「IK MULTIMEDIA ILoud MTM White」製品レビュー:付属測定マイクで自動音場補正が行える2ウェイ・モニター・スピーカー

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Photo:川村容一

  IK MULTIMEDIAは、なかなか手に入らないギターやベース・アンプ、ビンテージ・シンセなど、さまざまな機器をDAW上で忠実に再現するソフトウェアのほか、スマートフォン用マイクやオーディオI/Oも開発するなど、音楽制作者がインスピレーションを形にするまでの効率化を手助けしてくれています。今回は、そのコンセプトに見事に沿って作られたスタジオ・モニター・スピーカーのILoud MTMの紹介です。新たにリリースされたホワイト・カラーのILoud MTM Whiteを使って試聴していきます。

コンパクトなサイズながらパワフルな再生音
音場補正で高域の倍音が明りょうに聴こえる

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製品名の“MTM”とは、ミッドレンジ・ユニットでツィーターを挟むことで、仮想同軸構造を実現していることを示している

 ILoud MTMおよびILoud MTM Whiteは1本の重さが2.5kgで、片手で持てるコンパクトさ&手軽さです。3.5インチの高性能ミッドウーファー×2がバック・チャンバー実装の1インチ・ツィーターを挟み込むように配置されていて、縦置き/横置きのどちらでも使用可能になっています(写真①)。縦置き用のスタンドは角度を最大20° 傾けることができ、ラップトップの両脇に設置したとしても、ツィーターがちょうど耳に向くように調整可能。横置き用のアイソレート・マットも含め、デザインがとてもシンプルでスタイリッシュです。 

 

  周波数特性は40Hz~24kHzで、このサイズにしては低域特性に優れています。リア・パネルにはローカット・スイッチがあり、40/50/60Hzの3段階で切り替えることが可能。ほかにもLF(100Hz 以下のブースト/カット)とHF(8kHz 以上のブースト/カット)のスイッチがあり、LFは+2/0/–3dB、HFは+2/0/–2dBと、3段階で切り替えができます。

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リア・パネル。上部にはLF EXTENSION(ローカット)、LF&HF(2 バンドEQ)、CAL/PRESET(音場補正機能)、SENS(入力感度)のスイッチが並ぶ。その下にはボリューム・ノブと入力端子(XLR)、測定マイク入力(TSフォーン・ミニ、ケーブルは付属)、USB端子(ファームウェア・アップデートで使用)がスタンバイ

 ILoud MTMの目玉機能は同社の自動音場補正技術、ARC Systemによるキャリブレーション・モードです。付属の測定マイクをリア・パネルに入力し、リスニング・ポイントに固定してからCAL/PRESETボタンを長押し。20 秒ほど待つだけで、再生環境に合わせた音響補正をしてくれます(写真②)。さらに、机との接地面からの震えで余分な中域が鳴るのを軽減してくれるDESKモードも備わっているので、設置場所の選択が増えてとても自由度が高いです。

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ILoud MTMに付属している測定用マイク。スピーカー背面のARC MIC INに接続して使用する

 出力はウーファーが70W RMS、ツィーターが30W RMSの合計100W RMSもあり、このコンパクトなサイズからは想像できないほどのパワフルさです。電力効率が高く、発熱量が少ないと言われるクラスD 方式でバイアンプ構造を採り、近接でも高精細で焦点の合った音像が実現できます。

 

 実際に自分のミックスも含めて、いろいろなジャンルの音楽を聴いてみます。ラップトップの両脇に縦向きで置き、角度調整をして設置しました。アップ・テンポな打ち込みのJポップを聴いたところ、ドシドシとお腹に来るキックの圧と、机を揺らすほどのベース、シンセやギターの押し出し感の迫力がすごくて驚きです。リスニングした場所は、70~100Hz 近辺の低域がたまる傾向にあり、設置場所の左側は木製の扉、天井はコンクリート、右側は冷蔵庫とシンクがあるという左右非対称な空間になっています。ここで音場補正機能を試してみたところ、驚くほど位相が良くなり、L/Rのバラツキが補正されてセンターのメイン・ボーカルがくっきりと現れました。透明感があり、癖が無く素直な印象。特に1kHzから上の高域の倍音成分が明りょうに聴こえ、とても立体的です。

奥行きやL/R の広がりがよく感じられ
ミックスでのパンニングやエフェクト処理も容易に

 引き続きミックス用セッションを開いて作業をしてみました。やはり1kHzから上の倍音をEQで調整するのが容易になっており、0.1dBずつの変化が確認できます。周波数特性が40Hzまでなので、ローエンドのEQ 処理もしやすかったです。コンプのかかり具合や反応がよく分かり、スレッショルドやアタック、リリースの微調整も簡単に行えます。ボリュームを小さめにしても音の一つ一つがくっきりと聴こえ、音像の幅や高域の伸び具合も明りょう。過去の自分のミックスを聴いてみましたが、出音が色付けされていないことで自分のミックスを客観的に聴くことができ、足りていない周波数をところどころ発見することができました。

 

 次は机を耳の高さまで上げ、横置きで試しました。縦置きに比べ随分と印象が変わって聴こえます。普段自分が使っているスピーカーが横置きなので慣れているせいか、センターのボーカルと両脇に広がるギターやコーラスの隙間にやや密度がある印象でしっくりきました。400Hz~1kHzぐらいまでの奥行きや、L/Rに広がる空間がよく感じられ、ミックスでのパンニングやエフェクト処理が容易に行えます。ただ、1kHzから上の倍音は縦置きの方がやや見えやすく感じました。

 

 持ち運びやすいサイズと重量、設置場所の自由度の高さ、スピーディな音場補正機能、癖の無い素直で満足のいくパワフルなサウンドを兼ねそろえるILoud MTM。まさに新しい世代のスピーカーが来たと実感しました。

 

yasu2000

【Profile】 レコーディング/ミックス・エンジニア。1999年に単身渡米し、NYの専門学校IARでエンジニアリングを学ぶ。現在はorigami PRODUCTIONSのエンジニアとして多くの作品を手掛ける。

 

IK MULTIMEDIA ILoud MTM White

オープン・プライス(市場予想価格:43,000円前後/1台)

 

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▪スピーカー構成:ポリプロピレン製カスタムメイド・ミッドウーファー(3. 5インチ)×2+バック・チャンバー仕様シルク・ドーム・ツィーター(1インチ) ▪周波数特性:50Hz〜24kHz±2dB(@40Hz –6dB 非キャリブレーション時/–3dB キャリブレーション時) ▪最大音圧レベル:103dB(200Hz 以上の正弦波)、95dB(100Hz の正弦波)、93dB(ピンク・ノイズ) ▪アンプ:クラスD×2(70W+30W/RMS) ▪外形寸法:130(W)×264(H)×160(D)mm ▪重量:2.5kg(付属スタンド含む)

 

製品情報

www.ikmultimedia.com

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