AUSTRIAN AUDIO OC707 / OD505 レビュー:オーストリアで作られたハンドヘルド型のステージ向けマイク2機種

AUSTRIAN AUDIO OC707 / OD505 レビュー:オーストリアで作られたハンドヘルド型のステージ向けマイク2機種

 ウィーンのブランド、AUSTRIAN AUDIOがハンドヘルド・マイクを発売。コンデンサー型のOC707とアクティブ・ダイナミック型のOD505という2機種がラインナップされています。筆者は録音メインで仕事しているので、ハンドヘルド・マイクになじみが薄いのですが、同社のOC818のファンとしては期待せずにはいられません。

OC707の音は明るく自然で扱いやすく、OD505はコンデンサー・マイクのような音色

 両機種共に、重量はSHURE SM58より30gくらい重め。重心がヘッド寄りですが、グリップ側とのバランスが良くハンドリングしやすそうです。ヘッドが浮いたような構造は、“カプセルと筐体の接点を最小限に抑えるため”というオープン・アコースティック・テクノロジーによるもの。いずれの機種も、第一印象で割と近接効果が強めに感じられましたが、カプセルの裏側が開放されているからか、低音の増加が不自然に思えない不思議な近接効果です。

カプセルと筐体の接点を最小限に抑制し、回折や不要な反射/共振を抑える独自技術=オープン・アコースティック・テクノロジー。OC707(写真)とOD505の両方に採用されている

カプセルと筐体の接点を最小限に抑制し、回折や不要な反射/共振を抑える独自技術=オープン・アコースティック・テクノロジー。OC707(写真)とOD505の両方に採用されている

 使用時は、OC707はもとよりOD505がアクティブ・ダイナミック・マイクなので、両機種共に48Vのファンタム電源の供給が必要です。周波数チャートを見ると、どちらも3〜5kHz辺りが持ち上がっていますが、一聴した感じは非常にナチュラル。OD505には、高音圧の入力があったときに鋭いピークを少しだけ感じたものの、レスポンスが良く自然な印象を受けました。

 まずは、ライブでOC707を女性ボーカルに使ってみました。ピアニッシモからフォルテッシモまで幅のあるボーカルの方でしたが、とにかくナチュラルにキャプチャーしてくれます。張った声が耳に痛くならず、小さな声でもしっかりとハイが聴こえました。若干、吹かれに敏感という気がしましたが、本体内のローカットを入れると問題なく使える上に、ボトムが細くなった感じもしません。

OD505の筐体背面。写真上方に見えるのが、120Hzのローカット・フィルターをオン/オフするスイッチだ。その下にはシリアル・ナンバーやメイド・イン・オーストリアの表記がある

OD505の筐体背面。写真上方に見えるのが、120Hzのローカット・フィルターをオン/オフするスイッチだ。その下にはシリアル・ナンバーやメイド・イン・オーストリアの表記がある

 EQ無しでも明るい音で使いやすく、イコライジングするならハイをほんの少し持ち上げるだけで音を作り込めると思います。周波数レンジが広い分、シャウト系の歌はナチュラルさが勝ってパンチが出にくいかもしれませんが、コンプをかけても破たんしにくいニュートラルな音だと感じます。ジャズやアコースティック編成のボーカルには確実にもってこいです。

 一方、OD505は不思議なマイクです。同じく女性ボーカルに使ってみました。これまで使ったことのあるアクティブのダイナミック・マイクには、ざっくり言えば“出力が大きいダイナミック・マイク”くらいの印象しかなかったのですが、OD505には“マットな音色のコンデンサー・マイク”というような周波数レンジの広さを感じます。OC707ほど明るい音ではなく、比較してみるとほんの少しナロー・レンジなのかもしれませんが、かと言って暗くはなく、ハイも奇麗にキャプチャーされます。ダイナミック・マイクという先入観の下で使うと、その繊細なレスポンスに驚くことでしょう。

