TIERRA AUDIO New Twenties レビュー:LUNDAHLライン・トランスを採用したエレクトレット・コンデンサー・マイク

TIERRA AUDIO New Twenties レビュー:LUNDAHLライン・トランスを採用したエレクトレット・コンデンサー・マイク

 数年間の研究開発を経て、エスター・グテレス氏とハビエル・パスカル氏により、スペインのマドリッドで創業されたプロ・オーディオ機器メーカーTIERRA AUDIOより登場したコンデンサー・マイクNew Twenties。1920年代のカーボン・マイクをほうふつさせる見た目、そして開発者の意図する新たな2020年代のマイクとしての存在感、意図をふつふつと感じ、それは全く懐古主義的な感触ではなく、まさにネオ・ビンテージな現代のマイクでした。

強力な磁石で装着するアンチ・ポップが付属

 まず箱を開けて目に飛び込んできたのは、スチールの輝きと、高級時計のような安心感のある重みと光沢。この細部へこだわった見た目からは、ヨーロッパ製品ならではの繊細さを感じます。セッティングを終えるとスタジオの景色が華やかに。その光景から何か新しいことをしている感覚にもなり、早くも創作意欲がわいてくる気配を感じます。

パッケージにはこのように収納されている

パッケージにはこのように収納されている

竹製のリッジを取り付けた様子。このほかメタクリル樹脂製のリッジも付属する

竹製のリッジを取り付けた様子。このほかメタクリル樹脂製のリッジも付属する

 今回試したのは、ボーカル、アコースティック・ギター、ドラムのアンビエンス、スネア単体です。まずボーカルを録ってみました。普段使用するコンデンサー・マイクと完全に違うことは、マイク内部のサスペンション・システムにより、マイク全体が響きを捉えられる設計になっていること。マイクの金属部分が音に共振して微妙に響くのが感じられ、それが音の絶妙な明るさにつながるように感じました。マイクを“機材”と捉えるか、“楽器”として捉えるかと考えた際、New Twentiesの場合、後者の感覚が強く、楽器プレイヤーの立場から、より楽器としての愛着がわきました。

 ボーカルを録音してまず驚いたのが、やや明るめで味付けが無い素直なサウンド。LUNDAHLのライン・トランスを出力に採用していることもあり、つややかでクリーミーな感触です。距離感や歌い方を調整することで、それぞれのポジションならではの良さを持つサウンドを収録できるのもNew Twentiesの強みだと感じました。

 マイクの形状は平面的かつ大きな円形でポイントがつかみやすいため、視覚的にもマイクとボーカルの距離が調整しやすく、いろいろな歌い方やセッティングに対応できます。また、New Twentiesの特徴の一つでもある付属のアンチ・ポップは、いわゆるポップ・ガードよりも素直な働きをしてくれて、一定帯域を抑えてしまうような感覚が少ない素晴らしい出来だと感じました。磁石で装着するので、安定性は大丈夫かな?と思っていましたが、そこはさすが。世界で最も強力なN52ネオジム磁石によって装着されるため、あらゆる環境にも耐えうるであろう安心感がありました。

ポップ・ガードの役割を持つアンチ・ポップは、メッシュとテキスタイルによる3層で構成され、本体へはネオジム磁石で装着する

ポップ・ガードの役割を持つアンチ・ポップは、メッシュとテキスタイルによる3層で構成され、本体へはネオジム磁石で装着する

大きなピックアップ・マイクをギターの前に置いたような感覚

 そのままアコギを弾いてみます。ボーカルで使用した際に、楽器にも使いやすそうだと直感していたのですが、やはりその通り。先述の通り、形状によって距離感が取りやすいため、例えるなら、ギターの前に大きなピックアップ・マイクを置いている感覚。極度な近接効果は無く、すべてがうまく計算された素直さがあります。2020年代に製造されたマイクだからこそ、これまでの知見が集約されているのだとしみじみ感じました。

 New Twentiesの特色でもある素直な明るさは、アコギを弾いた際により顕著でした。決して耳障りではなくクリーミーな明るさ、かつナチュラルでいて、楽器本来の鳴りのポテンシャルをきちんと受けてくれている感覚でとても演奏しやすかったです。マイク・セッティングをギターのボディやネックの真上にしてみると、すべてのセッティング・ポイントで意味のある音色を収音してくれます。見た目も相まって、昔ならではのマイク1本でのアコースティック編成でのバンド録音やライブにも向きそうです。

 ギターを弾きながらボーカルも録ったところ、これもまた非常に良かったです。普段使用するスタジオ部屋はややデッドな環境なので、自宅のリビングや屋根裏などでシンガー・ソングライターの録音に使ってみたいと強く感じました。

 次はドラムのアンビエンス・マイクとして。頭上背後とキックの前にセッティングしたところ、まあ面白い。楽器に対して、片耳をふさいでマイク・ポジションを決めるような感覚に近く、その場所で鳴っている音色や距離感が非常にリアル。それゆえ、アコギと同様に素直なマイキングに特化していると実感しました。さまざまな位置に移動しながら録音をしたところ、キックは50cmくらい離しても打面音とある程度のアタックがきちんと録れ、いわゆるドラムの基本セッティングに1本加えるサブマイクとしても非常に重宝すると思います。

 スネアのオンマイクとしても、素直さが故に非常に演奏しやすかったです。リアリティのあるクリアなサウンドを表現したマイクでも、演奏がしやすいかは別問題。“演奏のしやすさ”はドラマーの自分からすると1番重要なポイントです。そこをクリアしたNew Twentiesは、今一番欲しいマイクとなりました。サブマイクとしても、メイン・マイクとしても使える素直さを持つNew Twenties。皆さんどうぞお試しあれ。

 

神谷洵平
【Profile】ドラマー/作編曲家/プロデューサー。東川亜希子とのユニット=赤い靴での活動や劇伴、CM音楽の制作も行う。大橋トリオ、aiko、ずっと真夜中でいいのに。、優河らの作品やライブにも参加。

 

TIERRA AUDIO New Twenties

オープン・プライス

(市場予想価格:154,000円前後)

TIERRA AUDIO New Twenties

SPECIFICATIONS
▪タイプ:エレクトレット(ラージ・ダイアフラム) ▪指向性:カーディオイド ▪トランス:LUNDAHL製カスタム設計 ▪感度:−26dB SPL、50mV/Pa ▪最大SPL:120dB SPL@1kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪外形寸法:100(W)×120(H)×29(D)mm ▪重量:485g(アンチ・ポップ非装着時) ▪付属品:リッジ(メタクリル樹脂製、竹製)、アンチ・ポップ

製品情報

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