サンプラーの強化やMPE対応など多くの機能を向上させたDAW「Digital Performer 11」レビュー

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 Digital Performerが、約2年半ぶりにバージョン11(以下DP11)へとメジャー・アップデートしました。M1チップ搭載のAPPLE MacとmacOS 11(Big Sur)への対応、大幅に機能追加したNanosampler 2.0、MPEやアーティキュレーション・マップのサポート、レコーディング中以外にオーディオ/MIDI入力していた演奏データを後から復元できる“レトロスペクティブ・レコード”など、魅力的な機能が多数追加/向上されました。

MX4やProtonなどの付属音源もMPEに対応。MIDIノートごとに変化を加えられる

 まずはNanosampler 2.0から紹介します。DP10までのNanosamplerは、お世辞にも高機能とは言えず、サンプル・データをただ鳴らすだけに近いものでした。しかし、今回Nanosampler 2.0から、一般的なサンプラーとしての機能がすべて網羅され、動作が非常に軽くて使い勝手の良いサンプラーへと生まれ変わっています。あらかじめ内蔵されている音色を読み込んで使うのはもちろんですが、自分が持っているループなどのサンプルをドラッグ&ドロップして、サンプルを奇麗にループさせたり、DP9.5から搭載された高機能なストレッチ・エンジンのZTXを利用してストレッチさせたり、スライスしたものをランダマイズして並べたりと自由自在。さらに、フィルターやLFO、エンベロープを使用して音を加工し、自分好みの音に仕上げていけます。

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機能の拡張が行われたNanosampler 2.0。クラシック/ワンショット/スライスという3つのプレイバック・モードを備えている。エンベロープやLFO、フィルターを使ってサンプルを加工したり、ZTXタイム・ストレッチで長さを変えるなど、今までよりもはるかにサンプラーとして使いやすくなった

 近年は、LoopcloudやSpliceなどのサービスからサンプルをダウンロード購入して、トラックへ直接張り付けている人も多いと思います。しかし、トラック上だけで波形編集をすると、なかなかかゆいところに手が届かないこともあるでしょう。エンベロープを駆使したり、1つのサンプルを使ってポリシンセとして弾いたり、ループの場所を組み替えて演奏したりと、手を加えたいときにはこのNanosampler 2.0のような軽くて単純なサンプラーがあると非常に便利です。

 

 DP11ではMPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)に対応しました。同一トラック内で、別のMIDIチャンネル(マルチチャンネルMIDI)を受信し、“ノートごと”にコントロール・チェンジ・ナンバーやピッチ・ベンドなどを記録/再生することができます。特定のチャンネルを選択する代わりに“any”を選択すれば、16のMIDIチャンネルすべてをトラックに録音可能です。これにより、ROLI Seaboardなど、MPE対応MIDIコントローラーをフル活用できます。

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MPE対応のMIDIコントローラーを使えば、MIDIノートごとにピッチ・ベンドなどのコントロールを記録/再生可能だ。この画面では、各MIDIノートの背景にパラメーターのオートメーションが記録されているのが分かる

 さらに、DP11に付属する音源すべてが、MPE対応にアップデートされました。マトリクス・モジュレーションを内蔵した多機能なシンセ“MX4”や、2オペレーターのFM音源“Proton”、DCOの名機を元にしたシンセ“PolySynth” などでも、MPEは活躍してくれます。MPEのオン/オフは、音源のインターフェース上部で簡単に切り替え可能です。

 

 筆者が持っているMPE対応の電子楽器、ARTIPHON Orbaをつないでレコーディングしてみました。トラックのMIDIノートに、複数のコントロール・チェンジのオートメーションが並ぶのは、古くからのDPユーザーとしてはとても不思議な気分です。弾いた音がそのままMIDIとしてレコーディングできるのはとても面白く、うれしい機能ですね。

レトロスペクティブ・レコードが進化。直前に演奏したオーディオも復元可能に

 直前に演奏したMIDIデータを復元できるレトロスペクティブ・レコード機能がDP10.1から備わっていましたが、このDP11ではオーディオにも対応しました。レコーディングしていない(録音ボタンを押していない)状態でも、バックグラウンドでオーディオがキャプチャーされています。曲を流しながらなんとなく弾いていて、“今のフレーズ良かったのに、録音ボタンを押していなかった!”ってこと、ありますよね? そんなとき、レトロスペクティブ・レコードを使えば、直前の演奏がトラックに復元できるんです。これは本当に便利で、待望されていた機能。ただ、常にストレージやメモリーを使用することになりますので、ストレージ容量や速度が気になる方は、録音時間やメモリー容量をどれくらい使うかを設定画面から調整して、自分の環境に合わせて使用してみてください。

 

 今までは、各音源ごとに設定していたキー・スイッチによるアーティキュレーションですが、DP11ではキー・スイッチの設定=アーティキュレーション・マップを音源からインポートしたり、独自に作成することができるようになりました。これにより、譜面機能クイックスクライブ上で、アーティキュレーションを書き込めば、譜面と音源のアーティキュレーションがシンクロします。譜面をメインで使っている方々にとって、インパクトのある画期的な機能なのではないでしょうか。DPは、海外でも日本でも映画音楽などの劇伴分野でかなり重宝されているDAWなので、この強化はうなずけると思います。

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キー・スイッチによる奏法切り替えを多用する音源を使うときに便利なのがアーティキュレーション・マップ。独自に設定を作成、または使用している音源からインポートすることも可能だ

