最新のバージョン・アップを含むDigital Performerの機能拡張ポイントを紹介!|解説:藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)

最新のバージョン・アップを含むDigital Performerの機能拡張ポイントを紹介!|解説:藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)

 ほかと一味違う楽曲を作りたいなら、やり込みたいならDigital Performer(以下DP)と信じて疑わないミュージシャン、ジェッジジョンソン藤戸です。今回から4回にわたってDAW界の重鎮“DP”の現在地、作曲手法、ライブ/コンサート現場での使用例などをご紹介いたします。

ピッチ補正機能としてMelodyne 5 Essentialを標準装備

 DPは、“いにしえの時代(うぉ!)”より存在するDAWとして、海外、特に北米の音楽/映画制作現場では圧倒的な知名度があります。その始まりが“MIDIに特化したシーケンサー”だったこともあり、“快適なMIDI編集”と、創造性をフルサポートする“とことんやり込める操作性”が最大の持ち味。ただ、数年前から他社のDAWを意識したであろう新機能もバシバシ実装し、これからDPを使うユーザーにストレスなく使えるように、また歴代ユーザーもさらに快適に使用できるよう進化を遂げています。

 第1回はDPの“現在地”として、ここ数年で実装された機能を中心にお届けします。過去にDPを使っていた方には驚きの新機能がこの数年で実装されたんですよ! いろいろあります、というかありすぎて大変なので、業務的観点と個人的視点から5つのトピックを抜粋させていただきました。

 まずは、最新バージョンのDP11.2から、ピッチ補正プラグインのCELEMONY Melodyne 5 Essentialが搭載されました。周囲のプロ作家さんたちも大いにザワついた最新の事件です。まさかDPにMelodyneが機能として実装されるとは! それまでもDPには独自のピッチ補正アルゴリズム“PureDSP”や、“ZYNAPTIQ ZTX”が組み込まれていましたが、こちらももちろん健在。ユーザーは3種類の選択肢から選べることになりました。それぞれ検出結果や仕上がりに個性があるのですが、編集の快適さはMelodyneがズバ抜けているので、そういった観点も踏まえての実装でしょう。これまでは別途プラグインを用意し、かつ別ウインドウで表示されていたMelodyneが、シーケンスウインドウに組み込まれたことで、操作性も格段に向上しました。

CELEMONY Melodyne 5 Essentialを起動した状態。DP11.2からピッチ補正機能の一つとして組み込まれており、MOTUのマイ・アカウント・ページ経由でインストールすることで利用できる。シーケンスウインドウ上でオーディオ・トラックを選択しメニューからMelodyneを選ぶと、Melodyneの画面も同時に表示され、シーケンスウインドウやトラックウインドウを確認しながら編集可能だ

CELEMONY Melodyne 5 Essentialを起動した状態。DP11.2からピッチ補正機能の一つとして組み込まれており、MOTUのマイ・アカウント・ページ経由でインストールすることで利用できる。シーケンスウインドウ上でオーディオ・トラックを選択しメニューからMelodyneを選ぶと、Melodyneの画面も同時に表示され、シーケンスウインドウやトラックウインドウを確認しながら編集可能だ

 2つ目は、トラックの書き出しを快適にする、マルチバウンス機能が追加された点です。過去に制作業務でDPを使っていた、という方には一番驚きなのではないでしょうか! こちらは前バージョンのDP10.1から実装されました。ほかのDAWでは続々と導入されていたマルチバウンスですが、DPにもついに導入。制作には欠かせない機能です。

バウンストゥディスク画面で、ソースを“トラック”(赤枠)にすると各トラックを個別に書き出し可能。ここではTracksの紫色の選択部分が、書き出すトラックとなる

バウンストゥディスク画面で、ソースを“トラック”(赤枠)にすると各トラックを個別に書き出し可能。ここではTracksの紫色の選択部分が、書き出すトラックとなる

 以前は、ミックス・ダウンやアレンジ用のステム(パート単位などでまとめたトラック・データ)を渡す際、トラックをフリーズする、もしくはすべてのトラックをバスに割り振って新規録音するという作業が必要でした。それはそれは気の遠くなるような高負荷かつ重労働だったのですが、それも今は昔の話。オンライン/オフライン・バウンスはもちろん、バスも書き出し可能です。ライブではノート・パソコンの負荷を考慮して、ステムにすべて変換して使用していますが、作業に費やす時間が圧倒的に短縮されました。

オーディオ・データのMIDI化は複数のアルゴリズムから選択可能

 続いて、3つ目はオーディオをMIDIデータにする“Copy Audio to MIDI”機能。冒頭でもお伝えしたように、“DPと言えばMIDI”という強みであり、オーディオをMIDI化する面でも調整がとても楽なので最高です。最新のDP11.2から改良され、Melodyneのアルゴリズムで抽出したノート情報も、そのままMIDIトラックに変換可能になりました。ソロ・ボーカルのメロディも、ピアノの和音も、ドラムのループもMIDIに変換できます。現行の抽出アルゴリズムでは苦手としていたタイプの波形データも見事に検出してくれています。PureDSPやZTXのアルゴリズムを用いての抽出も選べるので、結果で判断しながら、より“理想とする仕上がり”を得ることができるようになりました。

