「AKG DMS300 Series」製品レビュー:スピーチ用に特化した2.4GHz伝送のデジタル・ワイアレス・システム

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 世界的マイク・ブランドAKGが、スピーチ/アナウンス用ワイアレス・システムDMS300 Seriesを発売した。免許不要の2.4GHz帯を使用し、非圧縮の24ビット/48kHzデジタル伝送方式を採用している。受信機と同梱される送信機は、ハンドヘルド・マイク、イア・フック・マイク、ラベリア・マイクのラインナップがあるが、今回はその中で、DMS300 Setハンドヘルド・マイクをチェックしてみた。

 

同時に最大8台を安定して運用可能
AES 256ビットで音声情報を暗号化

 

 今回届いたセットの第一印象は、ハンドヘルド・マイクのグリップ部分が太くしっかりしていることだ。カプセル部は直径51mm、長さが250mmで標準的サイズ。見た目が太いので“重量感がある?”と思った割に252gと軽めだった。カプセル部はAKG製のダイナミック・タイプで、ハウリングに強い指向性のスーパー・カーディオイドを採用している。グリップ上部には、電源オン/オフ(2秒長押し)、ミュートのオン/オフ(1秒長押し)のボタンと、電池残量のステータス、チャンネルID(1〜8)の各インジケーターがある。なおアンテナは内蔵なので、出っ張りなどは無い構造だ。

 

 受信機はハーフ・ラック・サイズで、フロント両側に短いアンテナが付いている。何と重量は404g! 持った瞬間に驚いたほど軽い。なおオプションのラック・マウント金具RMU40 Proを使用すれば、1Uラックのスペースに1台もしくは2台設置できる。中央のディスプレイには、輝度の高いLEDで音量、電波状況、電池残量などが大きく表示。出力はXLR端子とそれよりも出力レベルが6dBu低いフォーン端子を備えているので、接続機器に応じて選択可能だ。なおXLR端子は、−30dBと0dBに出力レベルを切り替えることができる。ハンドヘルド・マイクの電源供給は単三アルカリ乾電池を2本を使用し、電池寿命は約12時間だ。

 

 本機は、最大8台の受信機を安定して運用できる優れた通信性能が特徴。受信機同士を付属のシンク・ケーブル(RJ12端子)で接続して通信情報を共有し、受信機それぞれの送受信周波数や通信のタイミングを最適化してくれる。2.4GHz帯の限られた空きスペースを効率良く利用でき、複数台での運用もより安定するという機能だ。

 

 また、盗聴などの情報漏洩への対策も万全。音声情報は強固なAES 256ビットで暗号化して送信される。そのため、会議などの内容が外部に漏れるリスクを極めて低く抑えることが可能なのだ。今までセキュリティ問題でワイアレスをあきらめていたシーンでも安心して使用できる。信号の送受信には非圧縮の24ビット/48kHzデジタル伝送方式を採用。カプセルがとらえた音を劣化させずに伝えることが可能だ。ダイナミック・レンジは116dBにも達しているので、男性の大声から女性やお年寄りの小さい声まで明りょうに再現する。

 

クリアですっきりとした音色
近接マイクでもブーミーにならない

 

 今回は弊社スタジオでチェックした。受信機右側の大きいエンコーダーは、通常状態だとボリューム調整を行うものだが、ハンドヘルド・マイクと受信機のペアリングをする際にも使用する。エンコーダーを2秒長押しし、受信機に任意の周波数(1〜8のチャンネルID)を設定。送信機の電池カバーの中にあるペアリング・ボタンを長押しすると1分以内でセット・アップは完了した。

 

 そして肝心の音色については、第一印象はクリアですっきりとしている。マイクと近接しても低域のブーミーな感じがなく、中域のピークも少なかった。これは性別を問わずにはっきりと聞かせたいスピーチに向いている印象だ。カプセルの指向性も気持ち鋭めな印象で、オンマイクで使用するシーンで力を発揮すると感じた。

 

 今回は1台のみでチェックできなかったが、同時8波運用可能なSYNC機能は、2.4GHz帯のワイアレス・システムの中でも優秀なところ。なので、チェックできなかったのは非常に残念だ。イア・フック・マイクやラベリア・マイクとのボディ・パック型の送信機も、機会があればぜひ使用してみたい。

 

 私が所属するLSDエンジニアリングは、ライブPA以外にも録音や企業の発表会などの音響も手掛けている。使用できる周波数帯が限られているホテルなどで、有線マイクを使用していた場面でも、1波あたりのコスト・パフォーマンスが優れたDMS300は、気軽にワイアレスを導入するのに最適だろう。また操作も簡単なので、少人数のエンジニアでPAをする際に、ステージ・マンの手間も軽減できる。エンジニアが不在の現場でも、スピーチをする本人が簡単に操作可能だろう。受信機が軽く可搬性も高いので、インストア・ライブの現場にエンジニアが持ち込むワイアレスとしても活躍しそうだ。

 

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受信機のリア・パネル。バランス出力(XLR)、出力レベル切り替えスイッチ(-30/0dB)、アンバランス出力(フォーン)、複数台運用時に受信機同士を接続するためのSYNC IN/OUTが並ぶ

 

問合せ:ヒビノプロオーディオセールス Div.

製品ページ:https://proaudiosales.hibino.co.jp/akg/4598.html

 

AKG DMS300 Series

DMS300 Set ハンドヘルド・マイク:オープン・プライス

(市場予想価格:36,000円前後)

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●システム性能▪電波形式:F1D▪伝送方式:GFSK(ガウスフィルター・シフトキーイング)▪搬送波周波数:2.4GHz帯▪到達距離:約30m▪周波数特性:70Hz~20kHz(+1/−3dB)▪ダイナミックレンジ(1kHz):116dB▪AD/DA:24ビット/48kHz●受信機▪出力端子:XLR端子またはフォーン端子▪最大出力:+15dBu(XLR)、+9dBu(フォーン)▪外形寸法:200(W)×44(H)×141(D)mm(突起部を除く)▪重量:404g●ハンドヘルド型送信機▪形式:ダイナミック型▪指向特性:スーパー・カーディオイド▪アンテナ形式:内蔵式▪電源:単三形アルカリ乾電池×2本▪電池寿命:約12時間(使用環境により異なる)▪外形寸法:51(φ)×250(H)mm▪重量:252g