AUSTRIAN AUDIO The Composer レビュー:49mm大口径ドライバーを採用しバランス接続にも対応する開放型ヘッドホン

AUSTRIAN AUDIO The Composer レビュー:49mm大口径ドライバーを採用しバランス接続にも対応する開放型ヘッドホン

 AUSTRIAN AUDIOから、“開放型オーバーイヤー・プレミアム・リファレンス・ヘッドホン”と銘打たれたThe Composerが発売されました。同社のラインナップの中でも頭一つ以上飛び抜けて高価格帯である本機が、一体どのような製品なのか見ていきましょう。

耳に対して絶妙な位置にあるドライバー

 重量は385gで、開放型としては標準的です。私が普段側圧強めのモデルを使用しているせいか、本機は側圧もそれほどなく疲れにくいような印象。圧がほとんどないというわけではなく、フワッと優しく頭をホールドしてくれます。軽く振り返るだけでズレてしまうといった心配は皆無でしょう。

側面から見たところ。ヘッドバンドの長さは写真中央のスライダー(赤枠)で調整できる

側面から見たところ。ヘッドバンドの長さは写真中央のスライダー(赤枠)で調整できる

 サウンドに言及する前に、個人的に感動したのはドライバーの位置です。多くの密閉型ヘッドホンは、おしなべて鼓膜の非常に近い位置で鳴っているように感じるのに対し、開放型は少し遠い(ドライバーと鼓膜の間に空間を感じる)気がするのですが、The Composerはその位置が絶妙であるように思います。DJユースのヘッドホンのような近さを求めている方には不向きだったり、あるいは鑑賞目的としては近すぎると感じる方もいるかもしれませんが、制作をしている人間からすると、とても精密に音色や空間を把握しやすく、理想的な位置で音が鳴っている感覚があります。

 サウンドについては、物は違えど同社のマイクと同じ思想を感じる音で、とにかくフラットでレスポンスが良いということに尽きます。どれだけ高価格帯のヘッドホンでもピークを感じることがあり、それも個性や設計思想と考えていましたが、The Composerのように鳴ってくれるともはやリスニング用だったのかなと思わざるを得ません。リファレンスヘッドホンと言われるヘッドホンの中でも、最も正確にモニタリングできるであろう出音だと、個人的には感じました。

 今回、3グレード(ビギナー向け、コンシューマー向け、プロ向け)のヘッドホンアンプで音を聴き比べたところ、アンプの違いでモニタリングのしやすさが大きく変わることはありませんでした。無論、解像度には差があります。しかし、本機のレスポンスの良さのおかげで、低価格帯オーディオI/Oのヘッドホンアンプであってもきちんとモニタリングできたことを先にお伝えしておきます。

ケーブルは左右のユニットそれぞれで着脱。アンバランス/バランス接続に対応し、接続端子に合わせた各種ケーブルが付属する。また、ユニットとの接続にはオープンなプラグ規格であるバナナプラグを採用しておりケーブルを自作することも可能だ

ケーブルは左右のユニットそれぞれで着脱。アンバランス/バランス接続に対応し、接続端子に合わせた各種ケーブルが付属する。また、ユニットとの接続にはオープンなプラグ規格であるバナナプラグを採用しておりケーブルを自作することも可能だ

低域のスピードとパワーをしっかり表現

 ではここから細かくサウンドについて……と思っていたのですが、先述した通り、書き方に困ってしまうくらい圧倒的にレスポンスが良いです。モニター音量の大小によらず音のダイナミクスの再生力が高いので、コンプレッションによるアタック感、こもるような感じも繊細にモニタリングできます。同じラウドネス値でさまざまなジャンルの音源を聴き比べたところ、深くトータルコンプのかかったミックスがどの程度こもっているか、逆にかかっていない音源がどの程度パワーが不足しているのかなどまでも精細に聴き取れました。

 もちろん開放型ヘッドホンの特徴として空間の表現がナチュラルなのは言わずもがなですが、ナチュラルすぎて解像度が下がるといったこともありません。シンセにかかった左右に広がるコーラスの位相差に、良い意味で乗り物酔いを起こすような感覚になったのは初めての体験でした。

 また特に低域のレスポンスが素晴らしいです。ドラムやライブのアンビエンスなど、ステレオで収録されたボトムの位相感も非常に聴き取りやすく、Roland TR-808やTR-909のキックのような圧のある電子音でも、強調されすぎずにしっかりとスピードとパワーのある音を表現してくれます。低域の音量感、位相感、スピード感がここまで再生できるヘッドホンというのは聴いたことがありません。

 次にスウィープ音でもチェック。30Hz以下までしっかり聴こえるヘッドホンもあるのですが、音楽を鳴らしたときに量感などが正確に聴こえるのは本機の方かなと思います。“音が聴こえればいいというものではなく、正確に音声をモニターできるようにチューニングしています”と言わんばかりです。

 ここまでは通常のアンバランス接続でレビューしていたのですが、The Composerはバランス接続できるということで、そちらも試してみました(4ピンXLR端子の3mケーブルと4.4mm Pentaconn端子の1.4mケーブルが付属)。今回、バランス接続できるヘッドホンアンプは低価格帯のものしか用意がなかったのですが、それでも中低域の位相のフォーカスが合う感じは非常に素晴らしかったです。ただ、アンバランス接続だと解像度が大幅に失われるというわけでもないので、自身の環境に合わせて使用しましょう。

 総じて、The Composerはモニタリングにおいて最高峰のヘッドホンということは間違いありません。一般的に開放型は密閉型と比べてパワーに劣るという面もありますが、その分パワーにごまかされにくいとも言えます。適正な音量で、音の強さが正確に分かるのは、作業をする上でも大きな利点と言えるでしょう。

 とにかく素晴らしいThe Composer。一言で表すならば、“オンイヤーの理想的なスピーカー”という表現が、個人的には一番しっくりくる気がしました。理想のモニター環境は人それぞれですが、都市部ではなかなか理想の部屋を造れず、どれだけ高性能なスピーカーを用意しても満足に鳴らせない状況を見受けることもしばしば。その点、The Composer は高価格に感じるかもませんが、逆にこの価格で最高のモニター環境を実現できると思います。

 

原真人
【Profile】 フリーランスのエンジニア。近年参加作品は原 摩利彦『兎、波を走る』、tico moon『透明なぬくもり』、大比良瑞希『Jam』、中川理沙『動物の庭』、カーネーション 『Carousel Circle』など。

 

 

 

AUSTRIAN AUDIO The Composer

オープンプライス

(MUSIC EcoSystems STORE価格:396,000円)

AUSTRIAN AUDIO The Composer

SPECIFICATIONS
▪形式:開放型 ▪ドライバー:49mm径Hi-X49DLCドライバー ▪周波数特性:5Hz〜44kHz ▪全高調波ひずみ率:0.1%以下(@1kHz) ▪入力電力:160mW ▪感度:112dB SPL/V ▪インピーダンス:22Ω ▪全高調波ひずみ率:0.1%以下(@1kHz) ▪外形寸法:200(W)×215(H)×90(D)mm ▪重量:385g(ケーブルを除く) ▪付属品:ステレオミニからステレオフォーンへの変換アダプター、3.5mmTRSケーブル(3m)、4ピンXLRバランスケーブル(3m)、4.4mm Pentaconnケーブル(1.4m)、ストレージボックス

製品情報

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