

僕はもちろん、ほとんどの人がTRIDENT A-Rangeを触ったことがないと思います。しかしクイーンやデヴィッド・ボウイなどのレコーディングで使われてきた伝説的なコンソールの音は、多くの人が聴いてきたでしょう。そしてプラグインとして発表後、伝説になる理由を感じられるかなと試してみたら、想像以上に使いやすく好みの音が出せたんです。A-Rangeについて調べてみるとインダクターを使ったEQだったので、僕の好きなPULTECやECKMILLERなどと同じ感触があったんだと分かりました。
EQの効き具合は、緩めのQで周波数ポイントを中心として全体的にブーストされる印象で、それがすごく音楽に貢献するんです。ハイ/ローのシェルビングもトーン・コントロールのような使い方ができて気に入っています。独特なUIですが、トルクを感じさせるようなスライダーの動き方がまた良い。作った人は相当マニアックなんだろうなと、ニヤリとしてしまうプラグインですね。僕はマスターではなく楽器に使うことが多く、単体トラックやバスでまとめた先で、音を押し出したいときに重宝しています。使う音楽のジャンルは選ばないと思いますが、先人たちを振り返ると、やはりロックにはすごく合いますね。
製品ページ→https://www.mi7.co.jp/products/softube/arange/

実機であるVALLEY PEOPLE Dyna-miteは、先輩エンジニアたちが使っているのを見たのが最初でした。通常のコンプとしてより、ドラムの音をクラッシュさせるなど、特殊な役割を担うことが多かったです。このプラグインも発表後、当時の感触がよみがえるかと期待して試しました。Dyna-miteのキモである自動メイクアップ・ゲインの具合がとても忠実に再現されているように思います。
あまり広くないブースで録音されたドラム・アンビエンスや打ち込みドラムのアンビエンスなどは割と扱いに困ることが多く、ハード・コンプレッションやディストーションをかけたり苦労している人も多いのではないでしょうか?このDyna-miteのリリースを最速にして、スレッショルドを操作するだけで解決です。
僕は、ドラムのアンビエンスだけでなく楽器をまとめたバスにかけることもあります。アタックが速くリリースの音もうまくコントロールできるコンプレッサーはなかなかないのですが、これはそこがしっかりコントロールできる。毎日使うものではないですが、何かのタイミングで使わなくてはいけない機材というものがあって、その大事なところを担ってくれるプラグインですね。
製品ページ→https://www.mi7.co.jp/products/softube/dmite/
Profile
杉山勇司
SRエンジニアからキャリアをスタート。ナーヴ・カッツェ、ソフトバレエ、X JAPAN、寺島拓篤、花澤香菜、河村隆一など、レコーディング・エンジニア、サウンド・プロデューサーとして多数のアーティストを手掛けている。著書に『レコーディング/ミキシングの全知識』(リットーミュージック刊)、CD作品に『Temptations of Logik Freaks』(ビクター)がある(写真:佐藤みつぐ)
SOFTUBEとは……
2003年、オスカー・エーバリ氏によってスウェーデンのストックホルムで設立されたSOFTUBE。自社ブランドでの製品開発以外にも、MARSHALLやFENDERなどへのアンプ・モデリング技術提供や、PRESONUS、UNIVERSAL AUDIO、NATIVE INSTRUMENTSなどとの共同開発も行っている。詳しくはmi7.co.jp/softube
