APOGEE Boom レビュー:内蔵DSPでエフェクトを使用できる2chオーディオI/O

APOGEE Boom レビュー:内蔵DSPでエフェクトを使用できる2chオーディオI/O

 プロのスタジオでもよく知られたデジタル・オーディオ・ブランドのAPOGEEから、小型USBオーディオI/OのBoomが発表されました。手軽でシンプルなボーカル録音、配信用動画制作、旅先での音楽制作といった現代ならではの用途に特化していると思われる本機ですが、実際の使用環境などを踏まえながらレビューしていきたいと思います。

全操作をソフトウェアから可能

 まず外見を簡単に見てみますと、大きさは手のひらにちょっと余るくらいのサイズで、カバンに入れて持ち出すのにも全く問題のないサイズと言えるでしょう。重量は非常に軽いというほどではありませんが、音質や耐久性などを考慮した結果、可能な限り最も軽くしたというところなのではないかと思いました。

 デザインはメタリック・パープルとブラックのボディでカジュアルな感じながらもAPOGEEらしいシックさもあります。良い意味で機材感があまりないので、ノートPCとセットで組んだときにもスマートにまとまりそうです。

 端子やノブの構成は非常にシンプルで、前面はIN1がマイク/ライン/楽器入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)、IN2が楽器/ライン入力(TRSフォーン)で、あとは音量や操作の切り替え用のノブが1つあるのみです。背面にはヘッドフォン・アウト1つとスピーカー・アウト(TRSフォーン)がステレオで1組、それにUSB-C端子1つとKENSINGTONの盗難防止用セキュリティ・スロット、これですべてになります。

背面の端子類。左上にUSB-C、左下にKENSINGTONのセキュリティ・スロット、その右にはヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)とスピーカー・アウトL/R(TRSフォーン×2)が並ぶ

背面の端子類。左上にUSB-C、左下にKENSINGTONのセキュリティ・スロット、その右にはヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)とスピーカー・アウトL/R(TRSフォーン×2)が並ぶ

 入出力はこれら以外には装備されていないので、本機1台とマイク、ヘッドフォン、スピーカーの組み合わせが基本と言えるでしょう。電源はバス・パワー供給のみです。Mac/Windowsのほか、iOS/iPadOSへも対応予定だそうですが、レビュー時点で詳細は不明のため割愛いたします。

 本機の操作はすべてコントロール・ソフトのAPOGEE Apogee Control 2で可能です。実際に使用してみた印象は、音量設定のみノブを使用する方が感覚的にやりやすいかなと感じましたが、ほかはソフトのみで十分でした。なお、本体前面のノブは押し込むことで、IN1/IN2の入力ゲイン調節とスピーカー・アウトの音量調節を順番に切り替えられます。

録音に使えるチャンネル・ストリップ・プラグイン

 では、実際に機能面を試してみましょう。まずは音源を再生して、ヘッドフォン、スピーカーで鑑賞してみましたが、その音は相当重要視したのではないかと思えるほど高クオリティです。DAコンバーターには同社オーディオI/OのSymphonyシリーズと同様にESS TECHNOLOGY Sabreが採用されているとのことで、ヘッドフォン・アンプのクオリティなども含め、単に音楽鑑賞用として素晴らしいですし、エンジニア目線で見てもミックスの仕込みなどの作業にも十分使用できるクオリティを持っていると感じました。

 次にボーカルと楽器をテスト録音して、使用感と音質をチェック。マイクや楽器を本機に接続したら、前述のApogee Control 2で設定していくのですが、このソフトは非常に分かりやすく、以前に同社オーディオI/Oを使用した経験のある筆者としては、もはやマニュアルを見なくても問題がないレベルでした。

コントロール・ソフトのAPOGEE Apogee Control 2。赤枠部分にはIN1とIN2のパラメーターが用意され、黄枠はDAWなどからの再生音の音量メーター、青枠がミキサー・セクション。右端にはヘッドフォンとスピーカー各アウトの音量ノブがあり、ミキサー、DAWなどの再生音、IN1とIN2の入力音といったモニターしたいソースを選ぶことができる

コントロール・ソフトのAPOGEE Apogee Control 2。赤枠部分にはIN1とIN2のパラメーターが用意され、黄枠はDAWなどからの再生音の音量メーター、青枠がミキサー・セクション。右端にはヘッドフォンとスピーカー各アウトの音量ノブがあり、ミキサー、DAWなどの再生音、IN1とIN2の入力音といったモニターしたいソースを選ぶことができる

 インプットに関してはシンプルな機能のみなので詳細を省きますが、PAD(−10dB)、フェイズ・スイッチ、Hi-Zへのインピーダンス切り替えなど必要機能はすべて網羅されており、業務用、民生用のさまざまな楽器、機材を接続して使用できます。マイクプリのゲインも62dBと高く余裕があるので、どんなタイプのマイクでも問題なく使用できそうです。

 画面下部にはミキサー・セクションがあり、こちらで録音時のダイレクト・モニターのミックスなどを行えます。またDAW上ではアウトプットをバーチャルで4ch分使用できるので、ch1-2とch3-4で録音時のモニター・ミックスを別で作成することが可能です。さらに、ch1-2にはパソコン上の別ソフトの音声も立ち上げられるので、配信時にその別ソフトからの音声を流しながら歌唱や生演奏をミックスするといったことも行えます。もちろん、これらはすべてApogee Control 2内でオペレートできるのですが、その操作はすぐに覚えられるようにシンプルにまとめられているので初心者でも安心です。

 もう一つ特筆すべき機能として、Apogee Control 2上で同社のプラグイン、Symphony ECS Chanel Stripを使用できます。このプラグインはEQ、コンプ、サチュレーターを装備したチャンネル・ストリップで、本機内蔵DSPで動作します。

チャンネル・ストリップ・プラグインのAPOGEE Symphony ECS Channel Strip

チャンネル・ストリップ・プラグインのAPOGEE Symphony ECS Channel Strip

 実際に使用してみると、全機能のサウンドがナチュラルで程よいアナログ感もあり、とても使いやすいと感じました。音質チェックではスタジオにある高級機との比較試聴を行ったところ、何もしていない状態だとやや低域が弱く遠くに感じましたが、少しのEQとサチュレーションを付加したところ、ほかの上位機にかなり近いサウンドになりました。

 この結果から、内蔵ADコンバーターの解像度としては非常に優秀で、少しだけプラグインで太さを付加して録音することで、スタジオ録音に近いクオリティも実現できそうです。このプラグイン処理はダイレクト・モニターの返しにも反映されるので、録音時の使用も問題ありません。特に、DAWを立ち上げずに配信等を行う際のサウンド調整には最適であると感じました。

 少し駆け足でのレビューになりましたが、筆者の身の回りにも多チャンネルのオーディオI/Oを導入したけど、実際は1〜2chしか使用していないという方は多いですし、機能が多いとそれだけ使い方も複雑になってきます。多くの機能は必要なく、使い方が分かりやすい方がよい、もちろん音が良いに越したことはないという需要に対して、必要最低限な機能をうまくまとめて低コストに抑え、高レベルの音質を実現している本機はベストな選択肢となると思います。

 

檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスで活動するレコーディング/ミキシング・エンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。

 

APOGEE Boom

44,990円

APOGEE Boom

SPECIFICATIONS
▪外形寸法: 161(W)×53(H)×130(D) mm ▪重量:730g ※いずれも実測値

製品情報

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