【音響設備ファイル Vol.19】Zepp大阪ベイサイド

さまざまなスペースの音響設備を紹介する本連載。今回は、Zeppの新店舗として2月にオープンしたZepp大阪ベイサイドをピックアップ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンと隣接するエリアに位置し、関西ではZeppなんば大阪に続いて2店舗目のオープンだ。全国に展開されるZeppの中でも最大規模を誇る同店の中身を見ていこう。

全国のZeppで最大のキャパシティ

Zepp大阪ベイサイドがオープンしたのは2017年2月17日。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにほど近いJR桜島駅から、徒歩数分という好立地(大阪市此花区桜島)に誕生した。スタンディング時には2,801人を収容するという、全国に展開されているZepp各店の中でも最大のキャパシティを誇る。

“大阪のZepp”と言えば、1998年から2012年まで営業していたZepp大阪を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。コスモスクエアと呼ばれる港湾地区にて長きにわたり大阪のライブ・シーンをけん引してきた同店が2012年4月にクローズした後、間もなく難波の地にZeppなんば大阪がオープンしその後を継いだ形となったわけだが、このZepp大阪ベイサイドのオープンによって、再び大阪に“水辺のZepp”が戻ってきたという見方もできるだろう。

▲Zepp大阪ベイサイド。建物の向こうには安治川が広がる ▲Zepp大阪ベイサイド。建物の向こうには安治川が広がる

JBL PROFESSIONALによる“Zeppの音”

Zepp大阪ベイサイドは、サウンド面でもZeppカラーが色濃く踏襲されている。ステージの両脇につるされたJBL PROFESSIONALのラインアレイ・スピーカーがそれを物語っている。

▲ステージの両サイドにつられたラインアレイ。JBL PROFESSIONAL VTX-V25が8基と、ダウン・フィル用にVTX-V20が2基 ▲ステージの両サイドにつられたラインアレイ。JBL PROFESSIONAL VTX-V25が8基と、ダウン・フィル用にVTX-V20が2基

「Zeppは20年くらいの歴史がありますが、スピーカーはずっとJBL PROFESSIONALです。元気のあるサウンド・キャラクターが、そのまま店のカラーになっているような感じですね」

そう語るのはサウンド・システムをプランニングしたトゥ・ミックスの児玉肇氏だ。

今回、Zepp大阪ベイサイドに導入されたのはラインアレイ・スピーカーの最上位モデルとなるVTX-V25とVTX-V20、そしてサブウーファーのVTX-S28。

▲サブウーファーはJBL PROFESSIONAL VTX-S28を6基ずつ設置 ▲サブウーファーはJBL PROFESSIONAL VTX-S28を6基ずつ設置

VTXシリーズの特徴は、コンパクトで軽量ながら音圧に優れていることが挙げられるだろう。VTX-V25は15インチの低域ドライバー×2基を搭載しながらキャビネットの高さは414mm、VTX-V20は10インチの低域ドライバー×2基でキャビネットの高さが281mmに抑えられている。VTX-V25/VTX-V20共にD2デュアル・コンプレッション・ドライバーを3基搭載することで、滑らかな高域特性を実現しているのも特徴だ。

「VTX-V25はZeppダイバーシティ東京でも使っていて、我々にとってはなじみのあるサウンドです。その実績もあったので今回採用することにしました。Zepp大阪ベイサイドはZeppダイバーシティ東京よりもキャパが大きいため、ダウン・フィル用にVTX-V20を2個追加しています。ステージ近くの前方部分はVTX-V20でカバーし、VTX-V25は遠方のエリアに集中するという考え方です」

パワー・アンプはAMCRON IT12000HDとIT4x3500HDを導入。いずれも電力増幅部にAMCRON独自の“Class-I”動作を採用し、安定した信号処理とクロスオーバーひずみの最小化を実現。また、BSS AUDIO製のDSPも内蔵し、パワーと音質を兼ね備えたモデルとなっている。JBL PROFESSIONAL VTXシリーズとのコンビネーションも抜群だ。Zepp大阪ベイサイドの音響管理を担当する大川展生氏も「素晴らしいセット」とし、次のように語ってくれた。