Audio To MIDI画面。MelodyneやPureDSPから抽出するエンジンを選択でき、さらに“メロディック”や“パーカッシブ”といったアルゴリズムの種類も選べる。書き出し先も新規MIDIトラック、クリップボードなどを用意している

Audio To MIDI画面。MelodyneやPureDSPから抽出するエンジンを選択でき、さらに“メロディック”や“パーカッシブ”といったアルゴリズムの種類も選べる。書き出し先も新規MIDIトラック、クリップボードなどを用意している

 4つ目は、MIDIデータのクリップ化が可能になった点です。前バージョンのDP10.1から、“MIDIデータのクリップ”が実装されました。DPには“チャンク”という独自の仕様がありますが(チャンクについては第3〜4回で詳述します)、MIDIクリップが実装されたことで、コピー&ペーストやクオンタイズ、トランスポーズなど、クリップ単位での管理が可能に。より快適にアイディアを試行錯誤できるようになりました。DP独自の機能はもちろんですが、幅広いDAWユーザーが柔軟に扱えるようアップデートされているところは、既存のDPユーザーにとっても“使い続ける理由”として、信頼できる部分です。

上から、トラック、シーケンス、MIDIの各ウインドウを表示。ここでは、赤矢印で示したPadトラックの9〜16小節目までをクリップ化するために範囲選択している

上から、トラック、シーケンス、MIDIの各ウインドウを表示。ここでは、赤矢印で示したPadトラックの9〜16小節目までをクリップ化するために範囲選択している

9〜16小節目までを1つのMIDIクリップにした状態。最下段のMIDIウインドウがクリップ表記(赤枠)となり、クリップ単位でのコピー&ペーストや、クオンタイズ、トランスポーズなどを調節できる

9〜16小節目までを1つのMIDIクリップにした状態。最下段のMIDIウインドウがクリップ表記(赤枠)となり、クリップ単位でのコピー&ペーストや、クオンタイズ、トランスポーズなどを調節できる

MIDIトラックとインストルメントトラックが1つのトラックに統合

 最後のトピックは、インストルメントトラックとMIDIトラックが1つに統合可能になったことです。私にとって感動過ぎるこのアップデート! DPは今までソフト・シンセなどの音源トラック“インストルメント”は“アウトプット”としての役割も担っているためなのか、トラックに直接MIDIデータを乗せることが不可能でした。そのためMIDIデータ用トラック作成が必要になり、トラックウインドウ/シーケンスウインドウは最低でも2トラック分を表示しなければなりません。ですが、現行バージョンからこの仕様が見直され、ついに1トラックに統合! うぉぉ、見やすい!! 画面表示がスッキリ!!今までソフト・シンセを追加するたび画面の下に伸びていったトラックビューが約半分に!! MIDIトラックは従来通り1つのインストルメントトラックに複数割り当てが可能ですので、これも制作環境に併せて選べます。

黄枠は、MIDIトラック“Drums Combi”とインストルメントトラック“Battery 4-1”を分けた状態。これまでソフト・シンセ・プラグインなどの音源を使用する際は、MIDIトラックとインストルメントトラックをそれぞれ立ち上げる必要があったが、白枠のように1トラックでMIDIと音源を両方立ち上げられるようになった。なお、従来通りMIDIトラックとインストルメントトラックを分けることも可能

黄枠は、MIDIトラック“Drums Combi”とインストルメントトラック“Battery 4-1”を分けた状態。これまでソフト・シンセ・プラグインなどの音源を使用する際は、MIDIトラックとインストルメントトラックをそれぞれ立ち上げる必要があったが、白枠のように1トラックでMIDIと音源を両方立ち上げられるようになった。なお、従来通りMIDIトラックとインストルメントトラックを分けることも可能

 DPの専売特許と言える“最高に快適なMIDI編集”はそのままに、今や音楽制作のスタンダードとも言える機能を実装したことによって、新規ユーザーにも“選ばれる”、既存ユーザーにも“続けていける”DAWがDPです。私自身、DPを前身の代から含めて31年間ずっと使用していますが、場合によってはほかのDAWとの併用を余儀なくされるケースも……。ですが、ここ数年のバージョン・アップで“DPだけで完結(納品)できる”ようになりました!

 次回は十人十色である“作曲工程”を、その後はライブ現場におけるDPの活用例をご紹介いたします。ライブ現場ではDP一択! 声を大にしてお届けいたします。

 

藤戸じゅにあ

【Profile】1990年代からライブ・シーンにDTMを持ち込んだ草分けの一人として、バンド・サウンドに電子音楽を融合させた音楽スタイルの先駆者として活動。2008年にキングレコードからメジャー・デビュー。2018年リリース作品はiTunesオルタナ・チャートで1位を獲得。自身の活動と並行して坂本美雨、緒方恵美、寺島拓篤、羽多野渉など多くの楽曲提供を担当。近年はプラネタリウムの音楽/音響監督やプロデュース、ライブ・コンサルタントと活動の幅を広げている。

【Recent work】

『ストライク・リビルド【ダウナー】』
ジェッジジョンソン
(ベルウッド)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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