関正道(DIGITAL SONIC DESIGN)が使う「Pro Tools」第1回

安定したPro Toolsシステムにする
設定上の注意点

皆さん初めまして! 今回サンレコでAVID Pro Toolsについて執筆の機会をいただき、とても感激しております!もう二十数年近くPro Toolsで制作してきた経験から幾つか書いてみたいと思います。

サンプル・ストリーミング系
ソフト音源のコンフリクトに注意

私の具体的なサウンド制作業務のキャリアは、本誌に掲載されていたゲーム会社のサウンド・クリエイター募集の広告が目に止まり、応募し、入社するところから始まっています。そこであこがれのPro Toolsとの出会いがありました。入社後、ほかのDAWにも触りましたが、自分にはPro Toolsが一番手になじむソフトでした。それから今日まで、Pro Tools一筋です!

私にとってPro Toolsが一番手になじむ理由としては、ゲーム会社在籍時オーディオを扱うことがメインだったため。効果音制作やセリフ音声編集でPro Toolsを使い始め、独立後、サントラを中心に音楽のマニピュレートを始めたわけですが、Pro ToolsのオーディオとMIDIのエディット・ツールが共通であることが一番の理由です。

さて、昔話が長くなってしまいましたが、2017年9月現在の私のPro Tools環境はソフトがPro Tools HD 12.8.1、ハードウェアがAPPLE Mac Pro(Mid 2012/2×2.4GHz 6-Core Xeon)にHDXカード×1枚とHD I/O、Sync HDです。

▲本誌6月号より、筆者のデスク。マルチディスプレイ環境で作業している撮影:菊地英二 ▲本誌6月号より、筆者のデスク。マルチディスプレイ環境で作業している
撮影:菊地英二
▲デスク下のラックには、Sync HDとHD I/O、パッチなどを収納している撮影:菊地英二 ▲デスク下のラックには、Sync HDとHD I/O、パッチなどを収納している
撮影:菊地英二

商業音楽の現場では、安定したOSとPro Toolsのバージョンのまま使い続けるスタジオが多いですが、私は新しいモノ好きでして、最新版をより早く安定させ乗りこなすことに興味があります。安定しない設定の組み合わせなども早めに知っておきたいと思う性分で、Pro Toolsを使っている作曲家からの相談もよく受けます。“Macが古いじゃないか!”と突っ込まれそうですが見逃してください(笑)。

結論から言ってしまいますが、劇伴音楽制作用システムでは、AAX準拠とはいえさまざまなメーカーのプラグインを同時に使用することが多く、完全に安定した動作をさせることはそう簡単ではありません。特にサンプル・プレイバック系のインストゥルメント同士だと、機能的に似ているためにサンプラー・エンジンの処理がぶつかったりすることで不安定になる場合があります。その場合はどちらかのプラグインをあきらめるか、どうしても同時に使いたい場合は物理的に別のコンピューターでホストを介して立ち上げるようにします。使用をあきらめることも、私は特にマイナスだとは考えておらず、むしろ毎回同じ音源ばかり使ってしまう方が自分の音をマンネリ化させてしまうので、あきらめて別の音源を探す!という行動の方が探究心から新しい自分の音を見つけられると感じます。

システム使用状況は常に監視
トラブルの原因を把握しておく

プレイバックエンジンの設定は“H/Wバッファサイズ”を大きめに取っています。リアルタイムでの演奏する方には遅延が大き過ぎる設定かもしれませんが、私の作業はエディット中心なので、余裕を持った値にしています。以前はここでの設定が使用できるプラグイン・インストゥルメントの数を左右していたのですが、現在はプラグイン用プレイバック・バッファーは内部で固定された値となっており、ここで設定する値はインプット・バッファーのみとなりました。また、動画を同期させないときはビデオ・エンジンも切っておきます。ボイス数は最大に。ディスク・プレイバックのキャッシュはMIDIをオーディオ化した後に効いてくる機能ですが、設定を“3GB”で使用してもまだ振り切った経験はありません。

