って、あれこれ会話しながら曲作りしているような感覚に近いと思っています。

Bitwig Studioは複数のプロジェクトを立ち上げておき、プロジェクト間でクリップをドラッグ&ドロップでコピーできる。赤枠の部分がプロジェクトを切り替えるタブで、この画面では2つ開いている。黄色枠で囲んだクリップをドラッグして、このタブに当てればプロジェクトが切り替わる。あとは任意の場所にドロップすればコピー完了

Bitwig Studioは複数のプロジェクトを立ち上げておき、プロジェクト間でクリップをドラッグ&ドロップでコピーできる。赤枠の部分がプロジェクトを切り替えるタブで、この画面では2つ開いている。黄色枠で囲んだクリップをドラッグして、このタブに当てればプロジェクトが切り替わる。あとは任意の場所にドロップすればコピー完了

アイディアをすぐに試せる操作性の良さ

 Bitwig Studioのセッション感は、クリップのトランスポーズやタイム・ストレッチといった機能にも表れています。デフォルトでは、クリップを選択するとトラックが並ぶアレンジビューの上部にCLIPというボタンが表示されます。その中にトランスポーズなどのメニューが用意されているのですが、各メニュー名の右端にピンのようなアイコンがあり、これをクリックすると、CLIPボタンの隣に各機能のボタンを並べることができます。

CLIPボタンをクリックすると上の画面のメニューが開く。赤丸内のピンのアイコンをクリックすると、矢印が示すようなボタンを追加できる

CLIPボタンをクリックすると上の画面のメニューが開く。赤丸内のピンのアイコンをクリックすると、矢印が示すようなボタンを追加できる

 よく使う機能を置いておけば、“ドラムを2倍速にして、オクターブ上げてみよう”といった発想をすぐ形にできます。これはまるでギターを弾きながら、ひらめきでコンパクト・エフェクターを踏むような感覚です。アンドゥのボタンもすぐ近くに配置されているので、“違ったな”と思ったら、すぐ元に戻せます。トランスポーズやタイム・ストレッチといった機能はどのDAWにもありますが、さまざまなアイディアを直感的に試行錯誤できるようにユーザー・インターフェースが設計されているのもBitwig Studioの特徴と言えるでしょう。

上の画面は“50%にスケール”という機能を使って、赤枠内のクリップの長さを半分にした様子。ピッチは変わらないのでタイム・ストレッチの機能だ。西田は上の画面において、CLIPボタンの左横に、“コンテンツのダブル”“50%にスケール”200%にスケール”“トランスポーズ - 1オクターブ上”“トランスポーズ - 1オクターブ下”を表示させている

上の画面は“50%にスケール”という機能を使って、赤枠内のクリップの長さを半分にした様子。ピッチは変わらないのでタイム・ストレッチの機能だ。西田は上の画面において、CLIPボタンの左横に、“コンテンツのダブル”“50%にスケール”200%にスケール”“トランスポーズ - 1オクターブ上”“トランスポーズ - 1オクターブ下”を表示させている

 直感的という意味では付属サンプラーのSamplerも気に入っています。ループ区間を簡単に設定できて、その再生方法も単一方向とピンポンを選べるので、これを使ってフレーズを作ることは多いです。ギターをワン・フレーズ録って加工したりといったこともよくします。もちろん、こういうフレーズはオーディオ編集でも作れますが、Samplerを使うと自分も予期していなかったフレーズが生まれてくるところが面白いです。

付属のサンプラー音源、Sampler。再生区間やループの再生モード、ループの区間などを赤枠部分で手軽に設定できる

付属のサンプラー音源、Sampler。再生区間やループの再生モード、ループの区間などを赤枠部分で手軽に設定できる

 このSamplerとよく組み合わせて使うのがLFOです。Bitwig Studioではインストゥルメントやエフェクトなどを総称してデバイスと呼びますが、このデバイスの一つがLFOで、エンベロープ・ジェネレーターやステップ・シーケンサーなどとともにモジュレーターというカテゴリーに属しています。LFOをインストゥルメントと組み合わせると、さらに表現の幅が広がります。最初はどんなときに使えばいいのか分からなかったのですが、いろいろ試しているうちに簡単にトレモロが作れたりして、とても便利なことが分かりました。今ではギターを弾いているときに、“あのエフェクターの前にLFOを入れればこんな音になるな”と発想したりするきっかけにもなっています。

SamplerにLFO(赤枠部分)を追加したところ。LFOのディスティネーションはフレキシブルに設定できる。複数設定も可能だ。

SamplerにLFO(赤枠部分)を追加したところ。LFOのディスティネーションはフレキシブルに設定できる。複数設定も可能だ。

 最後にもうひとつ、クリップランチャーを紹介します。これはアレンジビューとは独立したクリップ再生用のスロットで、フレーズのアイディアを試したいときにとても便利です。例えば、2小節のシンセ・フレーズを4種類作ってどれがハマるか試してみたいとします。普通は4つのトラックに並べてミュートとソロで聴き比べていきますが、これはちょっと面倒です。それよりもアレンジビューをループ再生しながら、クリップランチャーに並べた4つのクリップを順番に再生したほうが簡単なので、アイディアの倉庫として使っています。

赤枠部分がクリップランチャー。ここに並べたクリップはアレンジビューと独立して再生することが可能。もちろん、ドラッグ&ドロップでお互いにクリップのコピーを行える

赤枠部分がクリップランチャー。ここに並べたクリップはアレンジビューと独立して再生することが可能。もちろん、ドラッグ&ドロップでお互いにクリップのコピーを行える

 Bitwig Studioを使っていると、何かを発見したり、影響を受けたりする瞬間が多いので、楽器的なDAWと感じています。ギターでは、自分のイメージをできるだけそのまま表現しようとすることも多い一方で、そのギターの機能やサウンド自体からフレーズや楽曲が生まれることもよくあります。それに近い感じです。来月もそんなBitwig Studioの魅力を紹介します。

 

西田修大

【Profile】ギタリスト、プロデューサー。中村佳穂の最新アルバム『NIA』ではギタリストとしてのみならず、盟友の荒木正比呂とともにプロデュースを務めたほか、UA、君島大空、角銅真実、ROTH BART BARON、KID FRESINO、石若駿などの作品やライブで活躍する、今、最も注目されている音楽家の一人。

【Recent work】

『NIA』
中村佳穂
(SPACE SHOWER MUSIC)

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円
※7月31日まで、最大1万円OFFのキャンペーンを実施中

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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