安田寿之が使うDigital Performer 10 第3回〜DP10の機能を使ったレコーディング 譜面制作やピアノ録音の効率化を図る

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新型コロナ・ウィルスについては、日々情勢が変わっています。僕もですが、多くの音楽関係者は保証された給与体系では仕事をしていないと思います。もし文化や芸術が不要なものとして切り捨てられるようなことがあれば、その後の世界は寒々とした救いの無い世界になるでしょう。アートの無い世界は、じわじわと人々の命を奪っていくと思います。 

譜面作成をスムーズに行うため
コード・ネーム用のトラックを用意

 前回は生ピアノの録音前までシーケンスを完成させました。今回は、Digital Performer(以下DP)を活用して録音&編集するプロセスを解説していきます。仮でコードを打ち込んだトラックをピアノで弾き直しますが、最初に譜面を作ります。“chord”と“chord bs”の2trを選択し、プロジェクトメニューのクイックスクライブエディターから譜面を表示しましょう。

 まずはデフォルト表示で不具合がある部分、より見やすくする部分などを修正していきます。右手パートのトラック“chord”のヘ音記号をト音記号にするには、右上のミニメニューのオプションにあるトラックオプションを選択。“トラック名”から“chord”を選び、“スタッフの種類”をト音記号に変更しましょう。“スタッフ間の間隔設定”では1ページに表示する段数を調整可能。ここでは7段から5段に減らし、見やすくしました。同じくミニメニューの“マーカーオプション”でマーカー表示、“メジャーナンバー”で小節番号表示、“メジャースペース”で1段の小節数の調整が可能。初期設定では音符の詰まり具合で段によって違う小節数が自動的に設定されるので、今回は見やすいように8小節/段にそろえます。

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クイックスクライブウインドウのミニメニュー>オプション>トラックオプションで表示される画面。音部記号や1ページに表示する段数を設定できる

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クイックスクライブウインドウのミニメニュー>オプション>メジャースペースで、1段に表示する小節数を設定

 曲タイトルや作曲者、日付など任意の文字は、ミニメニューの“テキストツール”で書き込みます。さらに、コード・ネームも付加しますが、ここでちょっとしたテクニックを使います。理由は後で説明しますが、まずはコード・ネーム用に1つのMIDIトラックを作成。クイックスクライブエディター画面にも追加表示し、そのトラックにコード・ネームを書き込んでいきます。任意の場所をクリックして書き込めますが、そのままだと正確な位置にはなりません。イベントリスト画面で書き込んだコード・ネームの位置が分かるので、修正します。細かい部分ですが、音符表示と正確に一致させ、表示間隔を変えた際にも意図する位置での表示を保つことになり、作業の効率化につながるので修正しておきましょう。この曲の場合、Cパートの9〜12小節と13〜16小節は同じコード進行です。4つのコード・ネーム・データをトラック画面でコピー&ペーストすることで、作業を迅速化できます。このコピペがわざわざMIDIトラックを作った理由の一つです。もしMIDIノートの入っているトラックにコード・ネームを書き込んでいれば、コピペの際にMIDIノートもペーストされてしまいます。コードは同じでも違うボイシングで弾いている場合もありますし、MIDIノートが書き換わってしまうのは困りますので、その対策です。

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筆者の場合、クイックスクライブでのコード記述を迅速化するため、コード・ネーム用のトラックを別途用意している。画面左側の譜面最上段、画面右側の赤いリージョンのトラックがそれにあたるものだ。MIDIノートが打ち込まれているトラックに直接コード・ネームを書き込むと、コピー&ペーストした際にMIDIノートも同じくコピーされてしまうため、同じコードでもボイシングが違う場合などを考えてこのような手段を採っている

 同様の作業で、A、Bパートなどについても書き込んでは位置を修正し、コピペできる部分はして、コード・ネーム表示を1曲分完成させます。実際の譜面にはこのコード表示のみのトラックは不要なので、トラック画面で“chord”トラックにコード・ネーム・データをマージすることで、ようやく譜面の完成です。コード表示のみのトラックを作ったもう一つの理由として、別の楽器の譜面を作るときにも、そのコードのデータを任意のトラックにマージしやすいということがあります。自演する際に譜面は不要かもしれませんが、演奏者に渡す譜面はできるだけ美しくかつ見やすくしておく必要があるでしょう。

