SENNHEISER&NEUMANN インタビュー 〜 アジア責任者が語るプロ・オーディオ事業への選択と集中

SENNHEISERのAsia Pacific担当副社長ヴィンス・タン氏(写真左)とNEUMANN のAsia Pacific販売責任者兼営業開発担当ランス・リム氏が来日。SENNHEISERグループの今後について話を聞いた。

プロ・オーディオ事業への集中投資する理由

─ SENNHEISERグループは、プロオーディオ/ビジネスコミュニケーション/NEUMANNに集中投資すると発表されました。その理由について教えてください。

ヴィンス・タン(以下、タン) 弊社は業務用から民生用機器まで展開していましたが、民生用は製品のライフサイクルが短いため、業務用との生産を同時に進めにくい状況にありました。そこでスイスのSONOVAという良いパートナーに民生事業を売却し、本来我々のコアな部分である“プロオーディオ”と“ビジネス機器”、そして“NEUMANN”の3つの事業に集中することにしたのです。

─ MERGING TECHNOLOGIESを傘下に収めたのも、その戦略の一つでしょうか?

タン はい、そうですね。SENNHEISERにはNEUMANN、イマーシブ・オーディオメーカーのDEAR REALITYが傘下に入っていましたが、新しくAD/DAコンバーターやAES67のノウハウがあるMERGING TECHNOLOGIESが加わりました。

ランス・リム(以下、リム) 我々がMERGING TECHNOLOGIESと協業することで、プレミアムなマイクからオーディオインターフェース、スピーカーまでを、NEUMANNが提供できるようになります。今後はプロオーディオに関する顧客のニーズを包括的にカバーしていく予定です。

Ravenna/AES67に標準対応したオーディオインターフェイスMERGING TECHNOLOGIES HAPI MkII

─ 現在の生産拠点はどこですか?

タン SENNHEISERの生産拠点は、ルーマニアのブラショフとアメリカ・ニューメキシコ州のアルバカーキ、ドイツのハノーファーが中心です。初心者向けの製品については台湾などでも作ることはあります。ちなみに仕様決めや設計を行っているのは本社(ドイツのヴェーデマルク)です。

リム NEUMANNの生産拠点はドイツで、マイクに関してはハノーファーで高い技術を持つ職人が一本ずつ手作りしています。MERGING TECHNOLOGIESの生産拠点はスイスですが、今後の生産キャパシティを増強するために工場を探しているところです。ただしスペシャルな品質を維持するためにもヨーロッパでの生産は欠かせないですね。

ヴィンス・タン氏(左)とランス・リム氏(右)

─ SENNHEISERとNEUMANNの両ブランドからマイクやヘッドフォンがリリースされていますが、すみ分けはどのようにされていますか?

タン 我々は競合するのではなく、同じSENNHEISERグループとしてお互いを補完し合いながらお客様に満足いただける製品をリリースすることがハッピーだと考えています。例えば、NEUMANNのヘッドフォンNDHシリーズは、業務用から民生用までヘッドフォンの開発を手がけてきたSENNEISERの経験が生かされています。NEUMANNのマイクカプセルKK205などは、ハンドヘルド・ワイヤレスマイクSENNHEISER SKM 2000やSKM9000用に特別に開発されました。このような製品を生み出せるのも我々の強みです。どちらのブランドにフィットするか判断しながら全体として良いソリューションを提供できればと考えています。

NEUMANN NDH 20(左)、SENNHEISER KK 205(右)

過去と未来に向けたプロダクト

─ SENNHEISERがイマーシブオーディオに力を入れているのはなぜでしょう?

タン 未来のサウンドは何か?と追求した結果がイマーシブサウンドでした。弊社ではAmbisonicsに力を入れていて、これまでリリースした製品はVRマイクAmbeo VR MicとヘッドセットAmbeo Smart Headset(生産完了)の2つです。

SENNHEISER Ambeo VR Mic

タン 今後はヨーロッパの自動車メーカーと共同で、Ambeo Mobility Audioという車内でイマーシブ・オーディオを楽しめるソリューションを提供する予定です。最近ではNetflixとのコラボによって『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4などがAmbeo 2-Channel Spatial Audioに対応しました。どうしたらエンドユーザーがよりよいイマーシブサウンドの体験ができるかについてDEAR REALTYと協議しているところです。

─ 一方NEUMANNではM 49 Vや U 67など、レガシーなマイクが多く復刻しています。

リム NEUMANNは由緒ある伝説のマイクブランドであるということを業界の方々に再認識してもらいたいという強い思いがあるからです。多くの模倣品が出回っていますが、我々にはオリジナルの設計図があり、今でも作れることを示しておきたいという狙いもあります。

NEUMANN M 49 V(左)とU 67(右)

─ NEUMANNサウンドにはどんな特徴があるとお考えですか

リム 例えばM 147のように非常に温かみがあったり、U 87のようにクリアさが特徴であったりと、さまざまキャラクターがあるので答えるのが難しいですが、ザ・ビートルズやフランク・シナトラも使用したマイクで、数々の名曲を生み出したサウンドであるということ、そしてレコーディング・エンジニアのさまざまな要求に応えられるサウンドであると考えています。

ライブ市場に向けたMiniature Clip Mic System(MCM)

─ NEUMANN製品では、Miniature Clip Mic System (以下、MCM)も発売が開始されました。

リム MCMはライブ・エンターテインメント市場に向けたマイクカプセルです。ドイツ・ベルリンでのハンドメイド仕上げで、小型でありながら高音質でフラットな周波数特性が特徴です。他社製品では、感度によって2つのマイクカプセルが必要になる場合もありますが、MCMはSPL値(対応できる音圧レベル)が高いのでバイオリンからドラムまでこれ一つで収音することが可能です。高温多湿に対しての耐性もあり、ハウジングはチタン製で堅牢製も備えています。

NEUMANN Miniature Clip Mic System

─ このサイズでNEUMANNサウンドが手に入るのは驚きですね。

リム MCMは先行して2022年冬の大型スポーツイベントや、アメリカのNFL Honorsのユースオーケストラなどでも使用されました。サウンドエンジニアから良い反応をいただいており、我々も満足しているところです。

アジア太平洋地域のユーザー特有の傾向

─ お二人はアジア太平洋地域をご担当されていますが、アジアからはどんなリクエストがありますか?

タン 多くのリクエストはサウンドよりも物理的な部分ですね。例えば、日本国内で使用されている1.2GHz帯に対応したワイアレスシステムや、小型で軽量なハンドヘルド・マイクが欲しいという意見です。最近はアイドルの活躍に伴い、ヘッドセットの需要が増えています。サングラスやヘルメットと同じようにヘッドセットにもアジアンフィット・モデルが欲しいという要求も、日本を含めアジア全体からいただいています。

リム アジア太平洋という地域はインドからオーストラリアまで含んでいて、人も文化も非常に多様性に富んだエリアですので、ユニークなリクエストも多いです。我々はそのようなニーズに対して深く理解するように努めています。

製品情報

関連記事