イタリアの総合楽器メーカーPROELの電子楽器ブランドDEXIBELL(デキシーベル)。今回は、同社のステージピアノVIVO Sシリーズの88鍵フラッグシップモデルVIVO S10をご紹介します。同時にサイズや鍵盤の仕様が異なるVIVO S10L(605,000円)、VIVO S8(550,000円)もラインナップされています。
楽器本体に重さがあり演奏しやすい
まずVIVO S10を開封しようとしたところ、その“ずっしりさ”に驚きました。私はキーボードを弾く際、本体がズレたり揺れたりすると弾きにくく、良い印象を持たないので、ある程度の重さがある楽器の方がウェルカムです。
見た目は洗練されていて、白と濃い青のパネルに赤いフェルトがアクセントになっていてとてもおしゃれ。多数のノブやスライダー、ボタンも効率的に配置されています。ほとんどの操作系統にブルーのLEDが搭載されているので視認性が良く、高級感もありますね。鍵盤はFATAR製で、ハンマー機構のある生のピアノを弾いているかのようなフィールがありながらも、若干軽めのセッティングになっているように感じました。
3.2GBメモリーとクアッドコア・プロセッサー搭載
音源部分には3.2GBのメモリーとクアッドコアプロセッサーを搭載し、ピアノ本体の共鳴やメカニカルノイズまで再現するという独自のサンプリング&モデリングテクノロジーTrue 2 Life(T2L)の進化版、Advanced T2Lが採用されています。24ビット/48kHzの解像度、同時発音数無制限、最長15秒に及ぶロングサンプルといったT2Lの特徴を受け継ぎながら、4倍の処理速度(サウンドロード時)や2倍のオンボード・メモリーサイズに加え、新しいオルガンセクションの完全カスタマイズコントロールが可能になり、9つのDSPエフェクトも追加されました。
また、専用アプリと連携させることができるのも特徴の一つです。スマートフォンやタブレット上でエディットを遠隔で行えるVIVO Editor や、自動伴奏アプリXMURE(どちらもiPad OS、iOS対応)が用意されています。
本物のエレピを弾いているような鍵盤タッチ
プリセットをいろいろと弾いてみたところ、鍵盤と音源のマッチングがとにかく気持ち良いと思いました。演奏したものがレスポンス良く、ダイレクトに発音されて好印象です。出音は一貫してクリア! 空間の広がりもあり、とてもみずみずしい音像でした。どのプリセットも完成度が高く、編成や音数が多いアンサンブルでも、特段EQなどする必要なくしっかり抜けてくる音だと確信しました。
また、鍵盤が生ピアノに比べて軽めのセッティングになっているように感じたと先に述べましたが、実際にアコースティックピアノの音色で弾いてみると、この点は特に気になりません。むしろエレピ系の音色では、このセッティングのほうが本物を弾いているかのように演奏できます。そして、オルガン音色を弾いたときに特にびっくりしたのが、ウェイテッド鍵盤だとは思えないほど弾きやすいということ。グリッサンドも引っかからず、ストレスがありません。鍵盤と音源のマッチングを丁寧に研究して製品化されている証拠ですね。
独自のサンプリング&モデリングテクノロジーAdvanced T2Lにより、ピアノはダンパーのノイズやレゾナンス、ハンマー由来のノイズなど、いわゆる楽器の機構としての“生っぽさ”がシミュレートされています。“生っぽさ”としてノイズや鳴りも一緒にサンプリングされている場合も多いのですが、本機はそれぞれが独立した高品位なモデリングになっているので自由に調整可能。これがありがたく、現代のプレイヤーやクリエイターにとってかなり魅力的でしょう。
9本のスライダーはムービングフェーダー
個人的には“Japan Live PLT”という生ピアノのプリセットが気に入りました。しっかりとしたアタック感、適度にふくよかなミッドレンジ、濁らないローは、歌モノをメインに仕事をしている私にとって、安心して弾ける音色だなと感じました。リバーブの深さを変えるだけで、ロック寄りのアップテンポなナンバーも、音数が少ないバラードも弾けそうです。
そして、オルガンセクションがとても秀逸。オルガンタイプの中で、TW(トーンホイール)は、R&B系にもロック系にも万能に使える印象で、“OVERDRIVE”ボタンをオンにしてみたところ、音量自体はそこまで変化せずサクッとしっかりひずませることができて、ライブでも万能ではないかと思いました。PIPE(パイプオルガン)は迫力があり、響きがとても豊かです。FARF(イタリア製コンボオルガンのFARFISA)も個性的で、ドローバーやエフェクトを駆使し自由な使い方をすることで新しい演奏のアイディアをもらえそうだと思いました。パネル左上のスライダーはムービングフェーダーになっており、ドローバーのセッティングがここで再現されます。とても分かりやすくて便利です。そのほか、ロータリースピーカーの音をシミュレートする“ROTARY”や、ビンテージオルガン特有の硬い音をアタックに付加する“PERCUSSION”ボタンなども迷わず触ることができるように配置されているので、ライブ中も演奏に集中できそうです。
今回はすべて試すことができませんでしたが、本機はサウンドライブラリーDexibell PLATINUMから厳選されたトータル180種類ものサウンドを収録しているため、さまざまな場面で必要な音色を演奏することができると思います。各エフェクトもかなり高品位で説得力のあるものなので、しっかりと理想の音色へ追い込めるでしょう。特にリバーブの自然な響きや、エレピの音色などで積極的にモジュレーション系エフェクトをかけたときの仕上がりが素晴らしい質感でした。
VIVO S10は“楽器”としてのポテンシャルがとても高いので、とにかく存分に演奏を楽しむことができるでしょう。スタジオはもちろん、ライブでも、目を見張るようなルックスも相まって、素晴らしい音楽をリスナーへ届けることができると思います。演奏するのが大好きなプレイヤーや、ハイエンドな楽器を探している方にぴったりの機種です。もちろんDAWを中心としたシステムでマスター鍵盤として使用しても、抜群のパフォーマンスを発揮することでしょう。
高藤大樹
【Profile】 “イマ”の時代を意識した音楽を作る、プロデューサー/作編曲家/キーボードプレイヤー。クリエイター・マネージメントを行うSound Bahnの代表も務めている。
DEXIBELL VIVO S10
715,000円
SPECIFICATIONS
▪鍵盤数:88鍵(TP-400W:ウェイテッド・ハンマーアクション鍵盤、木材とプラスチックのハイブリッド構造、アフタータッチ対応) ▪外形寸法:1,270(W)×130(H)×354(D)mm ▪重量:20kg