SOFTUBE Atlantis Dual Chambers レビュー:アトランティス・スタジオのエコー・チェンバーを再現したリバーブ・プラグイン

SOFTUBE Atlantis Dual Chambers レビュー:アトランティス・スタジオのエコー・チェンバーを再現したリバーブ・プラグイン

 SOFTUBE Atlantis Dual Chambersは、スウェーデンのストックホルムにあるアトランティス・スタジオの1960年代に作られた2つのエコー・チェンバーの響きを再現したプラグインです。このスタジオでは、ABBAやロクセットなど、スウェディッシュ・ポップを代表するグループがレコーディングしたということで、あのエコー・チェンバーのサウンドが再現できるかと思うと楽しみです。

2つのエコー・チェンバーを選択可能

 まず、エコー・チェンバー(エコー・ルーム)について説明しましょう。これは音をよく反射するコンクリートやタイルなどの硬い素材で作られた床や壁を持つ、残響音を得るための部屋のことです。内部にはスピーカーとマイクが設置されており、ミキシング・コンソールからリバーブをかけたい音声を送ってそのスピーカーで再生し、反射音をマイクで拾い、再びミキシング・コンソールにリターンしてリバーブ効果を得るという仕組みです。エコー・チェンバー(以下、チェンバー)は1930年代から使われはじめました。機械的なリバーブレーターであるプレート・リバーブは1950年代に開発されたので、その随分前から使用されていたことになります。チェンバーは比較的、大掛かりな設備なので所有しているスタジオはそれほど多くはありません。素晴らしいチェンバーを所有しているスタジオは、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオやハリウッドのキャピトル・スタジオ、ロサンゼルスのサンセット・サウンド、そして今回紹介しているアトランティス・スタジオなどです。それらのスタジオで制作された作品を聴いても分かりますが、それぞれ特徴のあるチェンバーの音があります。

 では、本プラグインの主なコントロールについて見ていきます。CHAMBERボタンではAとBの2つのチェンバーを選択でき、LINK L/R CONTROLSボタンをオフにすると、左右でAとBを個別に選べます。MICROPHONEスイッチでは、モダン・カーディオイド(LINE AUDIO CM2)、フィギュア8リボン(RCA 77-DX)、チューブ・カーディオイド(NEUMANN U47)、ビンテージ・オムニ(ELECTRO-VOICE RE55)の4種類からマイクを選べます。ビンテージ・オムニは、このチェンバーで1970年代にABBAなどの作品で使われていたマイクです。

4種類のマイク。左上から時計回りに、モダン・カーディオイド(LINE AUDIO CM2)、フィギュア8リボン(RCA 77-DX)、ビンテージ・オムニ(ELECTRO-VOICE RE55)、チューブ・カーディオイド(NEUMANN U47)。なお、左列はCHAMBER A、右列はCHAMBER B

4種類のマイク。左上から時計回りに、モダン・カーディオイド(LINE AUDIO CM2)、フィギュア8リボン(RCA 77-DX)、ビンテージ・オムニ(ELECTRO-VOICE RE55)、チューブ・カーディオイド(NEUMANN U47)。なお、左列はCHAMBER A、右列はCHAMBER B

 DECAYノブは、SHORT側に回すことでリバーブを短くしますが、これはアルゴリズムによるもので、チェンバーの音の特徴と明るさを保ったまま調整可能とのこと。一方、MECHANICAL DAMPINGノブもリバーブを短くするもので、HALF DAMPとFULL DAMPを選べます。これはチェンバー内に吸音材を張ってリバーブを減衰させるという往年の方式が採用されており、FULL DAMPの方がより残響が短くなり、高域が抑えられます。またPREDELAYノブでは、0~500msの範囲でプリディレイを調整でき、PREDELAY TEMPO SYNCスイッチをオンにすると拍の分割単位(1/32、1/16、1/8、1/4)で設定可能となり、曲のテンポにシンクします。

 そのほか、物理的な部屋であるチェンバーでは共鳴により特定の周波数が強調されます。RESONANCE CONTROLノブではこの共鳴周波数を抑えることができます。

 画面下部のウッドフレーム部分をクリックすると、EQ、DYNAMICS、I/Oセクションの表示をオン/オフできます。この中では、I/Oセクションがユニークです。ステレオ入力からステレオ出力、モノラル入力からステレオ出力が可能なのはもちろんですが、入力チャンネル間にかぶりを生じさせることで、モノラル入力からステレオ入力までの間をノブで設定できます。また、SWAP L/R OUTスイッチを押すとステレオ音源の左チャンネルが右側のチェンバーに、右チャンネルは左側のチェンバーに送られます。もともと、アトランティス・スタジオのAとBの各チェンバーにはスピーカーとマイクが1組ずつあり、2つのチェンバーでステレオを実現していました。この場合、左チャンネルの音は、左チャンネルのみにリバーブがかかるということになり、広がりのないミックスになってしまいます。そこで、リバーブに対して左右のチャンネルを入れ替えることで広がりを出していました。これを再現するのが、SWAP L/R OUTスイッチです。

オケになじむ明るく自然なサウンド

 それでは、実際にミックスで使ってみましょう。まず、ボーカルです。デフォルトの状態では明るく自然なサウンドで、リバーブ・タイムは長めです。DECAYがORIGINALの位置の場合、チェックに使った曲には少し長いリバーブ・タイムだったのでDECAYを絞り、MECHANICAL DAMPINGもHALF DAMPの位置で使ってみました。すると、オケになじむナチュラルなリバーブになりました。エレキギターでもチェックしたところ、同じくクリアですが、うるさくなりすぎないサウンドでした。オルガンやシンセなどのステレオ・ソースものもステレオ感が崩れず好感触です。また、ノブやスイッチの多い多機能なプラグインですが、レイアウトが優れているので、迷うことなく素早くセッティングできました。そのほか、プリセットも豊富に用意されています。“Vocal ABBA Setup”というプリセットを読み込み、ボーカル(コーラス)にかけてABBAの作品と聴き比べてみたところ、笑っちゃうくらい同じでした。

 筆者は、UNIVERSAL AUDIO UAD-2のプラグインCapitol ChambersとWAVESのプラグインAbbey Road Chambersも使っています。これらのチェンバー・プラグインも素晴らしいサウンドですが、キャラクターがまったく違うので、使い分けていきたいと思っています。

 

谷川充博
【Profile】京都のスタジオ、Studio First Callを主宰するエンジニア/クリエイター。屋敷豪太『The Far Eastern Circus』、くるり『ソングライン』、THE HillAndon『優しい答え』などを手掛ける。

 

SOFTUBE Atlantis Dual Chambers

オープン・プライス

(市場予想価格:24,950円前後)

SOFTUBE Atlantis Dual Chambers

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13〜11.6.1(macOS 12 Monterey対応)、Intel Core I3/I5/I7/Xeon(M1チップ対応)
▪Windows:Windows 10(64ビット)、Intel Core I3 / I5 / I7 / Xeon / AMD Quad-Core以上
▪プラグイン・フォーマット:VST、VST3、AU、AAX(Pro Tools 11.0.2以上)
▪共通項目:64ビットのOSとDAW、1,280×800以上の画面解像度、8GB RAM以上を推奨、プラグイン・インストールのために8GB以上のディスク容量、SOFTUBEアカウント、iLokアカウント、ライセンス管理とインストーラー・ダウンロードのためのインターネット・アクセス

製品情報

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