OVERLOUD Modula レビュー:往年のコーラス・サウンドにインスパイアされたプラグイン

OVERLOUD Modula レビュー:往年のコーラス・サウンドにインスパイアされたプラグイン

 ハードウェアのモデリング・プラグインを数多く世に送り出しているOVERLOUD。私も豊富なIRプリセットを持つリバーブのRematrixなどを使っており、ミックス時の必須プラグインとなっています。今回紹介するのは、モジュレーション・プラグイン・エフェクトのModulaです。Mac/Windows対応で、AAX/AU/VST2&3をサポート。スタンドアローンとしても起動できます。

入力段でひずみを付加するDriveノブとL/Rを個別に調整可能なデュアル・モード

 Modulaは、Dimension/Ensemble/Symphonicという3種類のモジュールを1つのプラグインに収録。Dimensionは1980年代におけるコーラスの名機ROLAND Dimension D SDD-320、Ensembleは1970年代のストリングス・シンセSOLINA String Ensemble、Symphonicは1980〜1990年代のデジタル・マルチエフェクトYAMAHA SPX90にインスパイアされたモジュールです。このようにモジュールは3種類ありますが、同時に使えるのは1種類のみで、これらを直列につなぐことはできません。

 

 まずはOVERLOUDのロゴが記載された灰色の共通パネルから見てみましょう(上画面の最下段)。画面左上にある3つのボタンで各モジュールを切り替えます。その下には入力レベルではなく、ひずみを付加するDriveノブがあり、±15dBの範囲で調整可能。簡単に音色作りが行えます。

 

 続いて画面中央にあるのは2バンドEQ。±15dBのGainノブ、200Hz〜20kHzのFreqノブ、シェルビングからローパス・フィルターまで連続可変するQノブという構成です。またEQセクションの右上にはLFOがあり、周波数はランダムとなっています。

 

 画面右側には、ステレオ・モジュール仕様からモノラル・モジュール×2という仕様に切り替え、L/Rのチャンネルを別々に処理可能にするDUALボタンと、ステレオ感をモノラルから2倍までコントロールできるStereo Widthノブを搭載。そして画面右端には、MixノブとOut Levelノブを備えています。なおDriveノブをはじめ、EQやLFOセクション、Stereo Widthノブはエフェクト音にのみにかかり、ダイレクト音には影響しません。

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STEREOからDUALに切り替えたところ。L/R用のモジュールが個別に立ち上がる

実機には無いモジュレーション・パラメーターでより細かい音色作りが実現可能に

 次に3種類のモジュールについて。DimensionのモデルとなったDimension D SDD-320は、モノラル/ステレオ切り替えボタンと4種類のコーラス・モード切り替えボタンのみを搭載していますが、Dimensionではこれらのほかにモジュレーション・エフェクトの基本的なパラメーターやエンベロープが追加されています。これらによって、実機では追い込めなかった細かい音色を作り込むことが可能です。

 

 1kHzの音声信号を入れてDimensionと実機を比較したところ、コーラスの揺れ具合や音色は若干違うものとなっており、Dimensionの方が実機よりも明るい音色の傾向に。全体的なサウンドの方向性は実機を意識しつつも、OVERLOUD的な解釈で現代版にアップデートしたような印象です。

 

 これまでにも実機を忠実に再現したプラグインはありましたが、Dry/Wetのミックス・ノブが付いていなかったのであまり手が伸びませんでした。しかしDimensionでは当たり前に行えるので、細かいところですが非常に画期的だと思います。

 

 Ensembleは、String Ensembleのコーラス機能を抜き出したモジュール。パラメーターはDimensionのコーラス・モード切り替えボタンを除いたものと同じ構成です。アナログ特有の太さや、奥深い音色を再現できており、プリセットも聴き込んでしまうほど魅力のあるものを収録しています。シンセ・ストリングスやシンセ・パッド系の広がりを演出するにはもってこいのコーラスでしょう。

 

 最後のモジュールはSymphonicです。モデルとなった実機は、1980年代当時に数百万円もしていたディレイやリバーブ、コーラスを搭載していながらも、約10万円と破格な値段設定で世界を席巻したデジタル・マルチエフェクトでした。私は1980年代後半、LAに仕事で行くことが多かったのですが、そのころのキーボーディストやギタリストのエフェクト・ラックには必ずSPX90が入っていたのを覚えています。

 

 Symphonicは実機の16ビット/31.25kHzでのサンプリングを再現し、少しこもったような柔らかいサウンド。内蔵プリセットを試してみると、当時何度も聴いた実機の温かい音色がよく再現されています。

 

 Modulaは“モデルとする実機の再現性を一番に狙ったタイプ”のプラグインではなく、特有の音色や“あるといいな”と思うパラメーターを付け足す“OVERLOUDならでは”のプラグイン。モジュレーションをかけず、共通パネルにあるDriveノブでひずみを足したり、Stereo Widthノブでステレオ感を調整したりという目的で使うのも十分に価値があると思います。ほかのOVERLOUD製品と同じく、Modulaもまた代えの効かない唯一無二のプラグインでしょう。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニア。これまでに浜崎あゆみ、AAA、DA PUMP、など、ジャンルを問わず数多くのアーティストの作品に携わっている。

 

OVERLOUD Modula

オープン・プライス

(市場予想価格:18,700円前後)

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.9〜10.15、AAX64(AVID Pro Tools 11以上)/AU/VST2&3対応のホスト・アプリケーション、またはスタンドアローンで起動
▪Windows:Windows 8/10、AAX64(AVID Pro Tools 11以上)/VST2&3対応のホスト・アプリケーション、またはスタンドアローンで起動
▪共通項目:INTEL Core I3 1.4GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、1,200×800以上のディスプレイ解像度

製品情報