加納洋一郎が使う Studio One 第1回

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第1回
エンジニア目線で見た
Studio Oneのメリット

こんにちは! 今回から本連載を担当することになりました、エンジニアの加納です。短い間ではありますがエンジニア目線で見たStudio One(以下、S1)の魅力ということで書いていこうと思います。

Studio Oneの音の良さは
レンジの広さとワイド感

さて近年、スタジオでレコーディングもしくはミックスをする際、用意されているのはマルチテープ・レコーダーではなくDAW。スタジオごとにバージョンこそ違えどAVID Pro Toolsがあるのは当たり前です。しかし実際操作するのはエンジニアで、アシスタントレスのスタジオも多くなり、ますます楽曲に対する貢献度が高くなっているように思います。そんなスタジオ常設機材となっているPro ToolsとS1は何が違うかを聞いてくる知り合いエンジニアも多く、その関心の高さに驚きます。そこで今回はエンジアが気になる違いを、ものすごく初心者的な導入の部分から触れていきたいと思います。

まず、S1のメリットとして最初に挙げられるのが音の良さ。2つ目は直感的な作業が可能な点。3つ目はマスタリングができるということです。1つ目の音の良さは、例えば同じオーディオ素材をDAWごとに取り込んで聴いてみると一目りょう然。レンジの広さ、ワイド感が際立っています。DAWによって音の傾向があり、そこはエンジニア・サイドの人間が知るところというよりも、コンポーザー、アレンジャーの方が関心があるかもしれません。

通常、クライアントの意向によりPro Toolsでミックス作業した場合、すべてのリクエストにOKが出たらそのままPro Toolsでファイナル・ミックスをエクスポートしてクライアントにお渡しします。しかし僕がかかわるアーティストでは、Pro Toolsで作ったファイナル・ミックスをS1に取り込み再度エクスポートし、元のファイナル・ミックスをブラインドで聴いてもらうことがあります。

▲筆者の自宅スタジオのデスク回り。DAWは、AVID Pro ToolsとPRESONUS Studio Oneを併用して作業を行っている。両DAWからファイナル・ミックスを書き出し、ブラインドで聴いてもらい、音を判断してもらうこともある ▲筆者の自宅スタジオのデスク回り。DAWは、AVID Pro ToolsとPRESONUS Studio Oneを併用して作業を行っている。両DAWからファイナル・ミックスを書き出し、ブラインドで聴いてもらい、音を判断してもらうこともある

意味あるの?と思われるかもしれませんが、選ばれるのはS1でエクスポートしたファイルになることが多いのです。もちろん好みはあるとは思いますが、それくらい音質が良いということでしょう。

しかし、音の良し悪しを知ってもPro Toolsを使っている人たちが気になるのは、“触ってみたいけど、実際のところ使うまでどうしたらいいのか? アクティベーションとか面倒ではない?”ということ。その考えで止まってしまう人が多いと思います。現状、S1はProfessional、Artist、Primeと3バージョンあり、お試しに触ってみたいのであれば無償のPrimeから始めることができます。PRESONUSのWebサイト(www.mi7.co.jp/studioone)に行き、My PreSonusでアカウントを作成&ログインすればダウンロード可能になります。Macならアプリをアプリケーション・フォルダーにコピーするだけなので非常に簡単です(Windowsはダウンロードしたインストーラーからインストール)。立ち上げてみると分かると思いますが、スタート画面でオーディオ・デバイスやサンプリング・レートなど作業に必要な大体のことが最初に設定できるので、初めて触る人もスムーズに音を出せるのではないでしょうか。

