「LAB.GRUPPEN PDX3000」製品レビュー:バイアンプ駆動にも対応するDSPプロセッサー搭載パワー・アンプ

f:id:rittor_snrec:20200731134113j:plainPhoto:川村容一

 アンプ・メーカーとして今や不動のポジションにあるLAB.GRUPPENから、DSPを搭載した1,500W×2chのパワー・アンプが発売された。独自開発のIDEEAクラスDアンプを採用し、柔軟な出力供給で各インピーダンス負荷に対応するようになっている。また、熱保護対策やクリップを回避するような策を講じ、アンプとしての基本機能は、高級機種と変わらず一貫したものであることを感じる。

階層の浅いシンプルな操作性
低域の伸びが良い滑らかなサウンド

 10万円を切る実勢価格からエントリー・モデルであることが分かるが、機能面でのそん色は無い。重量6.5kgは、最近の2Uのアンプとしては重くも軽くもない印象だ。デザインは、すっきりとしていて見た目も悪くない。持ち手も付いているので、持ち運びやラック・マウントも楽である。

 

 パネル前面には左側にボリューム・ノブが2個付いている。中央にディスプレイがあり、その周りにSELECTノブ、PROCESS、SETUP、EXIT、上下ボタンが並ぶ。ディスプレイは小さめだが必要な情報は分かる。

f:id:rittor_snrec:20200807120314j:plain

本体ディスプレイには、各種プロセッシングの簡易的な表示もされるため、本体のみでも設定が把握できる

 EXITボタンで戻れるし階層も深くないので、説明書無しでもすべて理解できた。背面は、2個のXLR入力とパラになっているTRS入力、Windowsマシンを接続するUSB端子、スピコン出力が2個付いている。バイアンプ駆動にも対応し、chA出力から4極のスピコン・ケーブルを使って接続し、バイアンプ設定をすることで中高域と低域の出力を分割できる。

f:id:rittor_snrec:20200807120359j:plain

リア・パネルには、スピコン出力×2、XLR入力×2、TRSフォーン入力×2、Windowsマシン接続用のUSB端子を備える。chA出力は4極のスピコン・ケーブルを使用することでバイアンプ駆動にも対応

 今回のチェックには、代表的なポイント・ソースのスタンド・スピーカーとウェッジ・スピーカーを使用。ミキサーのアウトをPDX3000にXLRで入力し、スピコン出力からそれら2種類のスピーカーを鳴らした。CD音源とマイクの声によるチェックを行ったが、レベル・マッチングは問題無く、ボリューム・ノブの1時から2時くらいの位置で程良い音量が得られた。他機種では音量までパラメーターで設定する仕様のアンプもあるが、シンプルに電源をオンにしてボリュームを上げるだけというのは安心感がある。

 

 続いて、ほかの有名メーカーの同価格帯のアンプと比較した。PDX3000は、低域と中高域が伸びているように感じ、全体的にはピュア・オーディオを思わせる印象。とりわけウェッジについては、低域の充実感に特徴があった。あえて言うならば、中域がPAらしい聴こえやすさというよりは、少し上のレンジで滑らかに聴こえる感じがある。スタンドに設置してFOH用に使うことを想定するならば、うるさく感じることはなく、スムーズな出音だ。

 

フィルターやEQ など各種プロセッシング
重要機能のみ搭載で誤操作の心配が少ない

 

 ルーティングも分かりやすい。単純にchA/Bに分けるモードと、各チャンネルを独立させつつプロセッサーのパラメーターのみリンクさせるモード、chAのインプットからクロスオーバーを利用したバイアンプ設定の中から選べる。

 

 プロセッシング機能としては、クロスオーバーとして機能するフィルター、8ポイントのパラメトリックEQ、2chのダイナミックEQ、ディレイ、リミッターが操作可能だ。入力感度など、触ると機能が大きく変わってしまうようなものは付いていないので、レベルはアナログのボリューム操作が基本になる。最近のアンプは、多機能であるために気付かず設定を変えてしまうこともあるので、必要な機能のみを備えていて、初めて使う人でも間違えることが少ないというのは安心だ。

 

 本体とWindowsマシンをUSBケーブルで接続し、専用ソフトウェアPDX Controller Softwareを通して設定を変更することも可能。コンピューターを使用した大画面での操作や、各種設定のストア/リコールができるので、数々の設定の保存に便利である。

f:id:rittor_snrec:20200807120450j:plain

Windows用ソフトPDX Controller Softwareを使用すると、コンピューター上で設定の変更や保存を行うことができる

 また、保存した設定はほかの個体にリコールすることもできる。複数台を使用する場合、それぞれの個体に同一の設定を読み込めるというのは使い勝手が良いだろう。

 

 空冷のシステムはファンが2個付いている。しばらくオンにして使用したが、ほかのアンプと比べてもパネルが熱くなることは無かった。前面から背面へのエア・フローを備えた強制空冷システムの効果だろう。ファン・ノイズは気にすれば気になるかもしれないというレベルで、問題になることは無さそうだ。放熱に関しても、マウント時にスペースを作る必要が無いというのはありがたい。

 

 固定の設備で使うことを想定すると、モニターやFOHの調整をアンプで作ってデフォルトとすることで、その環境における安定したサウンドを作ることが可能になると思う。コスト・パフォーマンスにも優れ、メーカーの信頼感もあるので、故障に関する心配が少ないのもありがたい。TRSフォーン入力も付いており、小規模なカフェなどでの使用にも対応できる。リーズナブルで安定感のある製品と言えるだろう。

 

山寺紀康
【Profile】 PAをメインに手掛けるサウンド・エンジニア。角松敏生、浜田省吾、久保田利伸、スピッツ、槇原敬之、スガシカオ、鈴木雅之、大江千里などの音響を歴任してきた。尚美学園大学准教授。
 

LAB.GRUPPEN PDX3000

オープン・プライス(市場予想価格:80,000円前後)

f:id:rittor_snrec:20200807/20200807112954j:plain

SPECIFICATIONS
▪チャンネル数:2 ▪最大出力:1,000W×2(2Ω)、1,500W×2(4Ω)、800W×2(8Ω) ▪周波数特性:10Hz〜20kHz(+0.5/−1dB) ▪入力インピーダンス:10kΩ(バランス)、20kΩ(アンバランス) ▪外形寸法:483(W)×93(H)×326(D)mm ▪重量:6.5kg

製品情報

beetech-inc.com

関連記事

www.snrec.jpwww.snrec.jp