
第3回 ライブの楽曲演奏中に準備しておく
Studio Oneでのトラブル回避法
ロング・ツアー中につき今日もどこかの旅の空。こんにちは、宇佐美です。ライブ・サポート、マニピュレーターの視点から書くStudio One(以下S1)の活用の仕方、第3回です。今回はややマニアックな内容ですが、バンド・サウンドの一角を担う者として知っておけば武器になるかもしれません!
テンポがズレたときに対処するために
さまざまな準備をしておく
ライブが始まりS1をスタートさせ、同期と調和してバンドもいい感じ! マニピュレーターの仕事は再生ボタンを押したあとは次の曲までしばしお休み……ではありません。前回解説したX timeへの対応のほか、さまざまな“もし”への準備を、楽曲の進行とともに行っていきます。楽器演奏などを兼任している場合は難しいですが、マニピュレーション専任であるならばこの準備をしっかりやっておくことによってイレギュラーやトラブルへの対応も速くなり、他メンバーからの信頼も得られることでしょう。特に小節数や拍数など、縦軸の関係が崩れた場合を想定して、僕が実際に本番中に行っている方法を紹介します。
僕がかかわっている現場では、クリックを聴くのはバンド(主にドラマー)のみというケースがほとんど。例えば完全にブレイクした中から歌のピックアップで戻ってくるような場合にはボーカリストの体感テンポと実際のテンポがずれる可能性があります。ましてやそのときだけ4/4から5/4に拍子が変わるようなアレンジだと、演奏も含め“うっかり”が起こりやすいポイントとなります。僕はこの“もし”に対して2種類の方法でスタンバイしています。
一つ目は起こり得るズレの拍数を調整できるようにする方法。例えば4/4から3/4を挟んでまた4/4に戻るアレンジで、四分音符一つ分が“うっかりの罠”だった場合、起こりうるケースとしては“4/4のまま進んでしまう”でしょう。この場合はデータを一拍分後ろにずらせば解決できるので、まずは範囲ツールで四分音符一つ分の範囲を指定し“範囲を作成”コマンドで全トラックに適用します。

演奏が一拍はみ出そうと思ったらすかさず“無音を挿入”コマンドを入力! データが指定範囲分(四分音符分)後ろにずれ、無事に余剰分を補うことができます。

もし逆に一拍前に突っ込んでしまうようであれば“時間を削除”コマンドで対処します。この方法の利点は再生を止めることなくデータを動かせることで、演奏のテンポ感を損なわずに付いていけます。⌘+A(Windowsの場合はCtrl+A)などでデータを全選択して手動で動かすことも可能ですが、テンポ・データは含まれないのでテンポ・チェンジがある曲では注意が必要です。
二つ目は一度再生を止めて瞬時に任意の再生ポイントから手動で復活させる方法。再生中に範囲ツール・モードにしてメイン・ウィンドウあるいはエディター・ウィンドウ内で任意の場所を指定することにより再生ポイントを打つことができます。トランスポート>オプション>停止時にスタートに戻る、がオンになっていれば再生を止めた瞬間にそのポイントにロケートが移動するので良いタイミングで演奏に合流しましょう。再生ポイントを設定するときの注意点としては、スマート・ツール機能上での範囲ツール・モードとツールバーを切り替えての範囲ツールでは挙動が違うところ。スマート・ツールはカーソルをポイントする位置によって自動で範囲ツールに切り替わり、トラック上のどこをクリックしても(データがない場所でも)よいという点に対し、通常の範囲ツールでは何かしらのデータがなければポイントを設定することができません。

全トラックを見渡すようにズームアウトしている状態でスマート・ツールが機能しない場合は、通常の範囲ツールを使ってデータがあるトラックに対してポイント指定します。そのためだけのダミー・データを用意するのも手ですね。こちらの方法の利点は、ズレ方がインテンポからかなり離れてしまった場合に手動で合わせていけるところ。シーケンス以外の誰かのきっかけで次へ進行する場合ではこちらの方が良いでしょう。
上記二つの方法を組み合わせてスタンバイすることによって対応できる幅が広がります。誤指定を防ぐためにも状況によってメイン・ウィンドウ上部の“スナップ”は“クオンタイズ”にし、並びの“クオンタイズ”は適宜最適なものを選びましょう。

これらを演奏中に逐一行っていくためには楽曲への深い理解が必要です。仕込みの段階からシンガーや他パートの演者の気持ちになってみると良いですね。
プリカウント分を範囲設定して
曲間の秒数を把握する
ライブで1曲しか演奏しない場合を除けば、複数個開かれたソング・データを切り替えていくか、各曲のステム・データを並べたマスター・セッション・データ上で進行していくのが通例です。


しかしマスター・セッション運用時には先ほどの再生ポイントを応用することでよりスムーズに次の曲へ移っていくことができます。特に曲終わりでお客さんの反応に付いていく場合、プリカウントの時間によってはかなり早くスタートしなければいけないケースも出てきます。再生ストップした時点で次曲頭に自動的に飛ばせるようにしておけばロケートする手間が省けるので落ち着いて空間の流れをくみ取ることができます。
ちなみに再生中でも次曲のプリカウント分を範囲設定して“ミックスダウンをエクスポート”あるいは“ステムをエクスポート”ウィンドウを開けば曲が始まるまでにどれだけの時間が掛かるのかが分かります。

曲が終わったとき、お客さんの反応(拍手、歓声などなど……無反応含む)の4〜5秒先を感じられるようになれば、より流れの良いステージが作れますよ。
今回の内容は必要とされる手間や集中力のわりには(何事もなければ)誰に気づいてもらえない、いわゆる保険的なTIPSでしたが、楽曲への理解を深める楽しみの一環としてもテクニックを活用できるようにS1上のデータとその先の“音楽の場”を見つめていきましょう!
次回はいよいよマニピュレーターから見たS1の活用法の最終回です。最後までよろしくお願いします!
*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/