「JOMOX Alpha Base」製品レビュー:サンプラーやFMシンセを融合したアナログ・ドラム・シンセサイザー

JOMOXAlpha Base
JOMOX Alpha BaseはサンプラーやFMシンセが融合した、アナログ・ドラム・シンセサイザー。この次世代のリズム・マシンは一体どんな音を奏でるのでしょうか。

16ステップ・シーケンサーを搭載
同社のパーカッション音源をまるごと採用

まず、Alpha Baseの外観はJOMOXのXbase 09やXbase 888、Xbase 999など、往年のリズム・マシンをほうふつさせ、その筐体はずっしりと重みがあります。メイン・パネルに配置されたシンプルなノブやボタンは、まさにドイツ製らしいデザインです。

メイン・パネル下部には、16ステップ・シーケンサーを搭載。4バンクあるので、各トラック最大64ステップまでプログラミングが可能です。さらにその下には、左から同社のキック専用音源MBass/ModBaseシリーズのサウンドを内蔵したKICK DRUM、同じく同社のパーカッション音源M.Brane 11をまるごと採用したMBRANE、SDカードからサンプルを読み込むことができるサンプル・ベースの6基のインストゥルメント(CLSD HI HAT/OPEN HI HAT/CLAP/RIM SHOT/CRASH/RIDE)、外部入力端子(フォーンL/R)に入力したサウンドを最大5秒間、16ビット/48kHzでサンプリングできる2基のX SAMPLE、そしてメタリックなFMサウンドを生み出すことができる4オペレーター/最大6ボイスのミニFMシンセ、FM SYMTHを1基搭載しています。

メイン・パネルの左上側には16個のエンコーダーが用意されており、A/Bの2ページを切り替えるだけでサウンドに関するすべての調整が可能です。

リア・パネルには左からステレオ出力、各インストゥルメントに対応した8系統の出力(いずれもTRSフォーン)、SDカード・スロット、MIDI IN/OUT/THRU、コンピューターと接続してMIDIデバイスとして使用するためのUSB端子などを備えています。

▲リア・パネル。左からステレオ出力、ステレオ入力、各インストゥルメントの出力×8(いずれもTRSフォーン)、サンプルのロード時に使用するSDカード・スロット、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子(MIDI)が並ぶ ▲リア・パネル。左からステレオ出力、ステレオ入力、各インストゥルメントの出力×8(いずれもTRSフォーン)、サンプルのロード時に使用するSDカード・スロット、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子(MIDI)が並ぶ

太いサウンドのオシレーター
EuroRackケースにセット可能

実際に試してみたところ、アナログ回路のKICK DRUMは“グンッ”と来る音圧で荒々しく、パンチの効いたJOMOXらしい音色。筆者が所有するJOMOX Air Base 99のキック音源と比較しても、全体的にSN比が良くなった印象です。パラメーターもシンプルで、鳴らしたい音色をすぐに作ることができます。その隣に配されたMBRANEはというと、もちろんスネアやタムのような音から、搭載されているLFOを駆使したノイジーな音やメタリックなパーカッションまで、幅広い音作りが可能です。ディスプレイに表示される数値を気にせず、ノブを使って感覚的にグリグリと、ランダムに操作していくのもいいでしょう。

続く6つのサンプル・ベースのインストゥルメントは、フィルターやADSRエンベロープを用いた音色加工を施すことで想像以上にさまざまな音作りができます。200種類以上ある内蔵音源から一つを選んで、どんどん自分好みにエディットするのもいいですし、先述したように手持ちのSDカードからサンプルをロードすることも可能です。

最後のFM SYNTHでは、ノブを操作していくと思いもよらないエフェクティブなサウンドが作れ、とても興味深く感じました。ある種の“ローファイ寄り”な音色も相まって、エディット次第ではIDM調の複雑なテクスチャー音などを生成することも可能です。

さらにAlpha Baseは、すべてのインストゥルメントでセンド&リターンが可能なディレイとリバーブを搭載。予想外に好印象だったのがこの2種類の空間系エフェクトです。特にリバーブはひんやりとした空間が広がる印象で、きめ細かく自然に散っていくイメージ。あくまで空間を再現するというのではなく演出としてのリバーブですが、リズム・セクション全体のトリートメントや飛び道具としても使えるような“良い色”をしていて、とても好みでした。

また、ディスプレイの下にあるSEQボタンを押すと、シーケンス・モードが有効になります。このモードでは、各インストゥルメントのピッチをシーケンサーによって変更し、メロディのように演奏することが可能です。ディスプレイには各インストゥルメントのピッチがバーの高さで表示され、メロディを視覚的に把握しながら演奏することができます。また、左手でノブをコントロールしながら、右手でステップの打ち込みやページ切り替えなどができるので、ライブ・パフォーマンスのときでも十分に性能を発揮できるでしょう。

ほかにも、Alpha Baseはパターンのステップごとにピッチやそのほかのパラメーターを記録することができる“パラメーター・ロック”機能を搭載。シーケンサーを走らせながら各パラメーターを調整できるので、サウンドを聴きながらステップごとに細かい数値を記録することができます。

そのほかMIDIケーブルによる外部機器とのクロック同期が可能です。

Alpha Baseは本格的な音作りができる、職人気質なリズム・マシンと言えるでしょう。サンプルであってもアナログ回路を経由して作られる太い音色は、リズム・セクションのサウンドに強いこだわりを持つビート・メイカーにはもちろん、ライブ・パフォーマンスに導入するリズム・マシンを探している方にも、ぜひ一度体験してほしい逸品です。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号より)

JOMOX
Alpha Base
オープン・プライス(市場予想価格:239,815円前後)
▪インストゥルメント:11基 ▪エフェクト:ディレイ/リバーブ ▪LFO:各インストゥルメントに64波形から選べるLFOを1系統搭載(MBRANEは2系統) ▪ステップ・シーケンサー:最大64ステップ(16ステップ×4小節) ▪内蔵フラッシュ・メモリー:最大250サンプル保存可能(16ビット/48kHz) ▪外形寸法:410(W)×80(H)×240(D)mm  ▪重量:3.3kg