BGMも含めた“手の届くぜいたく”な体験
江戸時代から、酒蔵は職人たちが寄り合い、冬の期間に寝泊まりをしながら酒造りをし、休息を取り、食事をする“寄り付き場”であった……そんなテーマを持つレストラン小布施 寄り付き料理 蔵部は、今年4月にオープン。天井が高く、光と影のコントラストが美しい空間には、ピアノ曲をはじめとするクラシックがかかり、ゆったりとした時間が流れている。
この蔵部を運営をしているのは、地元長野の軽井沢や東京を中心に38店舗のレストランを手掛ける企業、フォンス。店舗のプロデュースをした代表の小山正氏は、今回のスピーカー選定にもかかわっている。
「僕らの店のコンセプトとして“手の届くぜいたく”があります。全く手が届かないぜいたくではなく、いつもより少し良い環境、少し良い音、少し良い食事。それを体験していただける場所を作っていきたいと考えています。JBLのスピーカーは太い感じの音が好きですね。音の印象が柔らかく、店内のいろいろな雑音がある中で音楽を流すにはすごく良い。個人的に好きだったので、多くの店舗でも採用してきました」
蔵部は店舗規模が大きいため、JBL PROFESSIONALの取扱元であるヒビノプロオーディオセールス Div.にシステム構築を依頼。さまざまな候補が挙がる中で、蔵部の雰囲気に合うスピーカーとしてM2が提案され、採用されるに至った。
「M2は“手の届くぜいたく”というコンセプトからすると想定以上ですが(笑)、これだけの空間の中で鳴らすスピーカーとしては、ボリュームを上げなくても聴いていて気持ち良い。その点ではすごく良かったなと思っています。あまり音量を上げなくても、しっかりと印象に残る、聴いていて心地良い音で鳴っていてほしい。その点でいい選択だったと思います。弊社ではBGMの選曲は僕を含めた3人が担当していますが、ある程度の環境で聴くことで、その音楽の魅力がぐっと上がり、それが店作りにも貢献して、心地良くなっていく。そういう点で僕らの店作りには音楽は重要です。音楽がお客様のリピートにどのくらいつながっているのかはもちろん計れませんが、店全体の価値を上げてくれている。料理、ドリンク、サービスと同じように、音楽も重要で、M2の導入も必要なコストだろうと考えました」
エリアごとに施した精緻なチューニング
ヒビノプロオーディオセールス Div.の西郡篤司氏によれば、蔵部にM2を提案した理由は“店の雰囲気に合う”というデザイン面にとどまらなかったそうだ。
「最初は、PAスピーカーとして一般的なPRXシリーズがいいと思っていました。しかし、今回、プロセッサーとパワー・アンプを96kHzでシステム構築することになり、それを生かすスピーカーを社内で検討した際、そこまでやるならスタジオ・モニターでもいいんじゃないかと。それで小山さんに試聴していただいた結果、解像度の高さに加え、お客様の反応も良さそうだという理由で、採用していただくことになりました」
しかし、M2がいくら優れたスピーカーとは言え、本来はスタジオ・モニター。PAスピーカーよりもカバー・エリアは狭い。
「高域は指向性が強いので、カバー・エリアが狭くなります。ですので弊社のテクニカル・スタッフが高域側をロールオフして、その帯域よりも下の帯域が目立つような音作りをしています。スタジオというよりは映画館のような音の作り方です。耳に痛い部分をうまく削りながら、それでも音の芯があるような作り方をしています。ライブ・ハウスや映画館など、さまざまな現場で培ったノウハウで、クロスオーバーもAMCRON IT4×3500HDでFIRフィルターを使って組んでいます。位相がそろっていることもあり、音量にかかわらず安定したサウンドが得られるようになりました」
こうしてメインとなるM2のサウンドが決まったが、ほかの客室や厨房に隣接したカウンター・エリアにも、これに匹敵するサウンドを届けないといけない。
「ほかのエリアで採用していただいたのは、天吊り型のJBL PROFESSIONAL Control 65P/T。最近は吹き抜けの店舗や天井の高い店舗での導入が増えてきいるモデルです。ラインアレイ・スピーカーのVertecと同様の技術を使い、RBIウェーブガイドによって、300Hzより上の指向性をコントロールしています。その結果、一般的な同軸スピーカーでは高域のカバー・エリアが狭くなるのに対し、Control 65P/Tではどの周波数も120°くらいの角度で広がっていきます。こういう特徴を分かって使うと非常に効果的なスピーカーです」
このControl 65P/Tのほか、サブウーファーのJBL PROFESSIONAL PRX418Sも設置。これらスピーカー全体に対し、設置したエリアに合わせた店舗BGM向けのチューニングが施されているという。
「M2では広い客席を生かしてホールっぽい音場を目指したのに対し、カウンターは料理をしている音がリアルに聴こえるようなところなので、調理スタッフの邪魔にならないよう低域はあまり上げていません。また、別の客室では低域の量感を出そうということでサブウーファーを入れました。こちらでは、天吊りのControl 65P/T×2本に対してサブウーファーを少し遅らせるタイム・アラインメントをかけ、タイミングや位相がそろうようにしています。そのほか、通常店舗の設備音響のワイヤリングには電話線を使用したりしますが、このシステム全体を生かすべく、BELDEN製の2sqスピーカー・ケーブルを使用しました。そうした細部は我々にお任せいただいたので、できる範囲でベストなシステム構築ができたと思います」
単に高級なスピーカーを置いたというだけでなく、その場に最適な音場を生み出す……そんな工夫は、地元の食材を生かしながら“手の届くぜいたく”を提供する蔵部のコンセプトとも合致していると言えるだろう。ゆったりとした時間を過ごすための空間作りに、料理やサービス、調度品に加え、音楽が大きな役目を果たしていることに、あらためて気付かされた取材であった。
■関連リンク
小布施 蔵部
http://www.obusekurabu.com/
■導入製品情報
JBL PROFESSIONAL M2
JBL PROFESSIONAL Control 65P/T
JBL PROFESSIONAL PRX418S
CROWN IT4x3500HD
CROWN DCi Series Analog
BSS AUDIO BLU-160
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