▲プレイバックエンジンの設定(筆者は英語表示で使用)。MIDIのリアルタイム入力はしないので、中央のH/W Buffer Size(バッファー・サイズ)は高めの1,028サンプルに。Macの搭載RAMを64GBと多めにしているので、下段のDisk Playback(ディスク・プレイバック)は高めの3GBに設定している ▲プレイバックエンジンの設定(筆者は英語表示で使用)。MIDIのリアルタイム入力はしないので、中央のH/W Buffer Size(バッファー・サイズ)は高めの1,028サンプルに。Macの搭載RAMを64GBと多めにしているので、下段のDisk Playback(ディスク・プレイバック)は高めの3GBに設定している

次にI/O設定ですが、デフォルトでは内部のバスがかなり多めに設定されており、エディット画面でアウトプットを選択しようとするとズラーっと出てきてしまい、目的のバスを探すのに時間がかかってしまいますので、使用頻度に合わせて要らないバスは削除します。

そして私は作業するディスプレイを常に2枚使用していますが、システム使用状況のウィンドウは必ず片隅に置いて“あれ? 何か動きがあやしいぞ?”というとき、何が起こっているのか少しでも安定復旧へ向けてモニターするようにしています。CPUメーターが100%まで行ってクリップしていたり、どんな作業をしたときにそうなるのか、見届けておけば後の作業復帰の時間も短くなることでしょう。

▲システム使用状況。前ページのようにマルチディスプレイ環境を構築し、常に表示して監視しながら作業をしている ▲システム使用状況。前ページのようにマルチディスプレイ環境を構築し、常に表示して監視しながら作業をしている

ショートカットを覚えることで
クリエイティブな作業に時間を使う

続いてショートカットについての話題です。効率を上げるには、ショートカット・コマンドを覚えておくことが前提となります。Pro Toolsのショートカットは無数にありますが、速く操作できるということは、アイディアのトライ&エラーに挑戦する時間が増えるということ。繰り返し操作して覚えておいて損はありません。それから最近はAPPLE iPadアプリなどでコマンド・ショートカットを送ることもできますが、できればキーボードで覚えておきましょう。特にエンジニアを目指す方は、どのスタジオに行っても、ほかのハードを必要とせず操作できます。

ただし、私もカーソルのツール切り替えだけは、トラックボールのクリックにアサインして、切り替えています。これはSound Designer II時代からの慣れで、もう今更直すことができません。編集ショートカット・コマンド用に左手を空けておけるという利点はあります。

▲筆者の使用しているKENSINGTON製トラックボール、SlimBlade ▲筆者の使用しているKENSINGTON製トラックボール、SlimBlade

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▲KENSINGTON TrackballWorksという設定ソフトで、各ボタンにPro Toolsの編集ツール切り替えをアサインする。F6=トリマー・ツール、F7=セレクター・ツール、F8=グラバー・ツールというもっとも頻繁に切り替える機能は前のボタンに。後ろのボタンはF5=ズーマー・ツールとF10=ペンシル・ツールとしている ▲KENSINGTON TrackballWorksという設定ソフトで、各ボタンにPro Toolsの編集ツール切り替えをアサインする。F6=トリマー・ツール、F7=セレクター・ツール、F8=グラバー・ツールというもっとも頻繁に切り替える機能は前のボタンに。後ろのボタンはF5=ズーマー・ツールとF10=ペンシル・ツールとしている

20年以上使っていても、Pro Toolsのショートカットを新たに発見したりします。昔ゲーム会社の出張でアメリカでのMAに立ち会ったとき、ものすごいスピードでPro Toolsのショートカットを打つオペレーターの方がいました。話を聞いてみると、朝起きたら自宅でPro Toolsのショートカットを一通り全部練習してくるそうです! もうそれは魔法のように操作するので、“今のどうやったの?”って聞きまくっていました(笑)。

次回はそのショートカットや、具体的なMIDIエディットの話題を取り上げたいと思います。

*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja