
低ひずみで高効率を実現
1ch最大2,000Wまで出力分配が可能
PLM 5K44の筐体は2Uサイズ。フロント・パネルの中央には2.5インチ四方のLCDディスプレイがあり、その両側には電源ボタンやメニュー・ボタンなどの各操作ボタンとロータリー・エンコーダーが一つ配置されている。リア・パネルには出力用のスピコンを4系統備えているため、特別な配線をすることなくすぐに使用できるのも魅力的。そのほかにも4系統の出力(バインディング・ポスト)、4系統のアナログ入力(XLR)、2系統のデジタル・ステレオ入力(AES/EBU)、Dante対応のイーサーネット端子(RJ45)も装備されている。
PLM 5K44は、独自の高効率アンプ・テクノロジーIDEEAを採用し、低ひずみで合計5,000Wもの高出力を実現。また、70Vでも動作可能な低電圧リミッター“UVL”、電流消費量をコントロールし不意な電源落ちを防止する“BEL”、いかなる入力信号に対しても最適なパフォーマンスを得ることができるゲイン調整機能“ISVPL”、電源における電流変動の影響を最小限に抑え、安定した動作を提供する“R.SMPS”など、盛りだくさんの機能を搭載している。
中でもユニークなのは、接続されたスピーカーの負荷に応じてチャンネルごとに出力パワーを設定できる機能“RPM”だ。トータル5,000Wの出力パワーを1chあたり最大2,000Wまで分配することができる。
また大きな特徴としては、LAB.GRUPPEN Lakeプロセッサーを搭載していることだろう。Lakeプロセッサーは今やPA業界標準といっても過言ではない出力系のプロセッサー。これをパワー・アンプと一体で使用できることは煩雑な設定を回避する意味でも効率的だ。しかもその機能は単体機ものと全く変わりなく、パラメトリックEQ/グラフィックEQ、レベルなどのパラメーター設定を大規模なサウンド・システムで一括管理することができる。
無料ダウンロードできるLAB.GRUPPEN Lake Controller Softwareには、20社を超えるスピーカー・ブランドのプリセット・データをシミュレートしたロード・ライブラリーが収められている。つまり、専用アンプと同様にクロスオーバーやフェーズなどの設定が自動的にセッティング可能ということだ。また、4つのチャンネルをフレキシブルにコントロールすることができ、インプットをそれぞれ任意のアウトプットに設定することもできる。

試しにフロント・パネルにある操作ボタンでPLM 5K44をコントロールしてみたが、表示形式が直感的には分かりにくく、やはりLake Controller Softwareありきで使用することで、本製品を十分に使いこなせるのであろう。
密度の高い中低域
全帯域に十分余裕のあるサウンド
さてフルレンジ・スピーカーではあるが、PLM 5K44の音質を確認してみた。音源入力やマイク入力、他メーカー・アンプとの比較などを試みたが、総じて中低域の充実や密度の高さを感じた。RPMの出力調整によるものかとも思うが、全帯域に十分余裕のあるサウンドと言った印象だ。また4chで4ウェイを組んだ場合、サブウーファーが高出力に設定されていることがパラメーターで視認できた。それぞれのスピーカーを高能率でドライブできるのも優れているところだろう。
Lake Controller Softwareは、背面にあるイーサーネット端子とWindowsマシンを接続することで簡単に使うことができた。また、プライマリーにWi-Fiルーターを接続することによってワイアレスでLakeプロセッサーのコントロールが可能になる。もしパワー・アンプの数が増えたとしても、Lake Controller Softwareでグループを組んでしまえば、先述したように一括でEQなどをコントロールすることができる。そのためモニター・アンプなどで利用すれば、それぞれのチューニングをタブレットやラップトップなどを使って一人で操作できるのでとても便利だ。しかもLakeプロセッサーに搭載されているEQは高精度なので、より安定した音場を作ることができるであろう。
テクノロジーの進化に伴い、昨今のスピーカーはより緻密(ちみつ)なプロセッシングが当たり前となった。一時代前では単に音を増幅するだけの役割だったパワー・アンプという存在が、現在ではスピーカーに付属されたり、もしくはプロセッサーを内蔵するなどして、想像を絶する進化を遂げている。これはコンソールやプロセッサーと同様にパワー・アンプに関してもより細かい操作方法を習得する必要が出てきたと言えるが、このPLM 5K44のようにソフトウェアのみでパワー・アンプまでもコントロールできるのは大変ありがたい。当然プロセッサーやパワー・アンプに関してワイアレス使用が可能なことは、現場においても大きなメリットである。
また、スピーカーのポテンシャルを最大限に生かしたいと願いながらも、実際には複雑な機能を使いこなせていない人が多くいることも事実。しかし汎用性とクオリティが高いLakeプロセッサーとロード・ライブラリーを併用することによって、誰でもさまざまなスピーカーにおいて柔軟に対応できるであろう。長期的な目線で見ても、PLM 5K44のコスト・パフォーマンスはかなり良いと言える。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年10月号より)