MELODIUM P22T Mono レビュー:入力インピーダンスを50/200Ωで変更可能なリボン・マイク向けプリアンプ

MELODIUM P22T Mono レビュー:入力インピーダンスを50/200Ωで変更可能なリボン・マイク向けプリアンプ

 今回のレビューはパッシブ・リボン・マイクに特化した真空管式のマイクプリ・アンプ、MELODIUM P22T Monoです(以下、P22T)。MELODIUMはフランスのブランドで、1940年代から1960年代にかけて42Bという大型リボン・マイクを製造していました。42Bはフランス国営放送局やレコーディング・スタジオなどで、幅広く使用されたことで知られています。最近フランスのKERWAXがMELODIUMの商標を取得し、42BのレプリカであるMelodium 42BNを発売したことが記憶に新しいです。P22Tは、そんなKERWAXが独自開発したマイクプリです。

専用電源ユニットはステレオ使用にも対応 真空管は入力段に12AX7/出力段に12AU7

 P22Tは、専用電源ユニットMELODIUM AL22とのセットで構成されています。AL22は最大2台までのP22Tを駆動させることができ、AL22とP22T×2台をセットにしたP22T Stereo(627,000円)もリリースされています。

P22Tの専用電源ユニット、AL22。同時に最大2台までP22Tを駆動させることができる

P22Tの専用電源ユニット、AL22。同時に最大2台までP22Tを駆動させることができる

 AL22の電源を入れると、フロント・パネルにある2頭の鹿の絵とKERWAXの略である“KRWX”のロゴが点灯。まるで暖炉のような優しいオレンジ色で、粋な演出です。リア・パネルには、電源スイッチとP22Tへ電源共有するためのXLR端子(5ピン)を2系統搭載しています。

P22Tのリア・パネル。写真上段左には入力端子、同右には出力端子(いずれもXLR)を装備。同中央には、P22T専用電源ユニットのAL22と接続するためのXLR端子(4ピン)を備えている

P22Tのリア・パネル。写真上段左には入力端子、同右には出力端子(いずれもXLR)を装備。同中央には、P22T専用電源ユニットのAL22と接続するためのXLR端子(4ピン)を備えている

 P22Tのフロント・パネルを見てみましょう。上からオレンジ色に点灯する電源ランプ、フランス語で表示されたENTREEノブとSORTIEノブ、そして入力インピーダンスの切り替えスイッチを搭載しています。ENTREEはフランス語で“入力”という意味で、SORTIEは“出力”という意味です。

 入力インピーダンスの切り替えは、スイッチの位置が左側にあるときが50Ωとなり、右側にあるときが200Ωとなります。ビンテージのリボン・マイクにも対応可能な50Ωが選択できるのはうれしいポイントです。

 真空管については、入力段に定番とも言える12AX7を2本、出力段に12AU7を1本内蔵。また入出力段ともにトランスを搭載しています。

明らかに奥行き感が得られる 低域〜高域の音のスピード感が一致

 まずはボーカルでチェック。スタジオにはRCA 44-BXや77-DX、ALTEC 639B、COLES 4038、ROYER LABS R-121など多数のリボン・マイクがあるので試してみます。なおP22TのWebサイトには“マイクをつないだ瞬間に一聴して分かる圧倒的な違い”という文面が書かれていましたが、果たしていかほどなものでしょうか。結果から言いますと……少しでも疑ってしまって、大変申し訳ありませんでした!の一言です。これ以外の言葉が見つかりません。リボン・マイクとマイクプリの相性についてはずっと気になっていたところで、日ごろからよく使っているマイクプリでさえも、リボン・マイクの能力を完全に引き出すことは難しいと感じていました。しかし、このP22Tは違います。明らかに奥行き感が得られ、低域から高域までの音のスピード感がぴったり一致しているのです。こういった点が、非常に印象的でした。

 ちなみに、以前あるマイクプリを試した際、これまでに聴いたことのないようなリボン・マイクの音に深く感動したのを覚えています。そのときは入力インピーダンスが20kΩという非常に高い値であったからだと思っていましたが、今回試したP22Tの入力インピーダンスは200Ωです。正直、私には全く理解の域を超えています。試しに50Ωでも試してみましたが、ある一つのビンテージ・マイクを除けば、いずれも非常にバランスの良い音が確認できました。

 P22Tのゲイン・レベル設定については、ギター・アンプの設定と同じように考えることが可能です。入力段を飽和させるために入力レベルを上げ、出力レベルを適正な値に下げるか、または出力レベルを最大に設定し、入力レベルを適切なレベルに調整するかのどちかです。私の好みとしては、P22Tは入力段を飽和させるよりも、適切な入力レベルに調整する方がよい印象でした。とは言え、使用楽器やアレンジによって飽和感を演出することが求められている場合でも、P22Tはとても良いひずみ感を提供してくれることでしょう。

 ボーカルだけでなくアコースティック・ギターでも試してみましたが、ここで感じたのは低域の豊かさと、音自体が持つスピード感でした。ピアノやブラスに用いても間違いなく良い結果が得られると言えます。

 一つ気付いたのは、ビンテージ・マイクよりも近年製造されたリボン・マイクの方が、P22Tの効果がより出やすいということ。これはおそらくメーカー側の意図かもしれません。つまり、高品質を保持しているビンテージ・リボン・マイクは少なく、現行のリボン・マイクの方が手に入りやすいからです。P22Tで一番感動したのはボーカルです。コンデンサー・マイクでは決して表現できないような深みと厚みのあるサウンドに、感動することは間違いありません。

 

橋本まさし
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリの代表を務めるレコーディング・エンジニア。bird、エレファントカシマシ、ケツメイシ、大黒摩季、MISIA、土岐麻子、MONDO GROSSOなどの録音やミックスに携わる。

 

 

 

MELODIUM P22T Mono

363,000円

MELODIUM P22T Mono

SPECIFICATIONS
▪ゲイン:80dB以上 ▪入力インピーダンス:50Ω、200Ω ▪真空管:入力段に12AX7×2、出力段に12AU7×1 ▪外形寸法(P22T):130(W)×150(H)×280(D)mm(突起物含む/実測値) ▪外形寸法(AL22):130(W)×150(H)×200(D)mm(突起物含む/実測値) ▪重量:3,960g(P22T)、4,360g(AL22)

製品情報

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