PLOGUE Chipsynth OPS7 レビュー:6オペレーター/32アルゴリズムの音源を2系統備えたFMシンセ音源

PLOGUE Chipsynth OPS7 レビュー:6オペレーター/32アルゴリズムの音源を2系統備えたFMシンセ音源

 カナダのモントリオールを拠点とするオーディオ・ソフトウェア・メーカーPLOGUEより、6オペレーターのFMシンセ音源Chipsynth OPS7(以下、OPS7)が登場。YAMAHAの名作FMシンセ、DXシリーズのサウンドを完全にエミュレートしたとのことなので、早速レビューしていきましょう。

アルゴリズムでオペレーター配置が変化するダイナミック・レイアウトを採用

 と言いつつもその前に、まずはPLOGUEについて簡単にご紹介します。設立者は1990年代からさまざまな機材の音をハックしてきたというDavid Viens氏とSébastien Beaulieu氏の2人。モントリオール大学でコンピューター・サイエンスの学位を取得した後はハッキングに飽き足らず、VSTプラグインの開発を行って2000年にPLOGUEを設立しました。その製品ラインナップは、例えば1980年代に流行した音声合成チップのサウンドを現代によみがえらせたスピーチ・シンセ・プラグインのChipspeechや往年のゲーム機の音源をエミュレートしたChipsynth MDなど、スーパーナードなこの2人ならでは。独特のアイディアで存在感を高めています。

 さて、今回登場したOPS7は、クラシックなサウンドをエミュレートするChipsynthシリーズの最新作。同シリーズはオリジナル音色の再現度はもちろん、現代のDTMにおける使い勝手が考慮されたユーザー・インターフェースで、“あの頃の音を自在に操れるわくわく感”をなによりも感じさせてくれる良質なプレイヤビリティが特徴です。

 前述の通り、OPS7でエミュレートしているのは、ジャンルの垣根もメジャー/インディの違いも超えて、1980年代のポップ・ミュージックの方向性を決定付けてしまった名機YAMAHA DXシリーズのサウンド。2系統のFM音源をレイヤーすることで、DX1のような分厚い音色を生み出せるとのこと。マニュアル冒頭にはViens氏の言葉で、“不明瞭な不具合やバグを1年以上かけて”“デジタル演算の隅々まで徹底的に再現”とあり、いやが上にも期待が高まってしまいます。

 本音源を立ち上げてみると、まず目を引くのは“ダイナミック・レイアウト”と呼ばれる仕組みを持つ広大なパッチ作成エリア。6基のオペレーターと32のアルゴリズムが用意されていて、プリセットを切り替えるとオペレーターの配置がアルゴリズムによって変わります。またオペレーターをクリックすると、右上に詳細設定のパネルが表示され、音色の作り込みが可能に(左ページ画面の右上にある“Operator 1”と記された部分)。左上部の“Patch”と記されたエリアではA/Bのパッチ設定変更や両者間の設定コピーも行えます。FM音源は難しいと言われますが、原理を知らなくとも直感的に音を変化させられるインターフェースです。なお右上部のA/Bタブでそれぞれのパッチ作成画面に切り替えられます。

 画面はフラットなデザインで、筆者の使うABLETON Liveとも好相性。スキンをDX7を思わせる初期設定の“MK I”のほか4デザインから選べるところはマニア心がくすぐられます。こうした機能、意外と制作中に気分を変えるのに役立つので、自分にとってはうれしい心遣いです。

Settings画面では、スキン変更のほか、エミュレートするDACの種類やファームウェアのバージョン変更も可能。上の画面はスキンを“Centennial”にした状態。またComp Errorの値でサウンド・チップの“個性”を表現でき、“3”に設定するとViens氏がリファレンスした実機のチップを正確にエミュレートするとのこと

Settings画面では、スキン変更のほか、エミュレートするDACの種類やファームウェアのバージョン変更も可能。上の画面はスキンを“Centennial”にした状態。またComp Errorの値でサウンド・チップの“個性”を表現でき、“3”に設定するとViens氏がリファレンスした実機のチップを正確にエミュレートするとのこと

抜けの良いリードやしっとりとしたエレピ音色にうっとり

 プリセットは上部のグローバル・セッティングのメニューにあるpresetsから呼び出すことができます。“Basses”“BellsMallets”“BrassStrings”など使い勝手よく分類されていて、欲しい音にすぐアクセス可能です。ニュー・オーダー「ビザール・ラヴ・トライアングル」やティナ・ターナー「愛の魔力」を思わせる音色(というかそのままのそれ)にうっとりしてしまう一方で、個人的に感激したのは抜けの良いリードとしっとりとしたエレピ音色。これらの音源からはほのかなひずみやノイズ、音の揺らぎが特に感じられ、フィジカルの音源チップの息遣いに直に触れているような錯覚を覚えてしまうほど。

 PLOGUEのYouTubeチャンネルには、Viens氏が自らDX7とOPS7の波形を比較する動画が公開されていて、その完成度の高さを熱く解説してくれます。恐るべきエミュレーションへの執念に脱帽……とは言え、プリセットの多くは音圧感やイコライジングに現代の音楽の文脈に即したチューニングが施されており、80'sフィーリングに縛られず、あらゆるジャンルの音楽制作にそのまま使用できそうな仕上がり。これまでのChipsynthシリーズ同様、単なる懐古趣味に陥らず、オリジナルのサウンド・チップが持っていた可能性をさらに広げる製品になっていると思います。

 そして最後に触れておきたいのは、互換性のある6オペレーターのシンセとMIDI経由でパッチをやり取りしたり、パソコンに保存してあるSysExファイルをロードできる点。

SysExファイルを読み込む際は、右上部のSYXタブを選択し、Sysex File Loder画面を開く。左端のウィンドウでファイルをブラウズし、A/B各チャンネルにデータをロードできる。ハードウェアを接続している場合は右側のウィンドウに情報が表示される

SysExファイルを読み込む際は、右上部のSYXタブを選択し、Sysex File Loder画面を開く。左端のウィンドウでファイルをブラウズし、A/B各チャンネルにデータをロードできる。ハードウェアを接続している場合は右側のウィンドウに情報が表示される

 エミュレーションの完成度の高さゆえに生きてくるこの機能、ネットでユーザーが作成したパッチをすぐにダウンロードできてしまう現代にこそふさわしいオプションと言えそうです。これなら重くて大きい実機も必要なし! “あの頃”の音を自分の作品に取り入れたいという方にはもちろん、デジタル・シンセサイザーの入門編としても最適。お薦めです!

 

三宅亮太
【Profile】丸山素直とのシンセサイザー・バンド、CRYSTALのメンバー。JUSTICEやサンダーキャットなど、海外からも高い評価を得ている。Flash Amazonasや、ソロではSparrows名義でも活躍。

 

PLOGUE Chipsynth OPS7

7,260円(価格は為替レートにより変動)

PLOGUE Chipsynth OPS7

REQUIREMENTS
▪Mac:Mac OS X 10.11〜mac OS 12、INTEL/APPLEシリコンCPU(ネイティブ対応)
▪Windows:Windows 8(64ビット)/10(64ビット)/11、INTEL/AMD CPU(デュアル・コア)
▪共通:1GB以上のRAM、100MB程度のストレージ空き容量
▪フォーマット:スタンドアローン/AAX/AU/VST/VST3

製品情報

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