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SHURE Nexadyne 8レビュー:独自技術のデュアル・エンジンで明瞭度を向上させたダイナミック・マイク

Nexadyne

 SHUREから新たに発売されたNexadyneダイナミック・ボーカル用マイクNexadyne 8シリーズを検証してみる。PA業界では何十年もの間リファレンスとして不動の地位にあるSM58や、KSMシリーズを経ての新製品ということで、ユーザーの関心度もより高まるのではという予感がある。

特許技術Revonicテクノロジーを搭載

 Nexadyne 8シリーズは、カーディオイドのNexadyne 8/C(以下NXN8/C)とスーパーカーディオイドのNexadyne 8/S(以下NXN8/S)をラインナップしている。

Nexadyne

2機種の外見は似ているが、グリル周りの柱の数が異なり、Nexadyne 8/C(写真上)には2本、Nexadyne 8/S(同下)には4本ある

 両機種で特許技術“Revonicテクノロジー”を採用。KSM8では1つのトランスデューサー内に2つのダイアフラムを搭載していたのに対し、Nexadyne 8では、独立した2つのエンジンを組み合わせた“デュアルエンジントランスデューサー”により、明瞭度の向上、不要な信号の除去、ハンドリング・ノイズの低減などの効果を得られるとうたわれている。

デュアルエンジンのREVONICテクノロジーを採用したカプセル

デュアルエンジンのREVONICテクノロジーを採用したカプセル

 ここでは、SM58に合わせてチューニングした部屋で音質のチェックを試みた。ケースから出して手に持って驚いたのはその軽さだ。データではSM58が330gでNXN8/Cは258g。特にハンド・マイクで歌うパフォーマンスではストレスを感じないだろう。

 NXN8/Cのヘッド・ゲインはほぼSM58と変わらない。音色のイメージは、SM58に比べるとガッツがある感じではなくクリアに聴こえ、高域の伸び具合はあまり変わらない印象でもあった。次にNXN8/Sを試したところ、ちょうどSM58とBeta 58の違いのような印象で、NXN8/Cよりも3dBくらいゲインが高く、高域に伸びがある。Beta 58より少し高めなところにピークがあり、指向性のことも含め、まさに後継機という位置付けなのだろう。

弱く歌う部分がはっきりと出てきて歌いやすい

 今回は、タイプの違う2人の男性ボーカルで数々のチェックを試みた。1人は電子ピアノとボーカルでのチェックを行い、SM58、NXN8/C、NXN8/Sで同じ曲を歌ってもらったところ、ボーカルのエッジのかかり方がNXN8/Sにフィットした。印象を尋ねると、NXN8/Sでは“その帯域がよく聴こえてくることで歌うのが楽になった”、NXN8/Cは“クリアに聴こえ、裸にされたような明瞭度があった”と語ってくれた。

スーパーカーディオイド(超指向性)のNXN8/S(Nexadyne 8/S)

スーパーカーディオイド(超指向性)のNXN8/S(Nexadyne 8/S)

 もう1人は、ドラムとベースと電子ピアノに合わせての歌唱でチェック。中高域の声の出し方が違うこともあり、NXN8/Cの方が高域がスムーズで歌いやすいと印象を語ってくれた。ドラムの音圧の中でも、特別にゲインを稼ぐ必要はなかった。

カーディオイドの(単一指向性)のNXN8/C(Nexadyne 8/C)

カーディオイドの(単一指向性)のNXN8/C(Nexadyne 8/C)

 いろいろな曲の細部にわたりレポートしてもらった結果、2人とも共通で口にしたのは、NXN8/Cは“Aメロなどの弱くなるところがはっきりと出てきて歌いやすい”ということだった。聴いている側も、弱く歌っているところも下に潜ることなく、はっきりと歌詞が認識できた。ハウリング・マージンもSM58並に稼げていた。KSM8に見られる中低域の粘り感は良くも悪くも感じられない。かといってサラっとしているわけではなく、もたつかないという言い方が適切かもしれない。特にAメロからサビに向けて違和感なく移行できる感覚は、聴いているほうも歌っているほうも感じた共通点であった。