 

トラックグループを活用して
迅速な複数テイクの録音を実現

 今回使うマイクは、NEUMANN U87AI(モノラル)とKM183(ステレオ・ペア)です。モノラル/ステレオ各1trずつを作成、インプットのチャンネルを合わせ、スタジオメニューのオーディオモニタを表示し、試奏しながら録音レベルを合わせます。2tr同時録音&編集するので、トラックグループにしておくと便利です。トラックを選択し、プロジェクトメニューの“トラックグループ”から新規トラックグループで出る画面で設定しましょう。グループ名を付けられ、エディット/ミックス/VCAなど、何をグルーピングするのかを決められます。カスタムを選ぶと細かく設定でき、特にテイクに関する項目の設定はお勧めです。何テイクか録っていく場合でも、新規テイク作成や切り替えなどが迅速に行えます。編集していく際にも、テイクのグループ化は有用です。良い演奏テイクを選び、コンプ(ベスト・テイクを1本化)してきましょう。

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複数のトラックをまとめて操作するときなどに活躍するトラックグループ機能。ピアノ録音用の2trをトラックグループにし、タイプはカスタムを選択した。ここでは“テイクの追加と削除”など、録音テイクを重ねることを想定して設定。これでテイクの操作は両トラックで連動する

 波形編集では頻繁にズーム・イン/アウトしますが、従来の各ウインドウの右下にある+/-ボタンに加え、DP10ではoption+マウス・ホイール(WindowsはAlt+マウス・ホイール)で迅速に行えるようになりました。さらにMIDIウインドウだと、control+option+マウス・ホイール(WindowsはCtrl+Alt+マウス・ホイール)で縦幅をズームできます。

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DPでのオーディオ/MIDI編集に欠かせないツールウインドウ。それぞれにショートカットが用意されているが、もちろんコマンドウインドウで独自のショートカットも設定できる

 また、ツールウインドウにあるさまざまな編集モードを使って、サウンドバイト(オーディオ)を自在にエディットできます。多用するのは、ミュートサウンドバイトツールやシザーズツール、ロールツール、スリップツールなどです。ロールツールでは2つの密接したサウンドバイトの境界を左右に移行可能。スリップツールではサウンドバイトの配置は変えずに波形内でスタート位置を移動できます。ハードウェアのサンプラーで、サンプル・スタート位置を探っている感覚ですね。

 DP10で進化した画期的な機能、ストレッチ・オーディオもサウンドバイトの編集に生きてきます。オーディオを高精度に解析し、テンポ変更に追随してくれる便利な機能です。これまでも、サウンドバイトテンポを分析/設定し、シーケンステンポに合わせることはできましたが、これを使えばリタルダンド(だんだん遅く)やアッチェレランド(だんだん速く)などにも簡単に対応できます。ストレッチレイヤーでリズムの打点位置を変えることも可能で、オリジナル・パターンも作りやすいです。

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DP10で進化したストレッチ・オーディオ。テンポを変更したとしても、オーディオは自動的にストレッチされて追従する。ウェーブフォームウインドウのストレッチレイヤーでは、オーディオのトランジェントに合わせて配置されているマーカーを動かしてタイミングを調整することが可能。赤い水平の線が階段上に曲がっているポイントが、タイミングを変更した場所だ

 最後におまけコーナーです。僕の周りのDPユーザーにレコメンド機能を聞いています。今回は友人の音楽家、前田和彦さんです。“シーケンス画面のサウンドバイト左下のゲイン表示で、音量をフェーダー調整できる機能”とのことです。確かに、ボリュームレイヤーで書き込むより速く調整でき視覚的にも分かりやすく、僕もよく使いますね。

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安田寿之

コンセプチュアル作からシンガー・ソングライター的な作品まで、多様な制作を行う音楽家。テイ・トウワやアトム・ハートなど、国内外やジャンル問わず多くのアーティストと共作/共演する。5thアルバム『Nameless God’s Blue』では、J-WAVEチャートにて6週にわたりランクイン。ドラマ『これは経費で落ちません!』の音楽も担当した。ARTURIA公式ユーザー・グループ東京リーダーを務め、武蔵野音楽大学にてコンピューター音楽を教える。

 

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『ARBEIT』
TOWA TEI
(日本コロムビア)