HERITAGE AUDIO BritStrip レビュー:ダイオード・ブリッジ型コンプレッサーを加えたNEVE 1073の再現機

HERITAGE AUDIO BritStrip レビュー:ダイオード・ブリッジ型コンプレッサーを加えたNEVE 1073の再現機

 スペイン、マドリード発のプロ・オーディオ・メーカーHERITAGE AUDIOから、オールドNEVEの代表格であるNEVE 1073のマイクプリとEQに、ダイオード・ブリッジ型コンプレッサーを組み合わせた製品が発売されました。見た目が格好良いのはもちろん、中身もかなり興味をそそられる内容です。早速レポートしたいと思います。

DIにはクラスAのJFET回路を採用

 まずは概要から。BritStripには、NEVE 1073のクローン機であるHERITAGE AUDIO 73JRと同等のマイクプリとDIに加え、1073のEQの機能をさらに拡張した3バンドEQとハイパス・フィルターが搭載されています。さらに、HERITAGE AUDIOのステレオ・バス・コンプレッサーSuccessorの改良版とも言える、ダイオード・ブリッジ仕様のコンプレッサーも備わり、これらすべてが1Uサイズに収まったチャンネル・ストリップになっています。

 DIはオール・ディスクリートで、マイク・トランスの前段にクラスAのJFET回路を置いています。また、この手の製品にしては珍しくパッシブのTHRU端子が付いており、別のアンプに接続することが可能です。マイク入力はCARNHILL製のトランスを採用していますが、これは既製品ではなく同社と共同開発したカスタム製品になっているとのこと。マイク/ラインの選択はLINEスイッチのON/OFFで行います。

 製品左の赤いロータリー・スイッチはマイク/ラインのゲインを調整するもので、ゲイン幅はマイクが+30〜+80dB、ラインは−40〜0dBで、どちらも5dB刻みです。さらには20dBのPADスイッチや、入力インピーダンスの切り替えスイッチなども付いていて至れりつくせり。もちろん48Vのファンタム・スイッチも装備されています。

 EQ部分は3バンドEQ+ハイパス・フィルターと、ここまでは1073と同じ仕様ですが、ハイとローのシェルビング・カーブがPEAKスイッチを押すことでベル・タイプへ変更可能になっているほか、ミドルにはQの幅を狭くするHI Qスイッチを搭載しています。ハイパス・フィルターは、50〜300Hzまで4段階で選択可能です。EQの守備範囲は見た目よりもかなり広そうですね。

 コンプレッサーはEQの後段に配されていますが、この順番は逆にすることも可能です。このコンプレッサーはダイオード・ブリッジ・タイプで、VCAやFETを使ったものとはまた違う、独特の自然で豊かな倍音が得られます。設計上いろいろ手間がかかるらしく、当然それはコストにも反映されるのですが、近年その魅力が再注目されつつあるようです。

 レシオとメイクアップ・ゲイン、スレッショルドとリリース・タイムは、それぞれ2軸2連のポットになっており、レシオとリリース・タイムはステップ式で変更します。アタック・タイムは通常とFASTの切り替えのみが可能。SC. EXTスイッチを押すと、リア・パネルのサイド・チェイン入力を使うこともできます。サイド・チェイン・フィルターは、OFF、80/160/800Hz、3/5kHzから選択可能です。さらに、BritStrip2台をリンクさせるLINKスイッチもあります。また、BLENDツマミがあるので、原音とコンプのかかった音をミックスして出力することも可能。メーターは小型ながら反応が良く、視認性も高いです。当然コンプレッションの量を見るG/Rと、通常のVU表示を切り替えての使用が可能です。

リア・パネルの端子類。左から、電源(XLR5ピン)、アウトプット(XLR)、内部信号を外部機器で処理できるサイド・チェイン・センド、サイド・チェイン・リターン(いずれもフォーン)、BritStripとステレオ・リンクさせるためのリンク(RCAピン)、ライン・イン、マイク・イン(いずれもXLR)

リア・パネルの端子類。左から、電源(XLR5ピン)、アウトプット(XLR)、内部信号を外部機器で処理できるサイド・チェイン・センド、サイド・チェイン・リターン(いずれもフォーン)、BritStripとステレオ・リンクさせるためのリンク(RCAピン)、ライン・イン、マイク・イン(いずれもXLR)

MARINAIR製トランスのような倍音を感じる音

 まずはボーカルの録音に使ってみたところ、これが素晴らしかったです。筆者はCARNHILL製のトランスを使った1073のレプリカを10種類近く試した経験がありますが、その中でもBritStripは、ビンテージの1073に採用されているMARINAIR製トランスのような倍音を感じました。特に中域の厚みがよく再現されていて、ボーカルの嫌なピークをうまく処理している感じがします。使用したマイクは、張り付くようなトレブルの密度の濃さを特徴とするMANLEY Reference Goldでしたが、BritStripを通すと高域のキツい成分をちょうど良いところに収めてくれて、心地良いサチュレーション感も加わり素晴らしく聴きやすい歌にしてくれました。低域もそこそこ厚く、物足りなさは感じません。

 続いて、スネアにSHURE SM57を立てて使ってみました。EQの効きは1073よりソリッドですが、選択した周波数ポイントに的確に効いている感覚があります。特筆すべきは位相の良さで、ニュアンスは少し違うものの1073のように12kHzあたりを持ち上げたときに高域がスカーッと上がってくるのを体感できます。スピード感が損なわれずにミッドの押し出し感が増えるのはとても気持ちが良いものでした。

 NEUMANNのマイクU87AIを使ってアコギにも試してみたところ、ボーカルやスネアで試したときと印象は変わりません。現代的なキラキラ感は若干薄めですが、多くの人が1073に求める倍音の豊かさをそれなりに味わえると思います。

 そして、なんといってもコンプレッサーが良いです! “オマケに付けました”みたいなレベルのものではなく、本気の作り込み具合を感じる出来栄え。“かなりハードにかけても音が遠くに行ってしまう感じが少なく、全体がうまくならされていく”と言えばいいでしょうか。リリースは実際に設定したタイムよりも反応が速い印象で、とてもナチュラルです。倍音もうまくコントロールされています。クリーンで透明感のある音になるというわけではなく、良い意味でビンテージ感のあるカラーが付く印象。特にボーカル録音で得られた結果が素晴らしく、かけ方でさまざまな表情を見せてくれるところも気に入りました。ダイオード・ブリッジ、恐るべしです。

 あえて弱点を挙げるとすると、ツマミを回すのに指が入るスペースが少々手狭な点でしょうか。しかし、出ている音はそんなデメリットも吹き飛ばすほど、素晴らしいものだと思います。

 

林田涼太
【Profile】いろはサウンドプロダクションズ代表。録音/ミックス・エンジニアとして、ロックからレゲエ、ヒップホップとさまざまな作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動。

HERITAGE AUDIO BritStrip

オープン・プライス

(市場予想価格:352,000円前後)

上記価格はレビュー掲載時のものです

HERITAGE AUDIO BritStrip

SPECIFICATIONS
▪最大入力レベル:+22dBu以上 ▪最大出力レベル:+25.5dBu以上(600Ω) ▪入力インピーダンス:1.2kΩ@Hi、300Ω@Lo(マイク)、2MΩ 以上(DI)、10kΩ(ライン) ▪出力インピーダンス:75Ω未満 ▪周波数特性:15Hz〜30kHz(±0.5dB) ▪全高調波ひずみ率:0.07% @20dBu(50Hz〜20kHz) ▪外形寸法:481(W)×43(H)×210(D)mm ▪重量:3.3kg

製品情報

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