お久しぶりです、HIEIです。少し前にChatGPTのスマホ用アプリがリリースされ、音声会話が普通にできるようになりました。僕は主に語学学習に使っているのですが、時々“Ah”や“Uh”なんかのつなぎ言葉を入れてきます。よく考えたらAIだからつなぎ言葉は必要ないだろうと思ったのですが、なんとなく音楽とノイズの関係に似ていると感じました。もしこれが意図的だとするとちょっと不気味ですね。さて、今回のテーマは“自動生成”です。
バージョン12の新機能“MIDI生成ツール” ドラムフレーズをランダムに生成できるEuclidean
まずは、強力な機能が詰まった近日リリース予定の新バージョン、Ableton Live 12から興味深い新機能をピックアップします。そしてLive SuiteにバンドルされているMax for Live(以下M4L)を使ったデバイスも紹介していきます。
非常に面白い新機能がLive 12 Standard以上で使用可能な“MIDI生成ツール”です。中でも興味深いのが“Euclidean”で、ドラムの各音の周期や位相をコントロールし、多様なフレーズを自動生成できます。特にリアルタイムで次々とフレーズを生成できる点が魅力的です。この機能はシンプルながら、生成されるリズムは想像を超える複雑さと面白さを持っています。
まず編集したいクリップを選択し、クリップの編集画面を開きます。
次にMIDI生成ツールを選択し、MIDI生成ツールセレクターからEuclideanを選択します。画面にパターンが表示されたら、Rotation、Steps、Density、Divisionの各パラメーターを設定し、Generateボタンをクリックすると、思いもよらないドラムフレーズが生成されるのです。Rotationは位相、Stepsは周期、Densityは周期内での音の密度、Divisionは分解能と考えると理解しやすいでしょう。画面中央のサイコロマークをクリックすると各パラメーターの値がランダムに変更され、新しいフレーズが次々と作られます。このEuclideanもM4Lで作られているようなので、これをベースにさらに発展させたデバイスの開発もできそうですね。
Euclidean以外にも似たような効果を得られる機能が用意されています。
先述のクリップ編集画面で、MIDI生成ツールセレクターからRhythmを選択してください。その下のタブでは、ドラムのサウンドを選びます。そしてSteps、Pattern、Density、Step Durationの各種パラメーターを操作すると、さまざまなフレーズが生成されていきます。
この機能の面白さは、リアルタイムでフレーズを生成できるため、ライブ演奏中でもリズムを柔軟に変更できるところにあります。セッションビューを使ってライブをしているとき、すぐに変化を付けたいけれど、目的のクリップを探している間にタイミングを逃してしまったということはないでしょうか? このMIDI生成ツールを使えばそんな問題も解決できそうです。もちろん曲作りにも使えますし、何より、思いもよらない音やフレーズが出てくるのは楽しいですよね。
MIDIデータを学習してソロフレーズを生成するオリジナルM4LデバイスMARKO5
過去2回と同様に、今回もM4Lを活用したサンプルデバイスを作成しました。リアルタイムで自動的にソロフレーズを生成する“MARKO5”です。これを使うと、MIDI鍵盤を適当に弾くだけでかっこいいソロフレーズが演奏できてしまいます。しかもお好みのMIDIデータを読み込んで学習させるとそれに似たフレーズが生成されるので、モーツァルト風やビル・エヴァンス風など、好みの作曲家や演奏者のようなフレーズが簡単に生成できます。適当にキーボードを弾きながらうまく表情を作れば、本当にすごいソロを弾いているようにも見えるかもしれません。では実際に使ってみましょう。
【準備】M4LのWebサイト内にある筆者のページ(https://maxforlive.com/profile/user/hiei)から“181-MARKO5 automatically generate a solo phrase”という欄をクリックしてM4Lデバイス“MARKO5”をダウンロードします。
Liveを立ち上げて、MIDIトラックにダウンロードした“181marko5.amxd”ファイルとお好みのインストゥルメントをインサート。
続いて、トラックのアームをオンにして録音待機状態にするか、MonitorのステータスをInにしてMIDI入力を受け付ける状態にします。これで準備完了です。
【使い方】お好みの曲のMIDIデータをMARKO5の”Drop MIDI file”枠にドラッグ&ドロップして読み込みます。
しばらくして“Analyzed”と表示されたら分析完了です。MIDIキーボードを接続して弾くと、どこを弾いたかに関係なく、読み込んだMIDIデータのスタイルに沿って自動生成されたフレーズがリアルタイムで演奏できます。生成されたノートはデバイス上の鍵盤に表示されるため、どのような音符が生成されたかも確認可能です。MIDIデータを読み込まないで演奏した場合、デフォルトであの有名作曲家のようなフレーズが生成されます。ぜひ試して誰か当ててみてください。
【注意】MARKO5はソロフレーズの生成に特化しており、和音には非対応です。そのため和音のMIDIデータを使用する場合、単音のメロディまたはソロパートのみを抽出したMIDIデータをMARKO5に読み込むようにしてください。
【原理】原理を説明する前に、一つ質問させてください。“今日は天気が良かったで○”の○に入る文字は次のうちどれでしょうか?“す/か/は/ん”。よほど特殊なコミュニケーションでない限り、普通は“す”を選びますよね。文法を考えずとも経験上最も自然ですし、統計的にも“す”が選ばれる確率が最も高いはずです。このアプローチを音楽に応用したらどうでしょうか? 例えば、モーツァルトが特定の曲で“ド”の後に最も頻繁に選ぶ音は何か? ビル・エヴァンスの演奏で“ドレ”と続いた後に最も選ばれる音は? 2つの音が連続した場合の確率を計算することで、演奏者の個性がより明確に浮かび上がります。MARKO5は、このようなアルゴリズムを採用しました。もちろん実際はスケールや和音、旋律との関係など、もっと複雑なのは言うまでもありません。ただ、確率論だけでも結構面白いフレーズが作り出せます。
3回にわたる連載で、M4Lを使うと可能性が広がることがお分かりいただけたでしょうか? 以前、肢体不自由の子どものためのデバイスを開発していたのですが、公開したデバイスたちにはそういう思いもあり、福祉の分野でもLiveが活用できると思っています。多様な可能性が詰まったM4L。興味を持った方は、この機に挑戦してもらえるとうれしいです。
HIEI
【Profile】テクノロジーとサウンドをテーマにさまざまなアプローチで作品を制作。2007年King Street Soundsからのリリースをきっかけに、macrophage lab.名義でディープハウスを中心に作品をリリース。また、Ableton Liveによるライブパフォーマンスや、Cycling '74 Max、Max for Liveを使用したサウンドアート作品、インタラクティブ作品を制作する。
【Recent work】
『THE SEQUENCE』(2021)
HIEI
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13〜13、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1プロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境