 シャウト系のボーカルには試せませんでしたが、声量のある人にはOC707よりOD505の方が向いているかもしれません。詰まった印象や硬い感じがなく、少し明るくしたければ8kHzより上を薄っすらとEQで上げるだけでOC707に迫る抜け感を得られるでしょう。ただ、吹かれにはさらに敏感なようで、本体ローカットの使用は必須という印象。裏を返せば、ローカットを入れるとボトムの処理をしなくてよいくらいナチュラルなレスポンスだと感じます。

サックスなども耳に痛くならないOC707、OD505はリズム隊やギターにも好印象

 ここからは、レコーディングで歌以外のソースに立ててみた所感をお伝えします。まずはOC707。本機は、AUSTRIAN AUDIOのペンシル型マイクCC8と同じカプセル“OCC7”を備えています。このOCC7は、AKG C451EなどのカプセルCK1にインスパイアされ作られたものですが、マイクの音は格段にレンジが広くフラットで、使いやすいです。サックスなどは耳に痛くなるかと思いきや、オープン・アコースティック・テクノロジーの恩恵か、近くに立てても空気感を含めナチュラルに録れました。ドラムのトップでも好印象で、C451とAKG C414の中間くらいの指向性で録れ、なおかつワイド・レンジでフラットという感じ。アコギにもC451の上位互換のような感覚で使えました。吹かれないのでローカットの必要性を感じず、むしろオンマイク時に距離を調整することによる低音の増減がマイキングの楽しみにもなります。ハイも、楽器に近づけたときに暴れるという感じは無く、本当に使いやすいです。

 次にOD505。ローカットを入れずにスネア、タム、ベース・アンプなどへ立ててみたところ、コシがありつつレンジの広さも感じられました。しかし派手過ぎず、作り込みがしやすい音です。ギター・アンプにも使いやすく、そのまま立てるとレンジの広いダイナミック・マイク、EQでハイを持ち上げるとコンデンサー・マイクのように使えて音を作るのが楽しいです。さらにアコギでも感触が良かったのですが、超指向性なので演奏者の体が動くと結構、音が変わってしまいます。セッティングを固定できるソースでの方が使いやすいかもしれません。

 2つ共“ハンドヘルド・マイク”と謳われているため、歌以外に使いにくいのかな?という印象を持つかもしれませんが、そんなことはないと思います。OC707はライブ・ボーカルと録音のクオリティ向上を目指す中級者以上の方に、OD505は初めてのマイ・ボーカル・マイクとしても価格以上の質が得られますし、PAから録音まで使える万能機としてお薦めです。

 

原真人
【Profile】フリーのエンジニア。大森靖子、細野晴臣、古川麦らのほか、最近は原 摩利彦『流浪の月』(OST)、松木美定 feat. 浦上想起『舞台の上で』、パジャマで海なんかいかない『Trip』などを手掛ける。

 

AUSTRIAN AUDIO OC707 / OD505

オープン・プライス

(市場予想価格:59,400円前後)/OC707、(市場予想価格:36,300円前後)/OD505

AUSTRIAN AUDIO OC707 / OD505

SPECIFICATIONS
●OC707
▪形式:コンデンサー型 ▪指向性:単一指向 ▪周波数特性:70Hz〜20kHz ▪感度:10mV/Pa ▪最大SPL:150dB SPL ▪ファンタム電源:48V(2.2mA以下)

●OD505
▪形式:アクティブ・ダイナミック型 ▪指向性:超指向 ▪周波数特性:35Hz〜16kHz ▪感度:4.4mV/Pa ▪最大SPL:154dB SPL ▪ファンタム電源:48V(1mA以下)

●共通
▪出力端子:XLR(オス、3ピン) ▪インピーダンス:275Ω(シンメトリー) ▪インピーダンス負荷:1kΩ以上 ▪内蔵ローカット・フィルター:120Hz(2次) ▪外形寸法:53(φ)×194(H)mm ▪重量:340g

製品情報

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