「私の主な仕事は、乗り込みで入られるエンジニアさんやオペレーターさんのサポートですが、このスピーカーとアンプはオペレーターさんたちの意図を反映しやすいシステムだと思います。キャパが大きい分、より多くの方に楽しんでいただけるような奥行きのある音作りをしていきたいですね」

▲JBL PROFESSIONALのスピーカーを駆動するパワー・アンプ群。AMCRON IT12000HDとIT4x3500HDが並ぶ ▲JBL PROFESSIONALのスピーカーを駆動するパワー・アンプ群。AMCRON IT12000HDとIT4x3500HDが並ぶ
11_jinbutsu_300x200▲トゥ・ミックスの児玉肇氏(左)とZepp大阪ベイサイドの音響担当、大川展生氏(右)

コンソールにもZeppカラーを反映

メイン・コンソールには、Zepp福岡から移設されたDIGICO SD8が使用されている。児玉氏がその導入経緯を語る。

「SD8は2008年に発売された当初、まずZepp東京とZepp大阪に導入しました。そして、最終的には全国のZeppで同じコンソールにしたいと考え、徐々に増やしていったものです」

▲コンソールにはDIGICO SD8を使用。全国のZeppで同じモデルが使われている ▲コンソールにはDIGICO SD8を使用。全国のZeppで同じモデルが使われている

全国のZeppで同じコンソールを使うのには理由がある。例えば、全国ツアーが企画されるときに、“Zeppなら、どの店舗でもコンソールはSD8”という状況が出来上がり、エンジニアは設定データを流用できるため利便性が高まるのだ。全国のZeppでJBL PROFESSIONALのスピーカーが使われているのと同じく、サウンド・カラーの統一という面でもSD8が一役買っているのではないだろうか。

▲SD8横のラックには、SUMMIT AUDIOのコンプ/リミッターDCL-200、KLARK TEKNIKのグラフィック・イコライザーDN370、マルチエフェクトのTC ELECTRONIC M2000×2、YAMAHA SPX2000×2、ディレイのTC ELECTRONIC D・Two×2をマウント ▲SD8横のラックには、SUMMIT AUDIOのコンプ/リミッターDCL-200、KLARK TEKNIKのグラフィック・イコライザーDN370、マルチエフェクトのTC ELECTRONIC M2000×2、YAMAHA SPX2000×2、ディレイのTC ELECTRONIC D・Two×2をマウント
▲コンソール左のラックの上に置かれたノート・パソコンには、ラインアレイ・スピーカーの設定を行うソフトウェアJBL PROFESSIONAL Performance Managerなどがインストールされている

そのほか、モニター用としてHOPS8、G712、Airline LA8などCODA AUDIOのスピーカーが採用されているのもトピックだろう。児玉氏によると「Zeppなんば大阪やZeppダイバーシティ東京で新しいジェネレーションの製品としてCODA AUDIOのモニターを使い始め、これから増やしていきたいと考えているところです」とのこと。これもまた一つ、Zeppのカラーを担う存在となっていくのだろうか。

▲ステージ・モニターはCODA AUDIO G712、CueOneなどが用いられている ▲ステージ・モニターはCODA AUDIO G712、CueOneなどが用いられている
▲モニター卓のYAMAHA PM5Dの下にはCAMCOのパワー・アンプD-Power 7が収められている ▲モニター卓のYAMAHA PM5Dの下にはCAMCOのパワー・アンプD-Power 7が収められている

ライブ・ハウスの名門としてサウンドのDNAを守り続けるZepp。その最終形、Zepp大阪ベイサイドの今後の展開に大いに注目していきたい。