 オンマイクでも近接効果があまり感じられず、オフマイクでは特にNXN8/Cがよく音を拾っていた。この点もだいぶSM58と印象が異なる。Nexadyne 8はいずれもモニターに大音量で返さなくても聴こえてきやすい音質なので、返しの音量を上げつつハウらないように音質を追い込むような処理はあまり必要ないと感じた。

左がNXN8/C、右がNXN8/Sの周波数特性と指向性パターン

左がNXN8/C、右がNXN8/Sの周波数特性と指向性パターン

EQもコンプもほぼかけずにパフォーマンスをそのまま伝えられる

 SM58を使用してロック・バンドの設定で声の音作りをすると、バラードやアコースティックなどではうるさく感じてしまうことが多々ある。そこは当然フェーダーやコンプなどを用いて調整するわけだが、モニターも含めて快適な音を作ることが煩雑になりかねない。PAの現場、ライブという環境では、音が聴こえなくてはそのポテンシャルを発揮することができない。それはエンジニアが一番理解していることだろう。マイクと声には相性があり、音質の良いマイクは各社から幾つも出ているが、エンジニアが使いたいマイクとボーカリストが使いたいマイクが一致するとも限らない。しかし、NXN8/Cの第一印象で捉えた“ガッツのない”部分は、良い意味でレベルを変化させなくてもボーカリストのニュアンスどおりになる印象があった。

 SM58で十分なハウリング・マージンを稼げる環境でNexadyne 8を使用すると、ハウリング・マージンを維持したままボーカリストが歌のニュアンスをコントロールしやすくなる。つまり、Nexadyne 8はボーカル・アイソレーションにおいてのアドバンテージが大きく、精密な制御が可能であることからも、今後の活用におけるポテンシャルが高いと感じた。

 機材チェック後に実際のライブでの使用も試みた。EQは何もせず、コンプもほぼかけずに伝えたいパフォーマンスをそのまま伝えられた満足感が、ボーカリストにもエンジニアにも、そして観客の評価にも表れて、そのポテンシャルの高さに圧倒された。

 エンジニアの機材に対するチャレンジは、ミュージシャンとのコミュニケーションにおいて、最もお互いがワクワクするところかと思う。Nexadyne 8は、その期待を満たしてくれることが容易に予測できる製品である。

Nexadyne_付属品

付属品一式。本体のほか、マイク・ホルダーと3/8インチ−5/8インチ変換ねじが付属し、両製品ともロゴ入りのジッパー・ケースに収納されている

 

山寺紀康
【Profile】PAをメインに手掛けるサウンド・エンジニア。磯貝サイモン、武藤彩未、井上苑子、新谷祥子、未唯mieなどのライブでPAを担当。尚美学園大学の芸術情報学部 情報表現学科で教授を務める。

 

SHURE Nexadyne 8

オープンプライス(市場予想価格:48,400円前後)

Nexadyne

 

SPECIFICATIONS

Nexadyne 8/C ▪タイプ:ダイナミック ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:50Hz〜20kHz ▪出力インピーダンス:300Ω ▪感度:−54.0dB/Pa(2.00mV)@1kHz ▪重量:258g ▪外形寸法:47(φ)×181(H)mm(実測値) ▪付属品:マイク・ホルダー、専用ジッパー・ケース、3/8インチ−5/8インチ変換ねじ

Nexadyne 8/S ▪タイプ:ダイナミック ▪指向性:スーパーカーディオイド ▪周波数特性:50Hz〜20kHz ▪出力インピーダンス:450Ω ▪感度:−54.0dB/Pa(2.00mV)@1kHz ▪重量:294g ▪外形寸法:47(φ)×181(H)mm(実測値) ▪付属品:マイク・ホルダー、専用ジッパー・ケース、3/8インチ−5/8インチ変換ねじ

製品情報

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