IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings レビュー:室屋光一郎が率いるストリングス・グループの演奏を収録したソフト音源

IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings レビュー:室屋光一郎が率いるストリングス・グループの演奏を収録したソフト音源

 IMPACT SOUNDWORKSからリリースされたストリングス音源、Tokyo Scoring Stringsを紹介します。この音源は同社の設立者の一人でサウンド・デザイナーのアンドリュー・アヴェルサ氏の発案によって作られた、史上初となる日本のストリングス音源です。

歌モノとサントラの両者に適した自然な音質

 この音源が収録されたのは、東京麻布台にあるサウンド・シティAスタジオ。演奏はバイオリニスト室屋光一郎氏が率いる室屋光一郎ストリングスです。レコーディング/ミキシングはエンジニアの相澤光紀氏、そして全体の統括/ディレクションは作曲家の横山克氏がそれぞれ担当しています。これまでのストリングス音源といえば、海外の広いスタジオで大編成の演奏を録音したものが主流。日本のポップスやサウンドトラックなどにマッチした音場のものはなかなかありませんでした。Tokyo Scoring Stringsはそのサウンド感と、独自に採用した新技術の組み合わせにより、日本のポップスやサウンドトラックに求められる機敏性、立ち上がりの良さを実現したストリングス音源です。

 

 今回は8/6/4/4/2の8型と呼ばれる編成に、コントラバスを1名プラスしたものを収録。日本の商業音楽の中では比較的大きめ、オーケストラとしては小さめの編成になっています。相澤氏は今回の収録にあたり、ポップスよりはオーケストラ方面寄りの音質に仕上げたと語っていますが、その言葉通りスタジオの響きを生かしたワイド・レンジでナチュラルな仕上がりです。使い手の後処理次第で歌モノ、サウンドトラックどちらにも振りやすい音質となっています。

ADSRの調整できめ細やかな音色表現が可能

 Tokyo Scoring StringsはNATIVE INSTRUMENTS Kontakt、またはKontakt Player上で起動します。バイオリン1&2、ビオラ、チェロ、コントラバスのそれぞれにおいて、クローズ/ルーム/デッカ/サラウンドの4つのマイクのバランスをミキサーで調整可能です。あらかじめ各マイクがミックスされたボードミックス・パッチを使用することもできます。

 

 パッチを読み込み、最初に現れるのはパフォーマンス・タブの画面で、ダイナミック・レンジなどの調整が可能です。ロング・タブではレガートなど、ショート・タブではスタッカートなどのアーティキュレーションの選択ができます。オン/オフも切り替え可能なので、使わないものはオフにしてメモリー消費量を節約しましょう。リリースのニュアンスなども細かく選べて、ADSRの調整をすることが可能。従来のストリングス音源よりもきめ細かなニュアンスを表現することができそうです。ロング・タブのArcoセクションでは、異なる音価やアタックのサンプルをレイヤーし、音の立ち上がりやスピード感を調整するという、実際のストリングスの打ち込みでは手前のかかる工程をまとめて行うことができます。

IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings ロング・タブの画面

ロング・タブの画面。レガートやトレモロなどのアーティキュレーションを調整できる。Arcoセクションでは、異なるサンプルをレイヤーして音の立ち上がりやスピードを調整可能

IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings ショート・タブの画面

ショート・タブの画面。スタッカートやピチカートなどのアーティキュレーションを調整できる

 パフォーマンス・タブの一番下にあるモードの切り替えのセクションには、ゼロ・レイテンシー・モード、スタンダード・モード、ルックアヘッド・モードがあります。このルックアヘッド・モードが、プレイバック・エンジンにおいて特徴的な機能です。このモードは、ストリングスの演奏表現に欠かせない技術であるレガートやポルタメントを先読みして処理することで、プレイバックの際のリズムのもたつきを解消する機能。これを使えば“レガート時の発音のモタりを見越してノートを数ティック前にずらして……”という手間が大幅に解消できます。ただこの処理には大きなレイテンシーが発生するため、付属の遅延補正プラグインDelay Compensationを併用する必要があります。作曲時はゼロ・レイテンシー・モードかスタンダード・モードにしておき、完成時にルックアヘッド・モードに設定するのが良いようです。

 

 Tokyo Scoring Stringsは、中小編成ならではの機敏性が魅力のチェンバーなストリングス音源です。さらに新開発された技術との組み合わせで、自然な演奏ニュアンスと作曲時のストレス軽減の両方を実現しています。商業音楽作曲家の楽曲制作の一連の工程がよく考慮された音源だと思いました。個人的には今回の新コンセプトを用いて、6/4/2/2/1編成やカルテット編成などの音源も出してほしいなあ、なんて思っています。

 

牧戸太郎
【Profile】東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画音楽のほか、竹内まりや、Hey!Say!Jump、King & Princeなどの編曲も手掛けている。

 

IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings

51,810円(価格は為替相場によって変動)

IMPACT SOUNDWORKS Tokyo Scoring Strings

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.12/10.13/10.14/10.15/11、AAX/AU/VSTに準拠
▪Windows:Windows 8/10(32ビット/64ビット)、AAX/VSTに準拠
▪共通:スタンド・アローンで動作、2.0GHz INTEL Core Duo以上のCPU、16GB以上のRAM(32GB以上を推奨)、180GB以上のディスク・スペース、Kontakt 6.6.0以上が動作する環境