フォルダー機能が加わったチャンクウインドウ。さまざまなシーンでの整理整頓で役に立つ

 DP独自の機能であるチャンクは、同一プロジェクト内で複数のシーケンスやソング、それらで共通して使えるインストゥルメント・トラック=V-Rackを管理できる機能です。DP11では、そのチャンクにフォルダー機能が付きました。また、チャンクを2つのセクションに分割することも可能に。シーケンスのエイリアスをたくさん入れておいたチャンクから、使いたいシーケンス名を検索窓で検索して、それをもう一方のメインで使うチャンクへドラッグ&ドロップするということもできます。この新しい機能は、プロジェクトごと、ライブのセットリストごと、シーンごとなど、さまざまなシーンでの整理整頓で活躍しそうです。

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チャンクウインドウでは、チャンクをまとめるフォルダー機能やセクション分割が可能となった。プロジェクトやライブに合わせてチャンクを整理しやすい

 シーケンスウインドウでは、今まではオーディオのみがオートメーションのデータ・レーンを別表示可能でしたが、MIDIでもそれができるようになりました。さらに、クオンタイズとトランスポーズのボタンも設置され、いちいちMIDIプラグインを使わなくてもボタン一つで調整できます。近年のDPでは、シーケンスウインドウ上でMIDIもオーディオも両方エディットしていく方向へとシフトしていっている気がします。MIDIウインドウよりも、シーケンスウインドウの方が多機能になってきましたね。

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シーケンスウインドウでは、MIDIトラックでオートメーション・レーンを別表示可能になった。また、トラック名の下にはクオンタイズやトランスポーズのボタンが配置され、アクセスしやすくなっている

 また、トラック表示のオン/オフだけでなく、MIDIチャンネルやイベント・タイプもセレクトして表示のオン/オフができるようになりました。今まで分かりづらかった部分がこれで解消されています。

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トラック・セレクターでは、MIDIチャンネルやイベント・タイプを選択して表示のオン/オフが可能だ

 ユーザー・インターフェースのスケーリング変更は今までも可能でしたが、DP11からはフォントのスケーリングも変更することができるようになりました。リストとノート、歌詞の3つのフォント・サイズを変更できます。個人的にはミニ・メニューのフォントも大きくしてほしかったので、これは次に期待したいです。また、ミキシングボードを見てびっくりされた方もいると思いますが、ウインドウの大きさによってフェーダーの長さが変わるようになりました。

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ユーザー・インターフェースのフォント・サイズが調整可能となった。リスト/ノート/歌詞の3つのフォント・サイズを変えることができる

主要なMIDIパッド・コントローラーがDPに対応。クリップウインドウの可能性が広がった

 NOVATION Launchpad Pro MK3やAKAI PROFESSIONAL APC40などの主要なパッド・コントローラーを使って、クリップウインドウを操作できるようになりました。今までは単純にノート・ナンバーだけで操作を行っていたクリップウインドウですが、これらのパッド・コントローラーをフル活用することによって、個々のクリップ、あるいはシーン全体(曲のセクション)をトリガーしたり、フィルターのスウィープやそのほかのエフェクト操作を自由に行えます。ライブのマニュピレートだけでなく、パフォーマンスでもDPを使う人が増えていく可能性が出てきましたね。

 

 ミキシングボードの操作においては、従来からサポートされていたMackie Control/HUIに加えて、NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol M32やAシリーズ、SシリーズMK2、ICON QCon Pro G2、QCon EX G2、QCon Pro X、QConPro XS、Platform Nano、Platform M+、Platform X+などの最新デバイスにも対応しました。今までDPに対応したコントロール・サーフェスが少なかったので、ICONのコントローラー群が選択肢に入ったことは非常に喜ばしいです。MIDIキーボードから手を離すことなくDPの操作ができるのは助かります。

 

 クリップウインドウで使用できるAPC40やLaunchpadでも、テンポ設定やレコード・アームなどの操作が可能です。また、AVID EuConもサポートしたので、本格的なスタジオ・ワークでも活躍すると思います。これらのコントローラーではV-Rackの操作も可能になっているなど、コントロール・サーフェス機能の大幅な改善がされているのもポイントですね。

 

 そのほか、DP11で追加された機能を紹介しましょう。まずはオーディオ・インターフェースの自動識別。つながっているオーディオ・インターフェースに合わせて最適なオーディオ・アウトプットを設定します。もちろん、従来通りに自分でセットアップすることも可能です。そして、待ちに待ったAPPLE M1 SiliconとBig Sur(macOS 11.X)への対応も実現。Rosettaを使用する必要が無いので、M1チップの性能を最大限に引き出せます。さらに、プラグインをプリレンダリングしてマシン負荷を制御する機能=Pre-Genをオフにし、すべてをリアルタイム処理するモードが選択できるようになりました。これもM1チップの恩恵なのかもしれませんが、反応速度が重視されるライブ・パフォーマンスで力を発揮する機能です。

 

 紹介してきた多くの新機能が追加されたDP11。フル機能を30日間使用できるデモ版の用意もありますので、じっくり使ってみて“最高のDAWだ”ということをぜひご自身で確かめてください。

 

山木隆一郎
【Profile】安室奈美恵や鈴木愛理、東方神起など数多くのアーティストのプロデュース、作曲、アレンジ、リミックスを手掛ける。クラブ/ダンス系を得意とし、近年はジャンルを超えた作品も多数制作。

 

MOTU Digital Performer 11

オープン・プライス

(市場予想価格:60,500円前後/通常版)

Digital Performer 11

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降
▪Windows:Windows 10(64ビット)
▪共通項目:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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