Heritage Audio RAM System 1000 レビュー:Bluetooth入力を備えUSB-Cで電源供給可能なモニターコントローラー

Heritage Audio RAM System 1000 レビュー:Bluetooth入力を備えUSB-Cで電源供給可能なモニターコントローラー

 自宅のような小さな環境で音楽制作を行う人が増えてきた昨今、モニター環境をどうやって構築していくかというのは大きな課題だと思います。最近はそういったユーザーに向けたモニターコントローラーも種類が豊富で、今回ご紹介するRAM System 1000を手掛けるスペインのHeritage Audioも、この分野で力を入れているメーカーの一つです。

高級感のあるずっしりとしたボディ 入力/出力の選択ボタンは同時押し可能

 RAM System 1000は、同社のモニターコントローラーで一番小さなBaby RAMと上位機種のRAM System 2000の中間に位置するモデルです。ざっくりとした概要としては、インプットとして2系統のステレオ(XLR/TRSフォーン)に加え、Bluetooth接続のデジタル入力を備え、アウトプットが同じく2系統のステレオ(XLR/TRSフォーン)+ヘッドホンアウト1系統を装備。とてもシンプルな構造で、説明書を読まなくても使えそうなくらい簡単に操作できる仕様です。ヘッドホンアウトのないBaby RAMでは物足りず、かといってトークバックは使わないのでRAM System 2000では機能を持て余してしまうというユーザーに適したモデルと言えます。外観ですが、コンパクトにまとまっているとはいえ、電源を必要としないパッシブ仕様のBaby RAMと比較すると存在感のあるボディサイズで、持ち上げるとずっしりと重く、高級感があります。

 それでは、フロントパネルから見ていきましょう。プラスチックのスイッチ類は、指先になじむよう緩やかにくぼんだ形状でデザインされています。入力/出力ともに、選択ボタンは同時押しが可能。MONO/MUTE/DIM(−20dB固定)にも同様のスイッチが使用されています。入力ソースのレベルは、ピークメーターで確認可能です。特に見づらさも感じませんが、LEDは6段階表示なのでレベル管理はざっくりとしかできないかもしれません。センターに位置するマスターボリュームのノブはとても存在感があり、オールドNeveに使われているマルコーニタイプを想起させるデザイン。RAM System 2000と共通の、金メッキリレーを切り替えていくタイプの高級なロータリーノブを採用しています。ボリュームは3dB単位で調整可能。ノブを回すとカチカチと音が聴こえ、昔のコンソールを思わせます。

 続いて、リアパネル。

リアパネル。左側に2系統のアナログ出力L/R(XLR/TRSフォーン)、REC/MONモード切替ボタンを装備。右側に2系統のアナログ入力L/R(XLR/TRSフォーンコンボ/TRSフォーン)、+4dBu/−10dBV切替ボタンを備える。中央にはヘッドホン端子(ステレオフォーン)、電源供給用USB-C端子を装備

リアパネル。左側に2系統のアナログ出力L/R(XLR/TRSフォーン)、REC/MONモード切替ボタンを装備。右側に2系統のアナログ入力L/R(XLR/TRSフォーンコンボ/TRSフォーン)、+4dBu/−10dBV切替ボタンを備える。中央にはヘッドホン端子(ステレオフォーン)、電源供給用USB-C端子を装備

 電源供給用のUSB-C端子を装備。USB-Cケーブルが付属しますが、壁コンセントから電源を取りたい場合はUSB給電用のACアダプターを別途用意する必要があります。ヘッドホン端子は、標準のステレオフォーン。入力セクションは、入力1がXLR/TRSフォーンコンボ、入力2がTRSフォーン。中央のボタンで、入力ソースの基準レベルを+4dBuと−10dBVに切り替えが可能で、入力はアンバランス接続にも対応しています。出力セクションは、出力1がXLR、出力2がTRSフォーン(アンバランス互換)。出力1は、中央のボタンをMONにするとボリュームノブが有効になり、モニタースピーカーを接続するのに適した状態になります。RECにすると、ボリュームノブの位置に関係なく入力ソースがスルーで出力されるので、オーディオインターフェースを接続して録音する場合などに有用です。

Bluetooth接続を搭載 癖がなく明るく伸びやかなサウンド

 RAM System 1000は、Bluetooth入力が可能な点が特徴。スマホやコンピューターなどの出力を受けるのに便利な仕様です。ワイヤレスイヤホンに使われているコーデックにも対応し、接続する際は出力側から操作します。例えば、筆者のApple MacBookでの接続の場合、Bluetoothの設定画面に表示される“HERITAGE R.A.M 1000”を選択するだけで接続自体は完了。あとは、コンピューターの出力設定を内蔵スピーカーからBluetoothに切り替えれば、Spotifyなどの音をそのまま流すことができます。DAWのオーディオ出力をBluetoothに設定できれば、オーディオインターフェースを使うことなくモニタースピーカーから音を流す、なんてことも可能です。DAWなどがソースの場合、コンピューター側で多少レイテンシーが発生することもあるでしょうが、ちょっとした確認なら十分使えます。もちろん、環境によってオーディオインターフェースとの音質の違いが若干あるかと思いますので、その辺りは留意する必要があるでしょう。使用しているコーデックの種類に関しては、フロントパネルのLEDランプで確認可能。コーデックの切り替え自体は、本体が自動的に行う仕組みです。また、同時に1つのデバイスしか接続することができないため、デバイスを切り替えるにはRESETボタンを10秒間長押しして、いったん接続を解除する必要があります。

 最後に全体的な音質ですが、非常に素晴らしいの一言。癖がなく、下から上まで奇麗に伸びている印象で、これはヘッドホンに関しても同じ印象を持ちました。Bluetooth入力も、内蔵のDAコンバーターの質感が素晴らしく、ワイヤレスでもこんなに良い音がするんだなと思いました。ヘッドホンアンプとしても十分使えるクオリティで、明るく伸びやかだけどキンキンした硬い印象が全然ありません。使用前は、USB-C給電を不安に思っていましたが、そんな心配はどこかへ吹き飛んでしまいました。あえて気になった点を挙げるとすれば、ボタンが押されているかいないかをランプで確認することができず、ボタンのへこみ具合でしか確認できないことでしょうか。この部分と入出力の数で不満がないのであれば、RAM System 1000は価格以上の音質を有したとても素晴らしい製品だと思います。手頃な価格で音質を重視したい方にお薦めです。

 

林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックやレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

 

 

 

Heritage Audio RAM System 1000

71,500円

Heritage Audio RAM System 1000

SPECIFICATIONS
▪入力チャンネル:2系統のアナログ入力L/R(XLR/TRSフォーンコンボ/TRSフォーン)、Bluetooth接続のデジタル入力 ▪出力チャンネル:2系統のアナログ出力L/R(XLR/TRSフォーン)、1系統のヘッドホンアウト ▪全高調波ひずみ率:0.01%以下(@1kHz、26dBu) ▪ノイズフロア:−88dBu以下(@Input GND) ▪位相差:0º(@1kHz) ▪外形寸法:190(W)×85(H)×200(L)mm ▪重量:1,630g

製品情報

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