▲Stusio Oneのスタート・アップ画面。ソフトを立ち上げると、プラグインなどのスキャン後にこの画面が表示される。左段に最近使ったファイルなどのソング・ファイルが、中央が、アーティスト・プロフィール、SoundClund、オーディオI/Oなどの設定が(黄色枠)、右段に最新のニュース・フィードが並んでいる。設定では、オーディオI/Oの選択や処理精度やレイテンシーなどの設定、外部デバイスの接続などを決めることができる ▲Stusio Oneのスタート・アップ画面。ソフトを立ち上げると、プラグインなどのスキャン後にこの画面が表示される。左段に最近使ったファイルなどのソング・ファイルが、中央が、アーティスト・プロフィール、SoundClund、オーディオI/Oなどの設定が(黄色枠)、右段に最新のニュース・フィードが並んでいる。設定では、オーディオI/Oの選択や処理精度やレイテンシーなどの設定、外部デバイスの接続などを決めることができる

優れた右クリックのメニューで
スムーズな操作を実現

Pro Toolsを使っている方が悩むのが、DAWが変わったことによるキーボード・ショートカットでしょう。Pro Toolsは、ほかのDAWと違いキーボード・ショートカットを自由にカスタマイズすることができないため、誰が使おうがどこの場所でも、同じコマンドを打てば動作も同じように動きます。S1の場合はほかのDAWからスムーズに乗り換えができるように、あらかじめS1以外のDAWのキーボード・ショートカットが、すべてではありませんが最初からプリセットで用意されています。

▲Studio Oneのショートカット設定画面。右下の“キーボードマッピングスキーム”で、一部のDAWのショートカットを選択できるほか、カスタマイズした設定のインポート/エクスポートが可能 ▲Studio Oneのショートカット設定画面。右下の“キーボードマッピングスキーム”で、一部のDAWのショートカットを選択できるほか、カスタマイズした設定のインポート/エクスポートが可能

S1に乗り換えても、今まで使っていたDAWと同じ手慣れたコマンドで作業がすぐできますし、S1独自のキーボード・ショートカットもよくできているので、これに慣れてしまうのも作業効率アップの近道かもしれません。さらに自分でカスタマイズも可能なので、よく使う動作はあらかじめアサインしておくと良いでしょう。出先で自分のキーボード・ショートカットを呼び出したり人に渡すこともできるので、Pro ToolsやSTEINBERG Cubaseのショートカットを網羅した完全版といったプリセットも出回ると面白いですね。さらに、多くのDAWユーザーが使っているであろうKENSINGTONのトラックボール・マウスで、既に右クリックに何かしらのコマンドをアサインしている場合は少し変更した方がS1をよりスピーディに使いこなせるかもしれません。というのは、S1の場合、右クリックで頻繁に使う動作がメニュー表示されるので、片手一つで作業を簡略化できるのです。また、アレンジ・ビューとコンソール・ビューを開いているときでは行っている作業も違うため、右クリックのメニュー内容も作業に合わせて変わります。

▲右クリック(Macの場合Ctrl+クリック)で表示されるメニュー。左がアレンジ・ビューで右がコンソール・ビュー。それぞれの作業内容に合わせてメニューが最適化されており、スムーズに作業を行うことができる ▲右クリック(Macの場合Ctrl+クリック)で表示されるメニュー。左がアレンジ・ビューで右がコンソール・ビュー。それぞれの作業内容に合わせてメニューが最適化されており、スムーズに作業を行うことができる

カーソル位置や動作に対して的確なコマンドを選ぶことができるので、“あの動作どうやるんだっけ?”と、画面上部からメニューを開いたり閉じたり探す必要もなく、たいていは右クリックでサクサク動かせます。もちろんショートカットで慣れている人はそちらでもOKです。またS1では、ミックス・ビューで作業しているとき、バスが固定で存在しません。しかしエフェクト用にバスを追加したいときや、録音時のI/O設定がどうなっていたのか?という確認が右クリックに集約されているので、乗り換えた人にとっては右往左往せずにすむのです。

次回は、直感的に、そして軽快に作業ができるというS1の特徴を、筆者のミックスでの活用法を見ながら解説していきたいと思います。また非常に使い勝手が良いPRESONUSプラグインも併せて紹介します。お楽しみに!

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/