MOJAVE AUDIO MA-D レビュー:デイヴィッド・ロイヤー氏が設計したハンドヘルド型のダイナミック・マイク

MOJAVE AUDIO MA-D レビュー:デイヴィッド・ロイヤー氏が設計したハンドヘルド型のダイナミック・マイク

 最近はDAWのレンジが広くなっていることもあり、音が素直なリボン・マイクが現場でもかなり使われるようになってきました。ただリボン・マイクは扱い方が特殊で、なかなか初心者では手が出しづらいもの。このたび、リボン・マイクのROYER LABS R-121を生み出したデイヴィッド・ロイヤー氏が、初めてダイナミック・マイクを設計しました。果たしてどのような音を聴かせてくれるのか、チェックしてみましょう。

全帯域で癖が少ない素直な音

 まず手に取ってみると、作りがしっかりとしており、重量感があります。太さは一般的なダイナミック・マイクと同じくらいですが、ちょっと長い。筆者所有のダイナミック・マイクの中でも最長でした。付属品としてはソフト・ケースとマイク・クリップがあり、クリップに変換ネジも付いているので、どのタイプのマイク・スタンドでも大丈夫です。

マイク本体に加え、マイク・クリップ、ジッパー付きのケースが付属する。マイク・クリップの接続部分には変換ネジが組み込まれている

マイク本体に加え、マイク・クリップ、ジッパー付きのケースが付属する。マイク・クリップの接続部分には変換ネジが組み込まれている

 指向性は、最近多いハウリング防止の狭いタイプではなく、どちらかといえば広めの一般的なカーディオイドで使いやすいと思います。近接効果はどちらかと言えば多い方で、距離による音質変化も楽しめそうです。では、何と言っても音が肝心ということで、早速使ってみましょう。

 まずボーカルに使ってみたところ、とても素直な音だと思いました。ダイナミック・マイクはどの製品にも必ず癖がありますが、MA-Dは今まで聴いてきた中では全帯域で癖が少ない方だと思います。高域には素直な持ち上がりが若干感じられ、中低域はもっさりしそうなところがスッキリしている印象。超高域はあまり無く、なだらかに落ちています。特徴的なのは、2〜3kHz辺りの耳にキツい成分が気にならないところ。ロイヤー氏が設計しているだけあって、ダイナミック・マイクでありながらリボン・マイクでの録音を聴いているかのような印象です。その分、他機種と比べて前への押し出し感やギラつき感、抜けや太さという部分では物足りないと思う人もいるかもしれません。

 リボン・マイクを使うような楽器系も合うんじゃないかと思い、次に試したのがエレキギター。ひずみ系の音色にありがちな、ピッキングなどの耳にキツい辺りが素直に聴こえます。中低域はちょっとスッキリしていますが、低い方まで録れてはいます。現場で使った印象では、変な持ち上がりや癖が無いので、EQで音を作り込むのも、無理なく非常にやりやすい感じでした。クリーン系の音色でも変な中域のピーク感が薄れるので、聴きやすかったです。ジャンルによっては、ギター系は特に多少癖があったりレンジの広い方が良い場合も多いので、MA-Dとほかのマイクをブレンドするのが現場では使いやすいかもしれません。今回試したのは、本機+SHURE SM57+SENNHEISER E609、そして本機+AKG C414+AUDIO-TECHNICA AT4050という組み合わせ。いずれの組み合わせでもMA-Dをメインにそれぞれのマイクを足して楽曲に合った質感を出せたので、楽器の場合だとブレンドも一つの手法でしょう。

吹かれを気にせずにリボン・マイクのような質感を味わえる

 リボン・マイクに近い特徴を持つMA-Dの推しは、ソースの音量を気にせず使える点。筆者もエレキギターなどでリボン・マイクを使うことがありますが、ウインド・スクリーンを立てたり距離を離したりする中で、アンプの音作りで大きな音が鳴るとヒヤヒヤものです。一発でリボンが破れますからね。その点、本機は最大SPLが160dBもあるので、ほぼどんな音量のソースにも使えます。ボーカルの吹かれも気にせずにリボン・マイクのような質感を味わえるのです。

 ほかにも今回使ってみて良かったのがブラス系。スタジオではコンデンサー・マイクを使うことが多いので、本機とブレンドしてテストしてみました。普段、トランペットとトロンボーンにはリボン・マイクを立てることがあるのですが、本機なら吹かれを気にせずにオンマイクで使えるのは良かったです。ライブ録音では、ブラス系にダイナミック・マイクを使用すると、高域が変に持ち上がることが多いのですが、この点でも素直に録音できていました。また、ドラムのスネアにも立ててみたかったものの、マイクの長さの問題でキット内では使えず。単体で聴いてみた印象としては、これまでと同じく癖が無い音なので、EQで音作りをすれば使える印象でした。

 いろいろ試してみましたが、ほかのダイナミック・マイクの印象とは少し違う感じなので、一聴したときは地味に思うかもしれません。しかし先述の通り、その素直でスムーズな音はリボン・マイクに近く、なおかつ扱いやすい! リボン・マイク好きや中高域の素直な音を求めている人は聴いてみるとよいでしょう。これまでのダイナミック・マイクが良くも悪くも癖があったというのを再認識させてくれます。特にエレキギターとブラス系でバリエーションとして良い印象だったので、私のコレクションの一つに加わることになるでしょうね。

 

中村文俊
【Profile】レコーディング/ミックス・エンジニア。スガ シカオ、大黒摩季、空気公団などの作品に携わってきた。ライブDVDのサラウンド・ミックスやゲーム用サウンドのデザインなども行う。

 

MOJAVE AUDIO MA-D

28,600円

MOJAVE AUDIO MA-D

SPECIFICATIONS
▪形式:ダイナミック ▪指向性:カーディオイド ▪出力端子:XLR(3ピン) ▪周波数特性:60Hz〜10,000Hz(±2.5dB)、30Hz〜15kHz(+2dB/-6dB) ▪最大SPL:160dB ▪感度:-53db(0db=1V/Pa@1kHz) ▪インピーダンス:600Ω ▪外形寸法:50(φ)×184(H)mm ▪重量:227g

製品情報

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