さまざまな現場で信頼を集めるデジタル卓=YAMAHA TFシリーズ

第3回 TH HALL

YAMAHAのコンパクトなPA用デジタル卓=TFシリーズ。タッチ・パネルを中心とした快適な操作性や専用のAPPLE iPadアプリTF StageMixによるワイアレス・コントロールなど数多くの特徴を備え、主に中小規模のスペースやPAカンパニーへの導入が進んでいる。今回は大阪のライブ・ハウスTH HALLを訪れ、そこで愛用されているTF5について取材した。

デジタル卓の未経験者でも取っ付きやすい

TH HALL は、阪急・関大前駅のそばにあるオール・スタンディング280人のライブ・ハウス。店長兼PAエンジニアの山下氏が、お店について紹介してくれた。
「インディーズ・バンドや学生ミュージシャン、地元のアマチュア・バンドのほか、年に数回ですがプロの方々にも出演してもらっています。また、DJパーティやストリート・ダンスのイベントなどを手掛けることもありますね」

取材を行った日は、大学の音楽サークルが卒業生のフェアウェル・パーティを開いていた。「こうしたバンド数の多い催しがよくあるんですよ。スピーディな対応が求められるため、アナログ卓の“さまざまなパラメーターを瞬時に調整できるところ”が気に入っていたのですが、昨年TF5にリプレイスしました」

同店は、1996年のオープンから12年間YAMAHA M2000を使用し、以降の8年間はIM8を使っていた。数あるYAMAHAのデジタル卓の中からTF5を選んだのは、なぜだったのだろう?
やはりコスト・パフォーマンスが良いと思ったからです。例えばLS9は発売当初から導入を検討していましたが、僕もチーフ・エンジニアもデジタル卓でのオペレート経験が無かったため、“コストをかけてリプレイスしたところで使いこなせるのか……?”と、なかなか踏み出せないでいたんです。そう思っていたらTFシリーズが発売され、リーズナブルだったので俄然興味がわいたわけですね。仕様面についても、使いやすそうだと思いました。一つはタッチ・パネル。普段スマートフォンなどで使い慣れているため、それでオペレートできるなら取っ付きやすいと思ったんです。また、画面の階層構造もシンプルだろうと感じました。Webサイトなどを見て検討しましたが、使い始めてから“読みは当たっていたな”と。デジタル卓未経験者の我々でも、すんなり入っていけましたから

気になるパラメーターを瞬時に調整できる

TH HALLでは、TF5のどのチャンネルに何のソースを入力し、それぞれをどの程度のゲインで扱うかといったセッティングを“基本設定のシーン”として保存している。「タッチ・パネル右の“USER DEFINEDキー”を押して、すぐ呼び出せるようにしています。キーは全部で6つあり、そのうちの1つに基本設定をアサインしていますね」と話すのは、チーフ・エンジニアの前田誠也氏だ。

「基本設定を元に出演者に合わせた音作りを行い、そのセッティングを新規のシーンとして保存しています。また、音作りを終えたらUSER DEFINEDキーを押すだけで元に戻れるのも便利。アナログ卓の時代は、セッティングをメモして手動で戻して……とやっていましたが、その時間をほかの仕事に回せるのでありがたいですね」

クローズアップ・ポイントその① USER DEFINEDキー

▲タッチ・パネルの右側に配置されている6つのUSER DEFINEDキー。バンクAにお店の基本設定、バンクBに各出演者のセッティングをシーンとして保存し、各キーに割り当てている ▲タッチ・パネルの右側に配置されている6つのUSER DEFINEDキー。バンクAにお店の基本設定、バンクBに各出演者のセッティングをシーンとして保存し、各キーに割り当てている

任意パラメーターをアサインできる“USER DEFINEDノブ”も重宝していると、前田氏は続ける。
「USER DEFINEDノブは4つあり、選択中のチャンネルのゲイン、パン、ハイパス・フィルターのカットオフ、EQのQ幅を割り当てています。ノブを押し込むだけで、各パラメーターのエディット画面を立ち上げられるのが便利ですね。例えば、EQを調整した後に違うチャンネルのゲインをいじる必要が出たとすれば、“目的のチャンネルを選択してUSER DEFINEDノブを押し込む”という2ステップでエディット画面に飛べるわけです。リプレイス前は、幾つもの階層をくぐってパラメーターを探し、それからアクションを起こす……といった流れを想像して不安に思っていましたが、TF5なら瞬時に操作できます。気になるパラメーターにすっと手を伸ばしていた、アナログ卓のあの感覚とよく似ているんですよ

クローズアップ・ポイントその② USER DEFINEDノブ

▲タッチ・パネルの下に4つ並ぶUSER DEFINEDノブ。写真のようにノブを押し込むと、アサインしているパラメーターのエディット画面を表示できる ▲タッチ・パネルの下に4つ並ぶUSER DEFINEDノブ。押し込むと、アサインしているパラメーターのエディット画面を表示できる

iPad用のワイアレス・コントロール・アプリ、TF StageMixの存在も見逃せない。山下氏が語る。
「TF StageMixの画面は、卓のタッチ・パネルがそのままiPadに移ったと言うべき仕様です。フロアでオペレートできますし、出演者の要望にも対応しやすいので重宝しています。たまに“iPad眺めて何遊んでんの!?”って突っ込まれるんですけど、ちゃんと仕事してますよ(笑)」
山下氏は最後に「デジタル卓の未経験者にはもちろん、アナログ卓での経験が長い人にもお薦めできます」と総括。TFシリーズが、現場で信頼されるデジタル卓であることは間違いないだろう。

クローズアップ・ポイントその③ ワイアレス操作

▲チーフ・エンジニアの前田誠也氏が、TF StageMixを操作しているところ。このようにフロアへ出て音を微調整できるのが魅力だ ▲チーフ・エンジニアの前田誠也氏が、TF StageMixを操作しているところ。このようにフロアへ出て音を微調整できるのが魅力だ

【製品紹介】YAMAHA TF5 (オープン・プライス:市場予想価格500,000円前後)

32本のチャンネル・フェーダーを装備するデジタル卓。インプットは全48chで、本体には32個のマイク/ライン・インや2系統のライン・インL/Rを備える。出力系に関しては、ステレオとサブから成るメイン・バス、8モノラル+6ステレオのAUXバス、8つのDCAグループを実装し、本体に16個のライン・アウトを装備。チャンネル・プロセッサーのほか8基のプロセッサーを搭載し、多彩な音作りが行える。内蔵のUSBオーディオI/OをMac/Windows機に接続すれば最大34trの録音/再生が可能。本体のUSB端子では、外部のUSBストレージを用いて2trの録音/再生が行える。 32本のチャンネル・フェーダーを装備するデジタル卓。インプットは全48chで、本体には32個のマイク/ライン・インや2系統のライン・インL/Rを備える。出力系に関しては、ステレオとサブから成るメイン・バス、8モノラル+6ステレオのAUXバス、8つのDCAグループを実装し、本体に16個のライン・アウトを装備。チャンネル・プロセッサーのほか8基のプロセッサーを搭載し、多彩な音作りが行える。内蔵のUSBオーディオI/OをMac/Windows機に接続すれば最大34trの録音/再生が可能。本体のUSB端子では、外部のUSBストレージを用いて2trの録音/再生が行える。